表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退した最弱中年探索者、AIと融合して全属性魔法を極める  作者: 甲賀流


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/21

第14話 ユニークキー



 

 

 ――数日後

 

 

 午後の日差しが、カフェの大きなガラスを透けて差し込んでいた。

 探索者たちが集う人気店「ルミナス・ロッジ」。

 俺とカイは、店の奥のテーブル席に腰を下ろしていた。


「……緊張してんのか?」


「と、当然です! だって、あの朝霧澪ですよ!?」


 カイは小声で言いながら、カップを持つ手を震わせていた。

 陶器がカタカタと音を立てる。


「有名なBランク探索者です。協会のモデルとして広告にも出てるし、探索者向けの番組でも常連! しかも顔もスタイルも完璧って……反則でしょ」


「……まぁ、有名人だからな」


 俺は苦笑した。

 だが俺にとっては――ただの幼なじみ。

 真面目で努力家で、いつだって前を向いていた。


 カラン、とドアの開口音が鳴る。

 

 次の瞬間、店内の空気がわずかに張りつめた。


「……おい、あれ朝霧澪じゃね?」

「マジか、本人だ。超綺麗……」

「えっ、撮影? それかプライベートとか?」


 ざわめきが波のように広がる。

 視線が一斉に、店の入り口へと集まった。


 白いブラウスに淡いベージュのカーディガン。

 髪はゆるく巻かれ、光を受けて柔らかく揺れている。


 派手さはないのに、なぜか目が離せない――


 それが、今の朝霧澪という存在だった。


「お待たせ、碧斗くん。えっと、カイくんだよね? 碧斗くんと一緒にダンジョンに参加するっていう」

 

「は、はいっ! 初めまして! あの、いつも拝見させてもらってます……!」


 カイが裏返った声を出す。

 澪はふっと笑い、穏やかに言った。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私、ただの探索者だから」

 

「た、ただのって……そんな……!」


 彼女の声はやわらかく、空気をほぐすようだった。

 その自然体な優しさが、昔から変わらない。


「久しぶりだね、碧斗くん」

 

「あぁ。久しぶり、澪ちゃん」


「……といっても、三ヶ月くらい?」


「そうだね」


「あの時は、高良くんがごめんね」


 澪は立ったまま、目を伏せる。


「いいよ、気にしないで。高良が俺を嫌うのは、当然のことだろうし」


 弱い奴が嫌い――


 それは更新試験の時に、高良から嫌というほどに感じさせられた。


 一度探索者を辞めた男に対して、嫌悪感を抱くのは仕方ない。


「い、一度座って、話、しません?」


 カイがそう言う。

 俺たちの顔を交互に見ながらアタフタしながら。


「ごめん、澪ちゃん。座ってよ」


「あ、うん。じゃあそうさせてもらうね」


 ぎこちない空気。


「おい、誰だよあの男二人」

「なんか一人は知り合いっぽかったぞ」

「あの朝霧澪に時間を使わせるとか、どんだけ贅沢な奴らなんだよ」


 そして周りからの視線も痛い中、


 ようやく話し合いが始まったのだった。



 三人分の注文が届いた。

 コーヒーの香りがゆっくりと立ちのぼる。

 

 まず初めに俺は、彼女に対して一番気になっていたことを切り出した。


「そういえば澪ちゃん、なんで俺たちの応募に参加してくれたんだ?」


「えっ……」


 澪が一瞬言葉を失う。

 視線を泳がせ、頬がほんのり赤く染まった。


「あ、いや……だって澪ちゃんって、めちゃくちゃ忙しいイメージだったからさ。参加してくれたこと自体ビックリというか……」


 困った顔の彼女を見て補足を加えたが、少し言い訳っぽくなってしまう。


「えーっと……そのね、碧斗くんが募集してるのが珍しくて。ちょっと気になっちゃって。あ、でも別に深い意味とかじゃなくて……!」


 慌てたように言葉を重ねるたび、頬の赤みが増していっているように感じる。


 恥ずかしいことを言わせたのなら、申し訳ない。

 誰にでも言いたくないことはあるだろうし。


 一方でカイが隣でニヤリと笑った。


「へぇ〜……そういう感じなんすね」


「なにがだよ」

 

「いえいえ、なんでもないです!」


 俺が眉をひそめると、澪は赤い顔のまま走り口調で言葉を話す。


「と、とにかく! これから挑むパーティ用ダンジョンの話をしよ! ねっ!」


 焦ったように話題を変えるその様子に、カイがクスクス笑いを漏らす。


「ちょ、カイ。失礼じゃないか」

 

「いや、だって……澪さん、こうやって話すと、普通の女の子なんだぁと思いまして」


「……カイ。澪ちゃんは歳上だぞ」

 

「へへ、すみません!」


「気にしなくていいよ。私も、気軽に話してくれる方が、ありがたいし」


 やれやれと息をつく俺を見て、澪もようやく小さく笑ってくれた。

 


「じゃあ、さっそくダンジョンの話をしよっか」

 

「そうだな」


 カイも真剣な面持ちになり、やっと話し合いらしい空気になる。


「えっとまずカイくん、パーティ用ダンジョンって碧斗くんから説明受けたりしてる?」


「えっ、まぁチラッと聞きましたけど……内容は、その……あんまり覚えてません」


 申し訳なさそうに俺に視線を送り、


「すいません」


 と、カイは小さく呟いた。


「大丈夫だよ」


 オレの代わりに澪が返事、彼女はカイが見やすいようにタブレットを正面の机に置く。


 そこには、分かりやすく整理されたソロ用、パーティ用の違いについて資料が映されていた。


「ダンジョンはC級以上になると、ソロとパーティ用に分かれるの。もちろん今回挑むのはパーティ用。五人以上で挑むことが条件で、個人の実力より連携と支援が重視されるわ」


 カイが真剣に聞き入る。

 澪の声は明確で、理路整然としていた。


「現状だと――カイくんが前衛攻撃型、碧斗くんが中衛攻撃型。私は中衛攻撃兼支援。だから残りは、回復支援できる後衛と、防御支援ができる盾役。この二人が揃えば、スムーズに攻略できるはず」


「すぐに見つかるだろうか?」

 

「うん、心当たりがあるから、声をかけてみる」


 そう言って澪は微笑んだ。


 さすがベテラン探索者。

 参加してくれる側の澪に頼りきりなのは申し訳ないけど、ここは彼女の笑顔に甘えてしまうが吉か。


 しかしこれ以上は話すことがない。


 なぜならパーティが揃うのももう少しかかるだろうし、まず肝心のパーティ用C級ダンジョンが、今のところ発生していない。


 一応協会にも希望ダンジョンとして登録したので、あとは発生を待つのみ。


「えっと、とりあえず一旦解散かな?」


「うん、そういうことになる」


「じゃ、また準備が揃い次第ですね」


 ということで俺たちは軽く世間話をしたのち、カフェを後にした。



 * * *



 カフェを出たあと、夜風が頬を撫でた。

 澪、カイと別れ、一人になった俺は空を見上げる。


「……もうすぐ日が沈む」


 太陽が落ちていく中、俺は腹部にそっと触れた。


 たしかに弾む拍動を感じながら、実感する。


 ようやくここまで来たんだと。

 10年間届かなかったCランク探索者に、もうすぐ手が届く。


 これから一歩一歩、強くなるんだ。


『ホスト。数日間、未読になっているログがあります。お手隙の際、ウィンドウをご確認ください』


 感傷に浸っているところに、アルゴの声が響く。


 ちょっと気分を害された気がしたが、そういえばこの前ダンジョンをクリアした時、お知らせがあるとか言っていたことを思い出した。


「わかった、今見る」


 視界の端、未読のログについての欄に意識を集中させる。

 すると淡いウィンドウが浮かび上がった。

 


───────────────

 【ユニークキー条件:レベル25達成】

 ユニークダンジョンクリアでユニーク職への進化権を獲得できます。

───────────────



「ユニークキー?」


 そういえばユニークダンジョンをクリアした時、そんな表示が一瞬だけ出ていた気がする。


「それにユニーク職って……」


 胸がざわつく。

 不思議な期待が、じわりと広がっていく。


 探索者に職なんて存在しないが、


「……面白そうだな」


 自然と笑みがこぼれた。


「さっそく、帰ったら使うか」


 夜の風が髪を撫で、遠くの街灯が瞬く。



 * * *

 


 その頃、朝霧澪は――

 

 カフェからの帰り道。

 私はひとり、薄暮の街を歩いていた。


 碧斗くん……本当に前を向いてくれたんだね。


 心の奥に、あたたかいものが灯る。


 けれど、同時に別の思いがよぎった。


 高良くん……あの人が試験官だったって本当なの?


 あれだけ碧斗くんのことを嫌ってた彼が、ただ素直に合格させたとは思えない。


 高良くんに直接聞いてみたけど……。


『……別に、なんもなかった』


 それ以外答えてくれなかった。


 本当に?


 その時参加してた他の人に聞いたけど、二人でCランクダンジョンに行ったって聞いたよ?


 ここから考えられることは一つ。


 高良くんはCランクダンジョンの攻略を、試験の合格基準にした。

 そして碧斗くんは見事クリアした。


 碧斗くんには悪いけど――Cランクダンジョンを、君が一人で攻略できるとは思えない。


 少なくとも引退した頃の実力では。


「碧斗くん……君の身に、一体何が起こってるの?」


 私は小さく息を吐き、夜空を見上げた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ