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亡き前妻だけを愛する王よ、わたくしはもう、あなたを必要としない~白雪姫の継母に転生したので、鏡と義娘と生きていきます!~  作者: 赤林檎


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25.世界で一番美しい(下)

 大聖堂には、ブランカの立太子式の時と同様、国内の主だった貴族たちや、近隣諸国からの使節団、そして、各商業ギルドのギルドマスターらがすでに集まっていた。


 わたくしは控室で、銀の糸で繊細な刺繍が施されたウェディングドレスを身にまとい、ブランカが作ってくれた春の花で作った冠を頭に載せていた。


 ラルフもまた銀糸で刺繍がされた白い王族服を着て、かつて鏡だったとは思えないほど堂々とした姿で、わたくしの隣に立っていた。


「ありがとう、ラルフ。あなたが本当に人間になって、わたくしの王配になってくれる日が来るなんて……。本当に嬉しいわ」


「こちらこそ、ありがとう。私はやっと、あなたの配偶者になれる。とても幸せだよ」


 ラルフの深い蒼の瞳は、まっすぐにわたくしを映していた。


 ラルフの眼差しがあまりに熱っぽいから、わたくしの頬まで熱くなってしまう。


「わたくしも幸せよ。わたくしの伴侶として、これからもずっと一緒にいてちょうだいね」


「ああ、もちろんだ。私はそのために人間になったのだからな」


 ラルフはわたくしの白い手袋に包まれた手を取ると、手の甲に口づけを落とした。


 もうすぐ結婚式が始まるというのに、ラルフったら、なにしてくれちゃっているのよ!?


 わたくしの顔は絶対に真っ赤になってしまっているわ!


 ああ、でも、わたくしがちょっと恥ずかしい以外には、なにも問題ないわね。


 わたくしが王配に夢中だと知れ渡らせるために、こうして大々的に結婚式をするんですもの。


 むしろ、これで良かったのかもしれないわ。





 大聖堂での儀式が終わって夜になると、わたくしとラルフとブランカは王宮の尖塔に登った。


 中央広場に集まった民たちが、わたくしたちを祝ってくれている姿を見たかったのよ。


 中央広場では火が焚かれて、民による音楽隊が女王の結婚を祝う曲を次々と演奏していた。


 何人もの民たちが火を囲み、どうやら思い思いに踊っているようだった。


 きっと地方から来てくれた者たちが、それぞれの地元の踊りを披露してくれているのね。



「お母さま、今日は特にお綺麗でした」


 ブランカがわたくしを見上げて、嬉しそうに笑った。


「ありがとう、ブランカ。あなたもドレスがとっても似合っていたわ」


 結婚式では、ブランカには黄色と青のドレスを着てもらった。前世で見た『白雪姫』のイメージで仕立てたドレスよ。ずっと前からブランカに着てみてもらいたかったのよね。


 ブランカはさすが本物の白雪姫という似合い方で、わたくしはかなりニヤニヤしてしまったわ。



 夜空に無数の花火が打ち上がり始めた。


 光の花が咲き誇り、城と街を照らしていく。


「お母さまと王配殿下には、これからもずっと幸せでいてほしいです」


 ブランカがわたくしとラルフを見比べて、恥ずかしそうに言った。


「ありがとう。ブランカも一緒に幸せになるのよ」


 わたくしはブランカを抱きしめた。


 ブランカもわたくしを抱きしめ返してくれる。


「ああ、そうだ。私たちは三人で家族だ。みんなで一緒に幸せになろう」


 ラルフが両腕を大きく広げて、わたくしたちを二人まとめて抱きしめてくれた。





 ――この国に、また冬がやって来た。


 女王宮の窓の外では、雪が音もなく舞い落ちていた。


 わたくしの居室では、暖炉の火が、ぱちぱちと小さな音を立てている。


 侍女のアンナは、紅茶を淹れるのがすっかり上手くなっていた。


 金で縁どられた白いティーセットからは、紅茶の香りと白い湯気が立ちのぼる。


 テーブルの中央では、今日のおやつのアップルパイが、甘い香りを漂わせていた。


 ブランカは語学の授業が終わり次第、こちらに来ることになっている。来るのが遅れているということは、先生になにか質問しているのだろう。ブランカは本当にわたくしのような女王になりたいらしく、女王教育でいろいろなことを知れるのが嬉しいらしい。勉強熱心なのは良いことだわ。


「ねえ、ラルフ。どうして今でも、わたくしのことを何度も『美しい』と言ってくれるの?」


 わたくしはカップをソーサーに戻しながら、隣に座るラルフに問いかけた。


 ラルフは今も人間として、わたくしの傍らにいてくれる。


「どうしてだって? そんなことは当たり前だろう? まったく困った女王陛下だな……。わざわざ言わせたいのか?」


 ラルフはからかうように片眉を上げた。


 ブランカが来るまでは夫婦の時間ですもの。


 ちょっとくらい甘えたっていいじゃない?


「ええ、ぜひ聞いてみたいわ」


 わたくしもいたずらっぽく笑ってみせた。


 ラルフはわざと困ったような顔をする。


 そんな顔をしたってダメよ。


 わたくしの王配殿下が、わたくしを甘やかすのが大好きだということは、すでに国中に知れ渡っているもの。


「私があなたを心から愛しているからだ。知っているだろう?」


 ラルフの穏やかな笑い声が、わたくしの心を満たしていく。


 わたくしはラルフの肩にもたれて静かに目を閉じた。


 ルドルフに否定され、鏡だけに本音を吐露していた、長くて辛い日々。


 今では、あの日々が、まるで遠い夢のように感じられる。


 わたくしは今も女王として、政務に向きあう日々を送っていた。


 民が穏やかに暮らせて、飢えも、疫病も、戦も起こらないようにと、心から願いながら――。


 こうしてラルフと何気ない言葉を交わせる時間は、わたくしの疲れた心身を癒してくれる。


 今でも、わたくしはラルフの前でだけは、何者でもない、ただのわたくしのままでいられる。


 かつてラルフは鏡の姿で、わたくしを励まし続けてくれた。


 人間になった今も、ラルフの心は変わることはなかった。


 ラルフはいつだって、わたくしの味方でいてくれる。



「世界で一番美しいのは、女王陛下、あなただ。今までも、これからも、ずっと――」



 ラルフの唇が、わたくしの髪に触れる。


 わたくしは、この国の民たちに敬愛され、娘に慕われて――。


 もはや悪役の『白雪姫の継母』ではないもの。


 拷問死エンドを迎えることなんて、きっとないわ。

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