25.世界で一番美しい(上)
ラルフが人間になってくれた夏が過ぎ、秋と冬を越えて、また春がやって来た。
王都には花が咲き誇り、まだ少し冷たい風に花びらが舞う。
そんなある日、わたくしの二度目の結婚式が大聖堂で催された。
大々的に結婚式をすると決めたのは、わたくしだ。
『この国の女王には、すでに王配がいる』
このことを、国内外に示したかったのよ。
『女王の男』になろうとしていた男たちも、これで少しは減ってくれるだろう。
この男はどこのまわし者だろう、なんて考えながら会話するのも、だいぶ疲れてきていたのよね……。
わたくしとラルフの婚姻は、政略も打算も一切ない。
ただ愛によって結ばれるもの。
他者の入り込む隙なんてないのよ。
ラルフが人間になってくれた、あの日――。
わたくしは騎士団に行って、『記憶喪失の元孤児』が着られそうな騎士服を借りてきた。
そして、わたくしは騎士団長や副団長に頼んで、騎士団でラルフの世話をしてもらうことにした。
ラルフは鏡から人間になっただけあって、なにかが人間とはちょっと違う気がしたのよね……。
なにがどうとは、具体的には言えないんだけど……。
騎士団でなら、ラルフに人間の男性について学んでもらえると思ったのよ。
まあ……、わたくしはラルフが元は鏡だったと知っているから、気にしすぎているのかもしれないし……。
ラルフは鏡として人間の暮らしを見てきたから、『記憶喪失の元孤児』としてなら、おかしくない程度ではあったんだけど……。
やっぱりいろいろ心配だったから、ラルフには人間の勉強も兼ねて、騎士団に入団してもらった。
ラルフは鍛えられた肉体を持っているだけでなく、武芸にも秀でていた。騎士団の入団試験を楽々通過して、むしろそのせいで怪しまれていたわ。
一部の者たちは、ラルフについて、わたくしの暗殺に失敗した、凄腕の元暗殺者だろうと噂したくらいよ。
わたくしとラルフの関係は、『女王が拾った元孤児を気にかけて騎士にし、騎士団の訓練を見に行ったりしているうちに、その元孤児と恋仲になって婚約までしてしまった』というストーリーで通してきた。
そのストーリーに『実は、元孤児は暗殺者で、女王が美しかったから、殺すことができなかったらしい』という噂話が、小声で付け加えられることがあったのよね。
『美しいから殺せなかった』って……、それって『白雪姫』の狩人のエピソードが入ってない……?
『運命の強制力』は、まだなんとか自分の仕事をしようと頑張っているのかな……、なんて思ってしまったわ。
あの日、刺客を捕らえた衛兵たちの間では、ラルフはわたくしが作った『宦官による特務機関』の人間だと思われたままだけど……。衛兵たちは口が堅いようで、その噂は広まっていなかった。普通は『女王直属の特務機関がある』なんて噂を流したら、女王が噂を流した人間ごと消しにかかるものね……。衛兵たちだって命が惜しいわよね。
ラルフは、最初は一部の貴族たちから『あの男は、自分たちとは別の派閥が、女王の寝所に送り込んだのではないか?』と疑われていた。
けれど、どれだけ調べても元孤児という以上の情報が出てこなかったことや、ラルフがわたくしの護衛はしても、政務や人事に口を出したり、人を推薦したりしていないことを知り、女王に気に入られた『ただの美形の元孤児』だと納得してくれたようだった――。




