10.まるで本物の親子のように
わたくしは、もう『悪役の継母』ではなくなっていた。
かわいいブランカと、母娘として共に歩んできた。
笑いあい、手を取りあって、お互いの心を少しずつたしかめながら――。
そんなある日、ブランカが遠慮がちに言った。
「お母さま……。もしお母さまが許してくださるなら……。わたくしはお母さまを、継母ではなく、本物のお母さまとして、『お母さま』とお呼びしたいです……」
その言葉が、わたくしにとって、どれほど嬉しかったことか……。
とても言葉にはできないわ。
「継母ではなく、本当の母として……、わたくしを『お母さま』と呼んでくれるというの?」
「はい」
ブランカは頷き、そっとわたくしの手を握った。
「もちろん……。もちろん、いいわ」
ブランカの手は、小さくて、温かくて、柔らかかった。
わたくしは、この喜びを鏡に伝えた。
「……わたくし、この世界で、ずっと一人ぼっちのような気がしていたの」
誰にも必要とされず、ただ政務をこなすだけの日々。
ルドルフに罵られながら、息を潜めて生きていた、あの頃。
ブランカにも嫌われていると思っていた。
けれど、今は違う。
『あなたは一人ではない。私がここにいる。ブランカ王女殿下もいる』
「ええ、そうよね」
わたくしは、もう孤独ではないわ。
いつだって鏡がいてくれる。
かわいいブランカがいてくれる。
『あなたは誰よりも強く、美しい』
鏡の低くて穏やかな声は、わたくしの心の奥へと染み渡っていった。
その頃から、ルドルフは焦りを見せ始めた。
わたくしとブランカが、まるで本物の親子のように寄り添う姿に、苛立っているようだった。
ある日、ルドルフはわざわざ第二王妃宮のわたくしの居室まで来て、勝手なことを言い始めた。
「ブランカは、この私とウィルマの娘だ。醜悪な君が、勝手に距離を詰めるなど、やめてもらいたい!」
「承服しかねます。ルドルフ国王陛下は、ブランカの心に寄り添ったことがおありですか? わたくしがこの国に嫁いで来てから、陛下がブランカに寄り添っている姿など、一度も見たことがありませんが……」
わたくしはルドルフの暴言に、一切の感情を交えず言い返した。
ルドルフの顔が強張る。驚愕と羞恥が入り混じった、見るに耐えない、それこそ醜悪な表情だった。
「私の娘をどうするつもりだ!? 所詮、君にとってブランカは『義理の娘』にすぎないだろう! 君の出過ぎた行動は、本当の親である私たちの目に余ると言っているのだ!」
私たちって誰のこと?
ルドルフとウィルマ前王妃なのかしら?
亡くなったウィルマ前王妃と連絡でもとってるの?
「ブランカを傷つけることは許さないっ!」
ルドルフが怒鳴る声は、どこか虚ろだった。
わたくしはもう、ルドルフの声に怯えたりなんてしないわ。
わたくしが、いつブランカを傷つけたりしたというのかしら?
二人で一緒にお散歩して、絵本を読みあって、お手紙を書きあって……。
わたくしたちは、毎日とても仲良く過ごしていますけど?
「わたくしは、あなたがずっとわたくしへの『攻撃の材料』として扱ってきたブランカを、心から愛しただけですわ」
ルドルフはわたくしの言葉に、なに一つ言い返さず立ち去った。
その沈黙こそが、ルドルフの敗北を物語っていた。
わたくしは以前とは違うの。
適当なことを言ってきたら、言い返すわよ!




