表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡き前妻だけを愛する王よ、わたくしはもう、あなたを必要としない~白雪姫の継母に転生したので、鏡と義娘と生きていきます!~  作者: 赤林檎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/35

9.噂は間違いだと示していく

 第二王妃宮の一角にある、小さな茶会室の窓辺には、猫足のテーブルと椅子が置かれていた。


 テーブルの上には、簡素ながら丁寧に磨かれた銀のティーセットが並ぶ。


 わたくしは、静かに紅茶を淹れる若い侍女の手元を見つめていた。


「アンナ、もう少し茶葉を蒸らしてからお湯を注ぐと、もっと香りが立つわよ」


 そう声をかけると、アンナはびくりと肩を震わせた。


「……あっ、はい、申し訳ございません、王妃殿下」


 アンナはわたくしをとても恐れている。


 無理もないわよね。


 この国の誰もが、わたくしを『冷たい継母』と噂しているのだから。



『氷のような目』


『決して笑わない』


『白雪姫を疎んでいる』



 陰口と憶測は、王宮の石造りの廊下を駆け巡っていた。




 ――まわりを変えるには、まず自分からよね。




 自分で誤解を解かなければ、なにも変わらないないわ。


 もちろん、ルドルフのように、この人は変えられないだろうな、と思う相手もいる。


 でも、変えられるかもしれない相手だっているわ。


 わたくしは噂は間違いだと示していくと決めたのだ。


 毎日、使用人たちに笑顔を向けた。


 ちょっとした失敗なら責めなかった。


 茶葉を一緒に選び、気が向くと、ブランカのかわいいところや、花園に咲く花の話をした。





 そんなある日、侍女のアンナがティートレイを抱えて、小さな声で言った。


「王妃殿下は、もっと恐ろしいお方なのだと思っていました……」


「ああ……、そうね。わざとそう見せていた部分もあったのかもしれないわね」


 記憶が甦る前のテレージアの姿が脳裏に浮かぶ。


 初夜にいきなり「君を愛することはない」と告げられた花嫁。


 その後も、事あるごとにウィルマと比較され、貶められてきた王妃。


 誰からも疎まれているとしか思えない状況の中で、テレージアは己の心を守るために、悪役の冷たい仮面を被るしかなかったのよ。


「……どうしてそんなことを?」


 アンナがためらいがちに訊いてくる。


「傷つかないようにするためよ。誰も近寄って来なければ、誰にも拒まれないもの」


 ルドルフにあれほどまでに拒絶され、罵られたのですもの……。


 テレージアが心を閉ざしてしまうのも無理はないわ。


 鏡に「美しいのは誰か?」と問いかけ続けることで、辛うじて自分を保っていたテレージア……。



 アンナが湯気の立つティーカップを、わたくしの前にそっと置いた。


「今は……、変わられましたよね……? もしかして……、わたくしは王妃殿下とお話をしたりしても、良いのでしょうか……?」


 アンナの声はかすかに震えていた。


 これを言うのには、とても勇気がいったでしょうね。


 わたくしと語り合ったりしたいと言ってくれる使用人が、やっと一人現れた。


 春の暖かな陽の光が、わたくしの心に射し込んだような気持ちになった。


「もちろん良いわ」


 わたくしはティーカップを手に取り、穏やかに頷いた。


 これはまだ、ほんの小さな一歩だろう。


 けれど、この冷たかった王宮の人々が、少しずつ変わっていっているのが感じられた。


 わたくしは、ふわりと立ち上る紅茶の香りに目を細める。


 なんでもやってみるものね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ