誰が、それを見ているの?
バグの正体、世界の修正システム、そして「ラピス」という存在を知っている“誰か”が、ついに動き出します。
戦うだけではなく、ユナ=ラピスが「自分の立ち位置」を揺さぶられていく転機の回です。
──その日、いつもより街が静かだった。
朝のホームルーム。
先生が言ったのは、何気ないひとこと。
「……それと、昨日の“光の事件”についてだけど、SNSでも話題になってるらしいな。なんか魔法少女とか言って騒いでる人もいるけど、まぁ噂ってやつだ。……変なことに首を突っ込まないように」
ユナは、手の中のシャーペンをきゅっと握った。
(……ついに、来た)
それは一昨日の事件。
“人に取り憑いたバグ”を、ラピスとして封じた夜のことだった。
本来なら、空間の“歪み”はすべてフィルターによって修正され、記録にも記憶にも残らない。
けれどその日は、なぜか一部の目撃者のSNSに「光の剣」「謎の少女」の記録が残っていた。
──バグだけでなく、世界の修復機能にも、何かが起きている。
放課後。
図書館の隅で、スマホを開いた。
掲示板には「ラピスって名前らしい」「水色のツインテ」「なんかヤバイ武器使ってた」──そんな書き込みが並んでいた。
(本当に……名前まで)
「やっばいね〜ラピスちゃん!」
イヤホン越しのミカが、やけに楽しそうに言う。
「ついに噂になっちゃった!うふふ、キラッとデビュー?いやー、ラピスちゃんなら映えるし当然だよねっ」
「……全然嬉しくない」
「まぁ、ミカもそう思ってるけどねー。これ、変だよ」
ユナは一瞬、息を飲んだ。
「“変”って?」
「本来、修正後の世界には記録は残らないはず。でも、誰かが干渉してるみたい。もしくは……システムそのものが“壊れかけてる”か、だね」
(……壊れてる?)
「しかもねー、今日の昼過ぎから、誰かが“ラピス”って名前でネット全体を検索しまくってる。政府系のドメインからもアクセスあったし」
「それ……バレるってこと?」
「まだ大丈夫。でも、危険かも。ちょっと調べてくる」
──カチッ。
イヤホンの向こうが一瞬無音になった。
ミカの“沈黙”はめずらしい。軽口を絶やさない彼女が、ほんの数秒黙った。
そして、静かに、でも確実に何かを掴んだような声で呟いた。
「……誰かが、“ラピス”の存在を監視してる」
* * *
その夜。
ユナはひとり、変身して街を歩いていた。
何かが引っかかっていた。
胸の奥、漠然とした違和感──「誰かに見られているような感覚」。
それは決して初めてではなかった。
ここ最近、戦闘中やその直後、必ず“何か”が残っているような気配。
「ミカ。さっきの、監視してるって……」
「ごめん、まだ特定できない。めっちゃ巧妙なフィルターで、たぶん……AIか、もしくは“もう一人の人間”が介在してるかも」
「もう一人?」
「ううん、わかんない。でも……“バグ”以外の、もっと別の存在」
──そのとき。
街角のガラスに映る“自分”が、ふっと笑った。
──え?
振り返る。でも誰もいない。
(今、私……笑ってた?)
いいえ。ユナの顔は無表情だった。
けれど、ショーウィンドウに映ったラピスの表情だけが、なぜか“にやり”と笑っていた。
「っ……!」
ガラスに手をかざした瞬間、そこからにじむように“黒い線”が広がる。
「バグ!?」
(……違う。これ、今までのバグと違う)
それは“ラピス”の姿をした、“何か”だった。
ガラスの向こうから伸びてきた腕。
まるで鏡合わせのように、ぴたりとユナの動きを真似てくる。
──自分を見ている“何か”。
「ミカ!!これ、なに!?」
「ラピスちゃん、逃げて!!それ……!」
通信が途切れた。
イヤホンが“ブツッ”という音を立て、沈黙に変わる。
(……まただ。前にも、一瞬だけこういうのが)
けれど今回は、違う。
目の前の“もう一人の自分”が──手を伸ばしてきた。
「やっと、見つけたよ」
今回は、物語の“転換点”に差し掛かる回でした。
少しずつ世界の裏側が見え始めて、でもそのぶん、ユナの孤独も深くなっていく。
誰かが見ている。けれどそれは「助けるため」じゃない。
ミカの“沈黙”にも、これから意味が出てきます。
次回は“本当に怖い存在”が姿を現します。
ご期待ください。
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