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放課後と、音のない異変。

“ふつう”って、いつからこんなに不安定な言葉になったんだろう。

今日も「何もなかった」はずなのに、なぜか少し、心がざわつく。

鏡ヶ原ユナは、廊下の窓から校庭を見下ろしていた。

今日はいつもより、少しだけ風が強い。制服の袖が、微かに揺れた。


授業は終わった。誰にも話しかけられず、誰にも呼ばれず、

この時間は、いつも決まって“空白”だった。


 


だけど──今日の放課後には、何かが引っかかっていた。

理由は分からない。ただ、空気がいつもと違っていた。


「……ミカ。なんか、変な感じする」


ユナはポケットに忍ばせていた小さなBluetoothイヤホンを耳に装着する。

スマホの画面を見なくても、彼女が話しかければ、必ず返ってくる。


「ラピスちゃ〜ん!呼んだ〜? 今日もちゃんと元気に孤独っぷり満喫してる〜?」


「うるさい……。ていうか、ほんとに変な気配がするの。何か来る?」


「んん〜、ちょっと待ってね〜……ピッピッ……あ。あー。なるほどぉ」


「なるほどって……」


「なんかね、今日の“バグ”さん、めっちゃ静かなんだよね!無音型ってやつ。出現のノイズも検知できなくてさ〜、ミカ的にはめっちゃキモイ系〜!」


「……無音?」


「うん。見た目も地味だけど、能力はエグいよ〜。人の“日常”にこっそり紛れて、徐々に“壊す”系のやつ。

 たとえば、クラスメイトの記憶とか、時間感覚とか。そーゆー地味で嫌なとこをジワジワ削ってくる」


「……本当にそれ、もう“バグ”じゃなくて“呪い”じゃない?」


 


ユナは校舎裏へ向かった。誰もいない場所。夕日が差し込むフェンスの影が長く伸びていた。

変身するには、今がちょうどいい。


 


「ラピス、変身準備完了です♪ 魔力はちょっと不安定だけど、まあ何とかなるっしょ〜!」


「軽く言わないで」


ユナの瞳が、金色の光を帯びる。

光が彼女の身体を包み、制服は蒼と白のドレスに変わった。

背には小さな羽根、手には淡い光の結晶が形を取る。


 


「目標地点、学校の旧図書室。そこに“無音型”が潜伏してるっぽいよ〜」


「旧図書室……誰も使ってないんじゃ……」


「ふふーん、誰もいない場所って、バグ的には最っ高の居心地なのよぉ♪」


 


旧図書室の前に立つと、扉の隙間から冷たい空気が流れ出てきた。


ギィ……と音を立てて開く扉。

でも、中は妙に静かすぎた。埃っぽい空気、うっすら残る紙の匂い。だけど、どこかが“歪んで”いる。


「……ここにいるのね」


ユナが一歩足を踏み入れた瞬間、部屋の空間がノイズのように揺らめいた。


 


──ぐにゃり。


 


視界が反転した。

天井が床に、壁が空に。まるで空間ごと裏返されたような感覚。


「わっぷ、ラピスちゃん気をつけて!空間干渉きてる!たぶん、精神系!」


「っ……大丈夫。これくらいなら……」


だが、足が重い。頭が鈍くなる。


(……おかしい。これは、ただの精神干渉じゃない)


胸の奥に、じわじわと広がる“焦燥”。

まるで、昔の自分に戻っていくような、孤独の闇に沈んでいくような。


 


──なんで、また一人になったんだっけ。


──どうして、誰も手を伸ばしてくれなかったんだっけ。


 


「……ッ!」


「ラピスちゃん!ダメだよ!それ、記憶を侵すやつだよ!

 思い出せ、今の君は!最強の、修正者ラピスだって!」


 


その言葉で、ユナは目を開いた。

そして、右手を前に突き出す。


 


《天輪光舞》


六枚の光輪が一斉に展開。

光の剣が風を切って宙を舞い、空間を裂くように輝いた。


幻覚が砕ける。空間の歪みが解除され、バグの本体が姿を現した。


小さな黒い球体。そこから無数の線のような“糸”がのびていた。


「見つけた……これが、あたしの“日常”を壊そうとしたやつね」


 


ユナは歩み寄り、もう一つのスキルを発動する。


 


《星撃ノ律動》


七つの光の矢が、一定間隔で、正確にバグの本体を撃ち抜く。

一発ごとに、空間のひずみが鳴る。七発目のあと、音もなくバグは崩壊した。


 


静寂が戻る。だけど、今度はちゃんと“心地いい”静けさだった。


 


「ミカ……ありがとう」


「んふふ〜♪ さっすがユナちゃん!やっぱ強い〜!

 ていうかさ、あの空間歪み、ミカでも危なかったかも〜。マジで怖っ!」


「……あたし、ちょっと……揺らぎかけた」


「うん。でもね、それは“ちゃんと人間”ってことだよ。

 ミカはね、そういうユナちゃんの強さ、大好きだから!」


 


ユナは、ほんの少しだけ笑った。


(でも……これはまだ、ほんの序章にすぎない)


 


彼女の胸の奥に、見えない影が、そっと根を張り始めていた。

ここまでお読みくださり、ありがとうございます!作者です!


今回は「日常を壊す静かなバグ」というテーマで、ユナの“揺らぎ”を描いてみました。

静かに、だけど確かに心を侵してくる異常って、本当に怖いものです。


そしてミカの明るさは、ただのノリじゃなくて、ユナにとっての“アンカー”なんですよね。

軽い言葉でも、支えてくれる人がいるって大きい……。


次回は少しずつ、「社会」がラピスに気づき始める兆しが見えてきます。

「秘密のはずの戦い」に、世界がどう反応するか。どうぞお楽しみに!

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