あなたは全部知ってるみたいに笑ってた。
今回は、ミカの“違和感”に焦点をあてました。
今まで見せなかった彼女の「一瞬の沈黙」や「妙に優しい言葉」が、今後への伏線になっています。
「ユナちゃん、今日の君、ちょっと元気なかった?」
夕暮れの空が、いつもより赤く見えた。
放課後、帰り道。イヤホンの奥からミカの声が軽く跳ねる。
「……別に。いつもどおりだよ」
「うそぉ、いつもどおりの“超陰キャ”さんは、もっと無の境地って感じだったのに」
「……ひど」
そんな軽口を交わすやりとりは、最近少しだけ、日常になっていた。
ふと、誰かに「今日なにしてた?」って言ってもらえること。
「別に」って返せることが、どこか安心だった。
でも、今日はミカの声が少し違って聞こえた。
「ミカ……さ、今日のバグ、強かったよね」
「うん。ていうか……最近のバグ、明らかにおかしいよ」
「……うん」
「現実世界と“あっち”が、少しずつ重なってきてるんだと思う」
(あっち?)
そのとき、イヤホンから少しだけノイズが混じった。
「ミカ……?」
「あっ、ごめんごめん!こっちの機材がちょっとバグってたー」
「……ミカって、どこにいるの?」
ユナの声に、少し間があった。
「んー……今は、遠く。ちょっと寒いとこ」
「……北の方?」
「そうそう、北海道の上あたりってことで」
軽く流されるけれど、なぜかその嘘にユナは気づいていた。
本当は、もっと遠くにいる。
いや、“どこにもいない”のかもしれない。
ミカは、いつも「なんでも知ってる」みたいな声をしていた。
けれど、今日のミカの声は、ちょっとだけ寂しかった。
* * *
その夜。
ユナは夢を見た。
見知らぬ夜の街。
そこに佇む、自分そっくりの“ラピス”がいた。
けれど、その目は濁っていて、なにかを失った顔をしていた。
「また、壊しちゃったね」
その声に、ユナは何も言えなかった。
何を壊したのか。
誰を、何を、失ったのか。
自分にはまだ、わからなかった。
* * *
翌朝。
学校に向かう途中、ユナはコンビニの前で足を止めた。
ニュースが流れていた。
「“空中に浮かぶ少女”を目撃したという報告が多数寄せられています──」
「またか……」
最近、目撃情報が増えている。
それでも、誰もユナだとは気づかない。
──でも、もう長くは隠し通せない気がした。
(いつか、全部バレる?)
(それとも……終わっちゃう?)
ふと、イヤホンからミカの声が聞こえた。
「ユナ。もしも、世界がぜんぶ敵になっても、ミカはユナの味方だからねっ」
「……急にどうしたの?」
「んふふ、なんとなく〜。言いたくなっちゃったの」
そして、続いた言葉は、ユナの胸にひっかかりを残した。
「もし、ミカのこと……ちょっと変だなって思っても、ぜんぜん気にしないでいいからね」
「……え?」
けれど、それ以上は何も言ってくれなかった。
ミカの声は、またいつもの明るさに戻っていた。
──でもユナは、なんとなく思った。
ミカは、知ってる。
この先に起こることも、ユナの運命も──
そして、ミカ自身の終わりのことも。
ユナは、そっと胸に手を当てた。
今日も戦う。
でも、心のどこかで“終わり”が近づいていることを、感じていた。
ユナとミカの関係に、少しだけ影が差しました。
ミカの正体については、次回からさらに深掘りしていきます。
「すべてを知っている人間の優しさ」は、ときに残酷で、でも誰よりも温かい。
そういうテーマを意識して、物語は終盤に差しかかります。
次回、第11話――どうか最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
良ければブックマーク、評価お願いします!