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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

それぞれの愛。

作者: 熊ゴロー。

ヤンデレしかいません

 「本当に愛するのは君だけなんだよ」


 分かってくれるよね?と顔だけは良い旦那様が何やら言っていますが、何度も浮気を繰り返しては言い訳をする姿は、みっともないのです。


 「もうどうでもいいです」


 愛なんていつまでもあるわけもなく。私の中の旦那様の愛は既に枯れてしまったようです。さすがに私の侍女に手を出すような人だとは思わなかったです。そして侍女もその気になってしまったことにも残念です。


 「え、いや、あの…出来心なんだ」


 「そうですか。良いですね『出来心』ならば許されるとお思いなんて」


 「…ごめん、でも本気じゃなかったんだ」


 さっさと離婚したい所ですが、離婚するとなると実家との仲が悪い私には行く当てもないので、泣き寝入りしかありません。平民になるとして、今まで貴族として生きてきたので生活出来るかも分かりません。


 こんなクズ…最低な旦那様には愛想が尽きました。


 「では、私も出来心で浮気をします」


 「え…!?」



 では、失礼!と旦那様の横を通り過ぎて、ある部屋へと向かう。大きく深呼吸をして扉をノックします。



 どうぞ、と優しい声がして恐る恐る扉を開けました。



 「…お義父様…」



 「おや、どうしたんだ?」



 「私の浮気相手になって頂けませんか…?」



 「…は!?」










 執務室で仕事中に可愛らしいノックの音がした。この音は彼女だな、と嬉しくなり、どうぞと声をかけると険しい顔をした彼女が入ってきた。いつもの明るい彼女に一体何が…



 「私の浮気相手になって頂けませんか…?」



 う、浮気相手…?どういうことなんだ?



 「お、落ち着いてくれ。浮気相手とは…」



 「はい、私の身も心も旦那様から奪い取って頂きたいのです」



 彼女が何故そのようなことを言い出すのか、何となく理解した。息子の女遊びが原因だろうと。繰り返される度に傷付き悲しむ彼女を見てきた。その度に息子を叱っていたが効果は無かった。


 そうか。これはチャンスなんだな。


 俯く彼女を抱き寄せて至近距離で見つめ合う。すぐに顔を赤らめて顔を背けようとするので、顎を掴んで口付けをした。



 「いいだろう。最高の浮気相手になってみせるさ」



 ほんのりと抱いていた好意が溢れ出る程の愛情に変わる瞬間。手に入らないと諦めていた愛しい彼女を今、この腕の中に。喜びで破顔してしまいそうになるのを抑えて、彼女を寝室へと運んだ。










 …気が付けば数時間経っていた。彼女の全てを暴くのが楽しくて夢中になって抱き潰した。最後に彼女の体中に大量に痕をつけてようやく満足した。気絶している彼女の体を清めて、シーツを交換したベッドへと寝かせた。


 さて、これからどうしようか。別邸で二人で暮らそうか。そうだ、指輪を作らねば。私達の揃いの指輪を。眠る彼女の細い指に口付けた。













 馬鹿なことをした。今まで許してくれたから今回も許してくれると思った。本当に彼女を愛しているんだ。時々、擦り寄ってくる女を味見しては捨ててきた。嫉妬してくれる彼女を見たくて、何度も繰り返した。


 けれど、今回は彼女の侍女だったからか、いつもと違う反応をされた。心底軽蔑したような目で「どうでもいいです」と言われた。良くない、嫉妬してくれないのか?


 自分も浮気すると去ってしまった彼女を追いかけられず、呆然と立ち尽くしてしまった。暫くそのままだったが、我に返って急いで彼女を探した。使用人に聞き回った所、父上の執務室に入ったのを見たと聞いた。


 父上に…離婚したいと言っているのだろうか。駄目だ、離婚したくない、本当に遊びだったんだ。もうしない。



 急いで父上の執務室へ向かったが、既に二人の姿はなく、一体どこへ…と探し続けた。街へ向かったのだろうか。不安で堪らなくなり、街へと向かった。




 けれど、やはり二人の姿はなくて。疲弊しきった体で屋敷に帰る頃には、もう夜になっていた。


 まだ戻ってきていないのだろうか…部屋へ向かおうとすると、浮気相手の侍女が走ってやってきた。顔を真っ青にして震えながら俺の耳元で囁いた。



 「…お、奥様が…大旦那様と同衾を…」



 父上の寝室へと走った。嘘だ嘘だ嘘だ!


 寝室まで、もう少しという所で父が部屋から出てきた。シャツも髪も乱れ、疲れ切っているが満足気で、見るからに情事後だった。



 「父上!」


 俺をちらりと見た後、どこかへと去ろうとする。



 「お待ちください!彼女は…!」



 「お前のおかげだよ」



 「…は?」



 「私を求めてくれたぞ。何度も何度も強請られたんだ『沢山愛して』と。私もまだまだ現役だな。また高ぶりそうだ」


 嘘だと言ってくれ。俺が悪かったんだ。その為の仕置きとしての嘘だと。吐き気がしてくる。


 嫌な笑みを浮かべた父は楽しげに情事の話を始めた。彼女がどんなに乱れたのか。愛の言葉を囁かれただとか。聞きたくないのに。夫は俺なのに、もうずっと彼女を抱いていないのに。崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。



 「お前も浮気は楽しかっただろう?」



 突然、無表情になり、俺の首を掴んだ。



 「これからも浮気を楽しめ。もう誰もお前を止めやしない。離婚したければすればいい。その場合は、お前を追い出すだけだ」



 まぁ、離婚しようがしなくてもどちらも変わらないか…と意味ありげに呟かれた言葉を理解出来なかった。


 どこかへと立ち去る父に何も言えず、恐る恐る寝室へと入った。


 暗闇の中、ベッドで眠る彼女を見つけた。体中に痕をつけられて。



 「ごめん…ごめん…愛してるんだ」



 涙が彼女の頬に落ちた。眠る彼女の唇に何度も口付けた。口付けすら、もうずっとしていない。俺の浮気がバレてから拒絶されていた。

 試し行為なんてしなければ良かった…


 後悔した所で、もうどうしようもなくなったのだと気付いたのは数日後のことだった。






 


 

 お義父様に浮気相手になって頂いてから数日経ちました。毎日沢山愛されて、もう身も心もお義父様のものとなってしまいました。何でもない日でも花束や宝石、ドレスを頂きました。そして…



 「お揃いの指輪。結婚指輪として受け取って欲しい」



 嬉しくて涙が溢れました。愛に飢えていたのでしょう、こんなにも大きな愛をくださるお義父様に私は何を返せるでしょうか。


 私は元々つけていた旦那様との指輪を外し、お義父様との指輪をつけました。するとお義父様は旦那様との指輪を窓から放り投げてしまいました。


 「もういらないだろう?」


 「はい。私にはこちらの指輪だけで良いのです」



 左手の薬指に輝く美しい指輪に口付けを落とした。







 それから数日後、私は彼女を連れて別邸に移った。二人だけの新婚生活を楽しむ為、大急ぎで荷物をまもて運び込ませた。

 

 「お待ち下さい!どういうことですか!」


 息子が現れ、彼女の腕を掴み騒ぎ始めた。


 「浮気をするのに絶好の場所だろう?」


 息子から彼女を奪い取り、背に隠した。今更焦った所で、失った愛を取り戻せるとでも?馬鹿らしい。


 「…駄目だ…行かないでくれ」


 泣き落としをしようとしているのか、彼女に媚びた目つきで泣き言を言い始めた。


 「何でもするから…行かないで…」


 とうとう泣き始めた。女々しい奴だと呆れていると、彼女はハンカチを渡した。


 「私は何度も言いました。行かないで、浮気しないでと」


 「すまない…こんなにも苦しいだなんて…本当に…」


 彼女を手を握り、メソメソと…!すぐに彼女を引き寄せて息子から離した。私の愛しい人に触れるなと叫びたくなる程の怒りが溢れ出る。



 「私はもうお義父様を愛してしまったのです」


 「それでもいい…それでも、君と夫婦でいたいんだ」



 結局、引っ越しをやめることになったが、彼女を私の部屋から出さないことに決めた。寝室も一緒だ。もう夫婦と言ってもおかしくないだろう?

 毎日愛し合い、毎日痕をつけて、息子に見せつけた。それでも奴は悲しい顔をするだけで、彼女と手を繋ぎ話していた。



 ある日の夜、私はそれに耐えられないと彼女に愚痴をこぼした。 


 「君を愛しているんだ…」


 「お義父様…」


 「私を愛してくれているなら、旦那様と呼んでくれ…」


 「はい、旦那様。私は旦那様を愛しています」


 そっと抱きしめられて、いい歳をした私の頭を撫でた。口付けを強請り、甘やかしてくれと強請り、子供のように我儘を言い続けた。それでも彼女は嬉しそうに聞いてくれた。


 「…多少は我慢する。だが触れ合いは出来るだけしないでくれ」


 「はい、分かりました」


 この日から私を旦那様と、息子のことは名前で呼ぶようになった。優越感で何度も何度も呼ばせた。嗚呼、愛とはこんなにも人を変えるのだな。


 息子と話をすることを許した。勿論、私の前でだけ。私は会話に参加せず、ただ彼女を抱き寄せて目を閉じている。彼女も会話しながら、手を握ったり、頬を撫でてきたりするので私は嬉しくて擦り寄った。



 「父上、夫の前で堂々とするのは如何なものかと」


 「もう浮気ではない。純愛だ。私達はもう離れられない」


 見つめ合い、恥ずかしそうに微笑む彼女。浮気相手になるつもりがそれだけでは我慢出来なくなった。いや、『つもり』だなんて言い訳だ。最初からこうなることを望んでいた。


 「私もです。どうかよそ見をせず、私だけを愛してください」


 「勿論だとも。君だけだ」


 悔しそうに私達を見る息子が彼女の手を取る。


 「少しでいい。欠片でもいい。私にも愛をくれないだろうか」



 「友愛で良ければ。もう私は貴方を夫として男として愛することはありません。それでも、よろしいの?」


 「あぁ、今は…それでいい」











 数年が経った。彼女と父の間に子供が生まれた。双子で、二人に似てとても可愛かった。この数年で少しだけ関係が良くなったと思う。


 相変わらず話をする時は父がいる。彼女の手に触れることは許された。短い時間の中、手を握り、精一杯の愛を伝えた。最初は無表情だった彼女も、この数年で微笑んで聞いてくれるようになった。


 父とは同じ女性を取り合うのだから関係は最悪だったが、少しだけ譲歩してくれることが増えた。それでも手だけだが。


 複雑な関係性だが、今は穏やかに会話が出来る。前よりお互い言い合うことも出来ている。ある意味、幸せなのだろう。


 二人が庭を散歩している時、本当の夫婦のように寄り添う姿を見ると酷く嫉妬をする。それでも俺はもう浮気はしない。


 失ってしまった愛も信頼も無くなった。唯一の友愛を失くすわけにはいかなかった。二度と男として見られなくても愛してる。


 昔から尊敬していた父がここまで何かに執着していたことは無い。幽霊でも取り憑いているのかと思ったが、これが本性だと言われた時は驚いたが納得した。


 いつか父が先に死ぬだろう。父は彼女を手放せるのだろうか。もし、その時が来たとして、彼女をもう一度この手に取り戻せるのだろうか。


 俺はその時を今か今かと待っている。












 子供達が大きくなり、私も年を取った。老いていく自分が恐ろしくなる。隣の彼女は妖艶さを混じらせた美しさが溢れ出ている。私が死んだら彼女は息子の元に戻るのだろうか。不安が押し寄せる。


 「頼む…私が死んでも私だけを愛してくれ」


 「勿論です。私の身も心も全て貴方に捧げると誓ったでしょう?」


「あぁ…そうだな。酷く恐ろしいんだ。君を奪われたくない」


 「では共に参りましょう」


 「え…?」


 私の手を握り、そっと口付けてくれた。


 「貴方とならば、どこまでも。私達は夫婦ですから」


 欲しくて堪らなかった言葉で、言わせてはいけない言葉だった。それでも喜びは溢れてしまう。


 「出来るだけ長生きするよ」


 「では、運動と食事の改善をしましょうね。お酒も程々にしてください」


 「あぁ。君の為なら」



 

 



 






 「何だって…?」



 「ですから、旦那様が亡くなった場合、私も逝きます」



 「何故だ…!?」



 「旦那様のいない日々を生きるのはとても辛いものだと思うのです。それに…一人で逝かせたくありません」


 旦那様のいない世界は私には必要ないのです。一人はとても寂しいことを知っています。旦那様を一人にしたくありません。


 「嫌だ…生きてくれ」


 この十数年、浮気もせずに私に愛を囁いてきた彼の言葉は嘘ではないと信じることが出来るようになりました。それでも私の心は変わりません。


 「今すぐにという話ではありません。旦那様も長生きしてくださると約束してくださりました」


 「それでも愛する人を連れて逝くだなんて!どうかしている!」


 「私がお願いしたのです。共に逝きたいと」


 「…そんなに愛しているのか」


 「はい」


 全ては貴方の浮気から始まり、当てつけで始めた私の浮気は本気になりました。愛し愛されるのがこんなにも素晴らしいと思わなかったのです。妊娠中も仕事が終われば、すぐに帰ってきて支えてくれました。子供が生まれてもそれは変わらず。


 これが愛なのですね。一方通行ではない、私達は愛し合っているのですね。



 「ならば、私にも愛を分けて欲しい…そうすれば、それを支えとして生きていけるから…頼む…」



 …私はそっと彼に口付けました。これが最後です。



 「どうかその時が来たら、子供達をお願い致します」



 「任せてくれ」



 涙を溢す彼の目元をハンカチで拭いた。


 貴方の愛はもう受け取れない。






 


 






 

 それから十数年後、彼女が病で倒れた。治る見込みがない病だと医者に言われた。


 日に日に彼女が衰弱していくのを悔しく思いながらも、その時が近いのだと喜んでいる自分がいた。


 もうこれで私だけのものになるのだと。


 嗚呼、酷く醜い己を彼女に気付かれたくない。


 「約束、覚えているね?」


 「ええ…でも、貴方に生きて欲しいとも思ってしまうの」


 「必ず君と共に逝くよ」


 「…旦那様、旦那様…っ」



 涙を溢す彼女に口付けた。安心してくれ。一人にはしない。愛する人と共に逝ける幸せ…これこそ私の望んでいたことなのだから。




 それから数カ月後、彼女が亡くなった。亡くなる直前まで、私に愛を伝えてくれた。愛している。私もだ。


 毒を飲み干した。後は死を待つのみ。



 「父上…」




 息子が泣きながら肩を掴んできた。



 「俺も…俺も連れて逝って…」



 「馬鹿者。お前にはやるべきことが残っているだろう」



 「置いていかないでくれ…」



 「新婚生活を楽しみたいんだ。子供達を頼む」



 「父上…!」



 「お前の寿命が尽きたその時、私達は許してやるさ。それまで生き続けろ」


 倒れる私を抱きかかえて泣き続ける息子の顔を死ぬその時まで見つめ続けた。


 愚かだった。女遊びをやめろと何度も言った。傷付け苦しませるお前が憎かった。私には手に入らない彼女を手に入れておいて蔑ろにするなど。


 それでも息子だった。許せずとも、憎くとも。


 だから、お前の死が訪れたその時は二人で迎えに行ってやる。それまで生きて後悔してろ。









 



 二人が死んでから数十年。思い出すのは、父の穏やかな死に顔。俺を見つめ、 生きろと言った。やはり優しい父だった。愚かな俺を見捨てずにいてくれた。


 まもなく俺の寿命がやってくる。二人は俺を待っていてくれるだろうか。それとも生まれ変わっただろうか。


 大好きな二人が幸せでいてくれれば、何でもいいか。


 俺の愚かな行いで二人を傷付け苦しませてしまったこと、謝らせてくれたらな。



 どうかあの世で会えますように。会えないならば、どうか二人にこの想いが届きますように。




 そっと目を閉じて、穏やかな死を待った。





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