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来訪者とウォッチング

 無知は罪である。知ろうとせずそれでも隣に居ようと思うのは正しいのだろうか?


「ふう……」

 箒で屋敷の前を掃きながらついため息をういてしまう私――レヒトでございます。

 なにも掃除をすることが嫌なわけではなく、むしろ自分は働いている、王のために尽していると感じられるだけに好きであるのだが、どうしてか今はため息をつきたくなってしまったのであります。

「今日も空は青いですね」

 何度目の青空でありましょうか。澄み渡り風が心地いい昼下がり。時折小鳥の鳴き声が聞こえてきて爽やかさがよりいっそう感じられるそんな日。

 「我が王はなにをしているのでしょうか」

 屋敷のことをやりだすと王にかまっていられるわけにはいかなく、目の前の仕事に集中して考えられなくなってしまいます。

 あ、今は別ですよ?単調な仕事ほど考える余裕が生まれてついつい手を休めてしまうだけです。本当なら悪いことなのですが、王が見ていないことですし少しくらい休んでもいいですよね。

 「はあ……」

 箒を支えにもう一度溜息をつく。

 どうしてか今日は憂鬱らしい。なぜか心がもやもやして、それを解消する方法が思いつかず何度もため息をついてしまう。

「立場……か」

 先日話したことを思い出す。

 私は王に造られた存在。ホムンクルスとも言えるし、ゴーレムとも言える。ただそこに自由意志があるか、有機物か無機物か、ただそれだけの違い。多分私はホムンクルスになるのでしょうね。

 なんのために造られたはわからない。

 ただ側にいて欲しいがために造ったと聞いたことがある。

「明確な理由がないというのは辛いものですね……」

 空に流れる雲を見つめ生まれてどれくらい経ったか思い出してみる。

 五十……いや、百年近く経ちますか。この屋敷が封印されてそれほど経たずに私は生まれた。

 男とも女ともつかない中性的な顔立ち。それほど身長は高くなく、中肉中背というよりは若干痩せ気味に見える。ようは頼りない見た目ということらしい。

 そして普通の人間と決定的に違うところが

「この翼」

 背中から光り輝く鳥のような翼を出す。

 両手を広げてもまだ大きい翼。空を飛ぶための羽。神々しく我が王――魔王と共にいるには不相応なくらい光り輝いている。

 軽く背中の翼に力を入れる。

 フワッ

「うん。なにも問題は無いみたいだね」

 途端体が軽くなり、足が地面から離れ視界が地面から遠くなっていく。

 宙に浮いているのだ。そのための翼。空高くから地上を見るための羽。見渡し索敵、遠く彼方まで見通し想いをはせる。

「山……森……平原……本当にここには何もないな」

 山が屋敷を囲うように配置されているこの場所。簡単には見つからないしたとえ山を乗り越えてもしばらくは平原と森で屋敷にたどり着くには苦労をしてしまう。

 先代の魔王が見つけたこの場所。簡単に勇者に発見されず、魔王や魔物特有のネットワークで外に情報の共有、通達をすることで遠くから指示を出し勇者の足止めができるようになっている。

「屋敷……でいいのかな」

 遠くを見ていた視線を真下にある屋敷に変える。

 城と言うには小さく、屋敷というには大きいその場所。私たちの家。

 この家の掃除と王の身の世話が私に与えられた仕事であり使命。それ以上でもないし、それ以下では……ないはず。

 ある意味家政婦なのかもしれない。最近ではメイドと呼ばれる職種。

 主に尽くし、主のために働く。

「私は最後まで側にいます。私の終りまで、あなたの最後まで……か」

 昨日言った言葉を思い出し恥ずかしくなる。

 まるで告白ではないか。私から王へのプロポーズ。愛の告白。

「いやいや、明確に好きという言葉を言ってないからそれはないだろ」

 頭を振り考えを否定する。

 なにを考えているのだ私は。我が王に愛など感じてたまるか。おかしいではないか。

 あくまでも王は私を造った創造主、身の世話をする主、共いるべき存在。それ以上でもそれ以下でも……

「……役立たずだった場合私は破棄されるのだろうか」

 一瞬でも考えたことがなかったわけじゃない。

 もしかしたら私はただの気まぐれで造られたのではないのか。なんとなく暇だったから、屋敷の掃除や手入れをするのが面倒だから都合のいい存在を造っただけではないか。

 いや、そうなのであろう。実際に私以外にも屋敷の掃除や手入れをする使い魔がいて、全部が全部渡しに任されているわけではない。ただ他のよりもちょっと優遇されているだけではないか。

「なに多くを求めようとしているのだ私は」

 よからぬことを考える自分に頭を叩き活を入れる。

「私はただ側にいられればいい。最後の時を王と共にいられればいい。それだけじゃないか。それが私のすべきこと、幸せではないか」

 むしろ造られた存在である私が幸せを求めてどうするんだろうか。心すら造られたのだからもとから求めることなんてできるはずがあるわけない。

「だけど昨日言葉は……」

 確かに私はは望んだ。共にいるという幸せを望んだ。

 この翼のように心を持ったのもイレギュラーなのだろうか?

 もともとは翼を付ける予定はなかったらしい。

 しかしなにかしらの影響で私の背中には翼が生え、そして男とも女とも言えない見た目になったらしい。

「性別……気にしてもしかたないか」

 特に性別で困ったことはない。機能は人間と同じでもそこまで発情するわけでも、一ヶ月に一度きつい日があるわけでもない。

 なにやら普通の人間の女には一ヶ月に一度死にたくなるほど心も体もきつくなる日があるようだ。よくわからないが。

 それと同時に男にも発情してしまう瞬間があるようだ。押えきれない欲望というのだろうか、発散しなくてはならない、しなければ寝てる最中に体が無意識に発散して起きた時に絶望を味わうとのことだ。たまに王が死んでしまうんじゃないかというほど絶望に満ちた顔をするがそういう日だったのだろう。シーツを変える時妙にあたふたしていたものだ。

 とにかく、私にはそういったものがない。どちらかの機能はあるのだろうが、絶望もきつい一日も味わうようなことはないのだ。

「それはそれで私が人間ではないってことを自覚するにはうれしいことなんだけどな」

 もしかしたら天にある国にいる天使と同じなのかも知れない。

 何度か王が話していたことがあった。空の果てには天国という神と天使が住まう国があると。

 そこには私のような羽の生えた人間が当たり前のようにいて、神という絶対的な王が統率された国が存在すると。

 神とはどんな存在なのか聞いたところ「そうだな。私のような王であり、この人間たちの世界を造った存在でもある」とのことを言っていた。

 では私たちはその神に造られた世界に存在しているのかと聞いたところ「私にも故郷はあるさ。魔界なる魔の世界がな」と微笑ながら答えた。

 魔の世界……王の故郷。行ったことがないからこそ興味がある。話だけでは想像できない部分がありいずれ行ってみようとも思ったところだ。

「本当に私はなにも知らないのだな……」

 無知である自分から逃げるためにこのまま空を飛んで行くのもありだろうな……

 そうは思うが、そんなことできるはずも無く無力な自分を責める。仕方ないといえばそうなんだろうが、もっと話を聞いて知りたい。私ができることは『知ること』なのだから。

「なんて言っても、まずは今やるべき事が沢山あるか」

 肩を落としゆっくりと地上に降りて行く。まずは今できること、やることを終わらせてからだ。


 


「おやおや珍しい。天使ですか」

 地上に降りしばらくしてここでは聞かない声が聞こえてきた。

「はい?」

 声のする方を振り向くとそこには黒いスーツを着たワニがいた。ワニである。

「ワニ……?トカゲ?」

 ワニのように長い口、人とは違う皮膚ではなく鱗で覆われていて、頭に黒いシルクハットをかぶり顔を隠している。

 一見して人のようにも見えるかも知れないが、じっくり見てみると人とは全く違う外見をしていることがわかる。

「ははは。ワニやトカゲと見えますか。まあ、仕方ないとは言え少々傷つきますな」

 笑いながら私の言葉を受け止めるワニ。

「魔物……モンスターですか」

「ええ、そう捉えてもらってもいいですよ。ワニやトカゲとは少々種類は違いますがね」

「はあ」

 丁寧な物腰で対応してくるトカゲ。もとい来客。

 怪しいといえばそうだが、ここ土地の特性上ここに来れる者はそうはいない。だからこそ怪しんでいるのだが……

「ふむ。最後にここに来てから百年以上経ってはいますが、このようなメイドがいらっしゃるとは聞いていませんでしたな」

「百年以上? もしかして先代の魔王様や我が王と知り合いなのですか?」

「我が王……ふむ、その者の名前はシュバルツ、という名前でいますか?」

 シュバルツ。私が仕えする王の名前、主。

 仕える身であるために名前で呼ぶことはまったくなく、さらに王のことをシュバルツと呼ぶものはめったにいないためにこのものが知り合いであると予測できる。

「はい。ではあなたが前に言っていました我が王の来客者でありますね」

「ええ、それで案内してもらえますと助かるのですが」

「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」

 持っていた箒を壁に立てかけ屋敷の中へと客人を案内する。


 


 屋敷と言っているだけに洋風の造りをしている我が城。

 壁や天井にシミもなく、毎日掃除しているだけにいつ来客が来ていてもいいように管理が行き届いている。

「ほう。魔王の住む城……というよりは貴族の住む屋敷でありますな」

「昔は違うのですか?」

 感心するように辺りを見て歩く客人。前に来たことのあるようでそのことについて少々聞いてみることにした。

「ええ。それこそこの世界を支配しようとする者が住む根城であり、人間が入ればその黒さと禍々しさに精神が耐えれないようなそんな雰囲気が漂っていたのですよ」

「この屋敷が?」

「ええ。それは先代の魔王が存命していた時代でしたから、今のシュバルツ王になってから大幅な改装をしたご様子ですな」

「我が王が……」

 屋敷を作り替えるほど昔になにかあったというのか。

 この世界に存在し始めた時から屋敷は今とさほど変わらない作りをしていた。それだけになにが起きたのか興味が出てきた。

「そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね。ああ、紹介もしていませんでしたか」

「あ、そうでしたね」

 その場の流れでそのまま案内してしまったが、名前も聞かないとは私としたことが気が緩んでいるのだろうか。

「我の名前はリブレス。観察者ともあり、監視者ともある。種族はドラゴンっていうところかな」

「ドラゴン……」

 天を翔ける自身の身より大きな翼、鉄も魔法もそう簡単には傷つかない厚い鱗を見にまとい、広範囲にわたり時には街一つを焼き尽くすほどの火炎を口から吐き、その足は地面を、その腕は鋼をも砕く力を持つ種族。ドラゴン。

 その中にはただのトカゲやワニから、空を飛べるもの、水を泳ぐもの、海を支配するもの、大地を支配するもの、果ては空を支配するものなど伝説に存在するものも多くいる。

「おや、もしかしてドラゴンという種族を見るのは初めてかな?」

「いえ、時折人間の街に行く最中に空を飛んでいるものや、近くの山に生息するのなら見たことはありますね」

 喋りながら思い出す。ただトカゲに翼を生えたものが空を飛んでいたことを思い出す。山で群れをなして生活している体が頑丈なものを思い出す。

 いずれも動物から進化したように見えるが、リブレスと名乗る来客者のように人間の格好をしたものを見るのは初めてだった。

「ああ、私のの姿かね。普段はこのような姿をして人間、いや、亜人のような姿をして人間の生活に紛れているのだよ」

「亜人ですか」

 人のように二足歩行をするが、豚や牛、鳥や小人のような格好をしている種族。

 人間たちがこの世界に多大な影響を与える前から存在していた種族で、知性や力は人以上、知能が高いものなら機械を操ることもできると聞く。

 知人に何人かはいる。誰も人とはかけ離れた姿ではあるが人間たちとうまく交友をしている所を見る。

 しかし全員が全員そういうわけでもなく、人によっては魔物たちと同じように徒党を組み人間たちを襲う者だっている。むしろ人間達の生活に共生しているものほうが少ないだろう。

 人間たちの中にも嫌い者だっている。未だに完全に共生とまではいかない。それは魔王なる存在のせいかも知れない。人間を憎み、糧とし、世界を支配する。その思想に共感し、崇め、絶対なる力に従う。

「長く生きているだけに沢山の知識を私は持っている。しかし、人間は私の知らないこと、思いもよらぬ行動や生産、活用、進化をする。知りたいのだよ我は。人間の可能性を、そしてこの世界の行く末を。そのためにこうして人間のような格好をしているのだ」

 そう言いながら立ち止まり窓の外を見る。

 数百年以上も生きているのにまだ知らないことがあるのだろうか。それだけ生きれば世界の断りすら知ることができるのではないかと私は想像する。

「知識を求めるのですか……しかし、知ったからと言ってそれをどうするのですか?」

「どうする……とな?」

「たとえわからないこと、知りたいことを手にいれたからと言ってその果てになにがあるのですか?」

 それは知るという行動の意味を問いているのだと自分で思った。

 知ったからどうするのだろう。この人はなにをするのか、それが気になった。

「ふむ。意味、その先にあるものか」

 腕を組みしばらく考えるリブレス様。

「あ、そこまで深く考えていただかなくても」

「いやいや。そうだな。今まで求めているばかりでそれをどうするかを考えたことはなかったな」

 片手で帽子を押さえ笑う。そこまで面白いことだっただろうか。

「知識を求められれば答える。ただそれだけだと思ったが、それは本を読むと同じことなのだな。我が本、求める者が読者。自分で使うということをしていなかったのか。ふむ……」

「求められたから伝える。それは自分で使うということではないのですか?」

「いや、それは違うな。誰かを介しているではないか。自分自身のために使っているわけではない。なにか研究しているわけでもないし、ただ知ることばかりでそれを使うことを考えていなかったな。これは課題であるな」

「知識の使い方……難しいですね」

 普通の人間よりは長く生きているが、それほど知識を持っているわけではない私。だからこそリブレス様の悩みがどういうものなのかあまりわからないでいた。

「いやいや失敬。考え事をしだしますと周りが見えなくなってしまうタチでしてな。本日やるべきことをまずはやらなくては」

「あ、そうですね。ついつい話し込んでしまって忘れていました」

 いけない私としたことが。客人の案内をせずにその客人と話し込むとは。

 再び我が王の部屋へと向けて歩き出す。

「そういえばお名前は?」

 私自身名前を言っていなかった事に言われて気づく。

「レヒトと申します。一応この屋敷のメイドであり王に仕える者……手入れや王の身の世話などをしています」

「メイドであり従者である、ということですかな」

「ええ、そう受け取ってもらって構いません」

 厳密には違うのだが、否定するほどのものでもないので流すことにした。

「先程空から降りてきたということは、天使、または鳥人に属する亜人ってことですかな?」

「いえ、そのどちらでもありません」

「ほう、ということはどういうことですかな?」

 私のことを何者かと聞いてくる。

 詳しいことは私自身わかっていない。ただ百年くらい前に我が王であるシュバルツに造られたこと、様々なイレギュラーが起きて今の自分がいると簡単に説明する。

「ほうほう、なるほど」

 私の説明でなにかわかったのか何度か頷き歩く。

「正直私自身何者なのかわかりません。天使と言われれば服装を変えればそう見えるかも知れませんがあの者たちのような力を持っているわけではありません」

「しかし、鳥人のように翼を生やしているが外見もそのような力も持っていない。むしろ魔族に近い力を持った人間、と言った方がしっくりくるの」

「はい。多少は魔法、魔術の類を扱うことが出来ますので」

 余り使う機会がないが、買出しに行ってくる際に時折私を人間と間違えて襲いかかってくる魔物や盗賊を退けるために魔法を使うことがある。

 王やリブレス様のような強大な力は持ち合わせていないが、名の知れた強者を退けるくらいには強さを持っていると過信している。実際に戦ったことがないからそんなには強いわけでもないと思うが。

「しばらく訪れなかっただけで面白そうなことになっているようだな魔王の周りは」

 実に面白そうに笑うリブレス様。 なにがそこまで面白いのだろうか。

「っと、着きました」

 話しながら歩く内にいつのまにか王のいる部屋の前に着いていた。

「なかなか面白い話をありがとう」

「いえ、こちらこそ楽しませてもらいました」

 まだまだ知らなければいけないことを再確認でき、博識のこのお方からもっと話を聞いてみたいと個人的に興味を持った。それだけここまでの会話は充実していたのだ。

「この中に王がいます。あとでお飲み物をお持ちいたしますのでごゆっくりとしてください」

「ああ、ありがとう」

 中まで入ることはさすがにできず、扉を開けようとドアノブに手をかける。

 しかし、

「レヒトくん」

 その手を止めるように手をかぶせてきた

「はい?」

 突然のことに疑問を持ちリブレス様の顔を見る。

「きっとこれは君にしか頼めないことだ。いいかね?」

 私にしか頼めない?真剣な表情で私の顔を見てくる。

「彼を責めないでくれ。そして心の拠り所でいてくれ」

「責めるって……?」

「あやつのしたことは誰からも責められる間違ったことだ。皆が望んだ正解じゃない。明らかに間違っていることだ。しかし結果的にああするしかなかった。後悔しか生まれなかった。それをあやつは一人で抱えている。だから……だからその心が壊れないように、最後まで共にいれくて」

 頼む、と私に向けて頭を下げてきた。

「そ、そんな! 頭を上げてください! 私なんかに下げるなんて……」

 突然のことにドアノブから手を離し慌てる私。なにがこの御方をそうさせるのだろうか。

「我には出来なかった。いや、我らにはその資格はないのだ。唯一許されるのは、なにも知らず、しかしこれまで側にいて信じている君しかいないのだ」

「知らないから……ですか?」

「ああ、知らないから支えになることだってある。しかし、知らないことを責めてなにもできないこともあろう。だが、きっとあやつは君のおかげで救われたのだ。君がなにも知らずに側にいたからこうしていられるのだ」

 無知は罪だ。知らないからといって許されるはずがない。そう思っていた。

「きっと近いうちに過去を話すだろう。聞いて驚いて悩んで悩んで……君は最後に結論を出すことになる。それがどうか今まで信じてきたことと変わらないモノだと、そうであって欲しいと私は願う」

「わ、私は……」

 これからなにを知るのだろうか。過去になにが起きていたのだろうか。いつか我が王が私に話てくるのだろうか。

「突然のことだし、無茶を言っていることは重々承知している。ジジイの戯言だと思って聞き流してもらっても構わない。だが、今彼に抱いている心をいつまでも忘れないでいてくれ」

「………………」

 もしそれを聞いて私は……

「はは、話しすぎたな。待ちくたびれているだろうからこのへんで終りにしよう」

 上げた顔はさっきまでしていた微笑んている笑顔であった。

「ではちょっと世間話でもをしてくるかの」

 そういって自ら扉を開けようとする。

「なにも迷う必要はない。これから起こることは回避することは出来ないが、信じて起こした行動に間違いはないのだ。思うがままにやるがいいさ」

 そういって私の言葉を聞かずに中に入っている。




 扉が閉まりうつむいたまましばらく時間が過ぎる。

「私は……」

 リブレス様からの頼み、願い。

「心の拠り所であってほしい……か」

 我が王に、創造主の隣にいてもいいのだろうか。そこまで身近にいられるほど私はなにかできるのだろうか。

 いくら考えても答えは出ず、生まれたときからその問いに向き合っている気がして、回答があるのかわからず……

「王は……私のことをどう思っているのですか」

 扉の向こうにいる王に向けたつぶやきは、聞こえること無く消えていった。

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