恋心はテーマパークで発覚する?!
「あ」
思わず声が出てしまって、冬乃は口を押さえ回りを見渡した。
誰も彼女の行動に気を止めてなくて、安堵する。
冬乃はテーマパークで働いている。宇宙をイメージした青色の制服を纏って、笑顔を武器に戦っているキャストだ。
訪れるお客様を不快にさせないため、常に笑顔。
子供の頃から大好きなテーマパークで働くのは夢だったので、アルバイトといえでも冬乃はハッピーだった。
笑顔は基本。再び気持ちを乱されないようにと、方向転換する。
けれども神経は背後に向いている。
彼女が見たものは、大学で一番仲のいい男友達と、その彼女のデート現場だった。
お互いキャラクターを模倣した耳がついた帽子を被って、仲良さそうに歩いてた。
「お姉ちゃん、お母さんどこ?」
ふと袖を引かれて、そちらの方向を見ると四歳くらいの女の子が立っていた。テーマパークの数あるプリンセスの一人の衣装を着た可愛い女の子だ。髪型もプリンセスと同じ、ひとつ結びの三つ編で、マントまで羽織っている本格的派。
「お母さんとはぐれたの?」
冬乃が尋ねると、女の子は頷く。
「一緒に探そうか?」
女の子への親切さとか、仕事としてとか、そんなことより、この場から離れる理由ができて、冬乃はほっとした。そうして女の子と手を繋いで歩き出す。
母親とはぐれた場所まで行き、見つからなければ迷子案内の放送をかけてもらう予定だった。
「お母さん!」
母親は髪を振り乱して、動揺しており、女の子は母親を見つけると走り出す。
「桜子!」
母親も同時に走って二人は抱き締め合う。
テーマパークにはまれに子供を故意に置き去りにする親もいる。なので、冬乃は二人の様子にほっとする。
「ありがとうございました!」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
涙目の二人にお礼を言われ、冬乃もつられて泣きそうになる。それをぐっと堪えて、笑顔を浮かべた。
「会えてよかったですね。これからパレードもあるので楽しんでくださいね」
一時間後にテーマパークイチオシのパレードがある。全キャラクターが出てきてパフォーマンスを行う。
これを見るためにすでに場所取りをしている家族、カップルも多い。
そう考え、先ほどみた男友達とその彼女を思い出してしまった。
冬乃は笑顔で母子に別れを告げ、持ち場に戻る。
あれから二十分は経過していて、さすがに二人の姿はないはず。そう期待して戻り、二人の姿が消えていて安堵する。
仕事、仕事と言い聞かせて、それから笑顔で接客を続ける。
多くのお客様が笑顔で楽しそう。特に子供たちがはしゃいでいて、それだけで冬乃の気持ちは嬉しくなった。
パレードが始まり、アトラクションに並ぶお客様の人数が減る。同時に交通整理とばかり、キャストもそこに駆り出される。
冬乃は今日はアトラクションにそのまま残る担当だ。
二人のところが一人になり、案内を続ける。音楽が流れはじめて、アトラクションに並ぶ列が途切れた。
目を凝らすと、パレードの見学客に囲まれて、馬車が動き出すところだった。
美しい王子と王女が笑顔で手を振る。演じるのは海外からのキャストだ。本社でみっちりトレーニングをされたプロな演者たち。
見慣れている冬乃でも、見惚れてしまうくらい美しい。
「田村!」
ぽんと肩を叩かれて、振り向くとそこに先ほどみた男友達の下野明夫がいた。
「下野くん」
「やっぱり田村だった」
「あ。うん」
隣に彼女の姿はなかった。
いつもは軽口を叩く間柄なのに、冬乃は言葉を続けることができなかった。
「姉ちゃんの付き添いできたんだけど、こういうところ、彼女と来たいよな」
冬乃が見たのは彼女ではなく、姉だったという事実にほっとする。その後に爆弾が落とされた。
「今度、冬乃と一緒に来たい。俺の彼女になって」
「は、え?」
「また大学でな!」
冬乃が反応を返す前に、下野明夫はぽんと背中を叩くと、走って消えてしまった。
「な、なんなの?ちょっと」
二人のやり取りは同僚に聞かれていたらしく、その後かなりからかわれることになった。
ドキドキして翌日大学にいくと、眩しい笑顔を浮かべる明夫。
「おはよう。俺の告白の答え、考えてくれた?」
「こ、告白って。あれがそうなの?」
「だろ?」
「却下」
「え?まじで」
「もう一回、ちゃんと告白してほしい。ううん。私がする」
講義が始まるまでまだ時間がある。
明夫のそばに自分ではない女性が仲良く一緒にいて、冬乃はすごく嫌な気持ちになった。
そんな気持ちになるくらいなら、告白しておけばを思ったくらいだ。
なので、ここで彼女は自身の気持ちを伝えることにした。明夫からちゃんとした告白をもらうのは無理だと思ったからだ。けれども成功の確率はかぎりなく100%に近い。
だから勇気を出せた。
「下野くん」
中庭に連れ出し、周りに誰もいないことを確認して口を開く。
「私、」
「俺、田村のこと好きだ。だから付き合って」
「下野くん、ずるい!」
「先に言われるなんてカッコ悪すぎだろ」
「でもずるい」
「それで返事は?」
明夫はいたずらが成功した男の子のような顔をしている。
「私も下野くんが好き。彼女になります」
「よっしゃ!」
昭夫はそう叫ぶと、すかさず彼女の唇に触れるほどのキスをした。
「下野くん!」
「今日から明夫って呼んで。冬乃」
「あ、うん」
優しく微笑まれ、冬乃の心臓はドキドキしっぱなしだった。
後日、二人はお揃いの耳がついた帽子を被って、仲良くテーマパークでデートした。
(おしまい)