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あるかんばんの話

作者: しろぎつね

ずいぶんと久しぶりの投稿になります。

もしよければ見ていってくださいね。

あるところにとてもまじめな奉公人がいました。

その奉公人は仕事がよくできたので、ずい分若いうちから番頭を任されていました。

仕事ぶりに感心した店の主人は、その若者にのれん分けをして別の店をまかせようと考えました。


ある日主人は若者を呼んで、

「お前はとても才があるからのれん分けをして西の方に店を出してもらいたい」

と言いました。

「ありがたいお話です」

若者が答えると主人は続けて言うのでした。

「それで二つ頼みがある。一つは店のかんばんのことだ。かんばんは北のかんばん屋で作ってもらってくれ。あと、かんばん屋の話をよく聞いておくように」

「はい、そのようにいたします。それであと一つは何でございましょう?」

若者が尋ねると主人はにっと笑って、

「三番目の娘を嫁にもらってくれ。あれはお前をえらく気に入っているみたいなのでな」


若者は三番目の娘と祝言を上げ、西の店も始めました。

かんばんも主人に言われたとおり北の店でしつらえたのですが、そこで不思議なことを言われたのです。

「かんばんは実の娘のように可愛がるのじゃぞ。毎日お供えをして言葉をかけてやるように」

若者夫婦は縁起かつぎのようなものかと思い聞いていましたが、

「なにしろかんばん娘というからな。わっはっは」

というかんばん屋の親方のひと言で、あ、これ親方の趣味なんじゃないか、と二人で目を見合わせたのでした。


ともあれ、二人はまじめでしたので親方の言うとおり毎日かんばんにお供えをあげました。

そして二人はまめに働きましたので、すぐに店は繁盛しました。

二人はこれもかんばんのお陰だと喜び、娘のように大切にするのでした。


やがて子が生まれ、孫にも恵まれました。

二人は子供たちにかんばんを大事にするように伝えました。


そうして時は流れ、二代目が早くに亡くなり、三代目が主人となりました。

三代目は才に長けた若者で合理的な商いが得意でしたので、新しい事業など次々に立ち上げていきました。

そんな三代目も嫁を迎えました。

このお嫁さんは三代目に負けずに合理的な若いお嬢さんでした。

ある時、かんばんにお供えすることを聞き、

「そんな古臭いしきたり、やめてしまったらいかがですか」

と言うので、三代目も以前から止めようかと考えていたこともありお供えを止めてしまったのです。


かんばんは大変悲しかったのですが、先代、先々代とずっと可愛がってもらっていたので、しばらく待っていました。

そのうち三代目に娘が生まれました。

かんばんは、

「もう自分の役目は終わりました。この赤子に祝福を与えて自分はいなくなりましょう」

と言って、どこかへ飛んで行ってしまいました。


その後、この店にかんばんを付けてもしばらくするとかんばんはどこかに飛んでいくようになりました。

三代目は大変後悔しましたが、それでも娘のために商売は続けました。


かんばんがいなくなった日の夜、夢の中でかんばんが、

「私はおじいさんおばあさんに娘のようにかわいがってもらいました。私はもういなくなりますが、あなたの娘をずっと見守っています」

と言ったのを覚えていたからです。

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