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「しーちゃんだいすきぃ〜!」

「ぼくもななちゃんだいすき〜!」


俺の一つ下の幼馴染の松橋奈々美(まつばせななみ)は俺、新井慎太郎(あらいしんたろう)とずっと一緒にいた。

その昔の頃のビデオを親が撮っていて、それをみたらまぁなんともラブラブで、たびたびキスをしていて、まれに舌を絡めあったディープなキスをしている時もあった。なんで止めないんだよ俺&奈々美の親…


ま、まあ、そんくらい仲良しで、仲良しの域を越えるくらいずっと一緒にいたのだ。


ただ、そんなことを恥じらいもなく出来るのは小学校低学年のうちまでだ。

いつからか俺は奈々美から距離を取ろうとし、前みたいにいちゃつくことをできる限り減らそうとした。

減らそうと努力することたったの2時間。奈々美はなんと大号泣した。


たったの2時間俺に避けられただけで大泣きも大泣きで俺の体にしがみつきながら

「い゛っ゛ぢゃ゛や゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

なんて大絶叫されて、なんか流石に申し訳なくなって、奈々美がそういうのを嫌がるようになるまでとりあえず一緒にいることにした。


まぁ俺みたいに恥ずかしがるように変わって、すぐに離れていくだろうと考えて、今まで通り過ごして行った。

そんな今まで通りな生活が続くことなんと8年。どうやら変わったのは俺だけだったらしい。




◆◇◆◇◆




ある夏の午後、試合終了の合図が体育館内に響き渡り、うちの高校の女子バスケットボールクラブが強豪校との試合に勝利した。

ある女子は勝てたことの喜びに発狂し、ある女子は喜びのあまり固まって、ある女子は別の女子に抱きついて全力で喜びを表現している。


そして、この試合に唯一本当の女バス部員ではない奴が近くで見ていた俺の方にダッシュしてきた。


「私勝った!勝てたよ〜!!やった〜!!!」


そう言って俺に飛びついてきたのは、現在高校1年生の女子、俺の後輩であり幼馴染の松橋奈々美だ。

俺は試合終了直後なのにめちゃくちゃ元気で、でも汗でベトベトな奈々美を受け止め、頭を撫でてやる。


「おうおう、お疲れ様。よかったじゃないか。俺からみても結構活躍してたと思うぞ、奈々美」


そう俺から褒めると


「えへへ〜。私がすごかったんなら帰りにコンビニでアイス奢って!」


言ってきたので、「わかったわかった」と返してやると、満面の笑みで頷いてから、「それじゃ着替えてくるからちょっと待っててね!」と言って他の女バス部員の方へ行き、更衣室へと消えていった。


しばらくして、奈々美が他の女バス部員よりも先に出てきた。

もうどうやら各自着替えが終わり次第解散という形になったらしく、さっさと帰るために急いで着替えてきたようだ。


「っさ!早く帰ろう、しーちゃん!」

「ほいほい」


そんな感じで帰ることになり、帰路に着く。

この辺は一応県内だけど、家に早く帰るのなら電車を使って帰る方がよっぽど早い。


今日は流石に奈々美も疲れてるだろうから早めに帰ろうと駅に近い分かれ道の右側の道に曲がったところで、奈々美がいなくなっていた。


俺はめちゃくちゃ焦りながらさっきの分かれ道のところまで戻ると、左側の道からちょうど奈々美がでてきた。


「しーちゃん!かってにいなくならないでよっ!」

「いやそりゃお前だろ。なんで駅とは反対方向地繋がる道行くんだよ」

「しーちゃんこそ何言ってんの!私は!今から!しーちゃんと!遊びに!行くのー!!」

「あぁ、はいはい、わかったから落ち着け。てか奈々美疲れてないのか?」

「めっちゃ疲れてるっ!!」


じゃあ帰ろうぜ。という言葉を飲み込んで、俺は奈々美に大人しくついて行った。

奈々美は俺がついてくるのを確認して、ゆっくりと歩き始めた。


俺はどこにいくかなんて聞かされていないから確実についていけるように奈々美の一歩後ろを歩く。

それに気づいた奈々美はなぜかペースを落とす。俺はその落されたペースに合わせてペースを落とす。

それに対抗するように奈々美はさらにペースを落とし、俺もまたそれに合わせて落とす。

それを繰り返すこと数回


「いや何してんの?」


流石に我慢ならずきいてしまった。

すると、奈々美は


「いやっ!しーちゃんこそ何してるの!?なんで隣歩いてくれないの!?」

「だって、いく場所知らないからさっきみたいに勘違いしてはぐれたりしないようについてこうと後ろにいたんだけと?」

「そんなの手を繋げば一発じゃん!!」

「高校生になっても異性と手を繋ぐかっ!」

「しーちゃんなら大丈夫!」

「なんでだよ!俺は男じゃないとでもいう気か!?」

「いやそれはないでしょ…」


うわぁ…とでも言いたげな目で見つめてくる奈々美。

ちょっといらってきたけど、いつも通りなこのやりとりに少し安心した。

結局あのあとゲーセンだの人気チェーン店だの色々連れ回されて、帰った頃には俺の方が疲れてるという感じでその日は解散となった。




◆◇◆◇◆




次の日、今日は学校があるのでいつも通りの時間に家を出る。

すると、隣の家から1人の女子が勢いよく飛び出してくる。


「しーちゃん!お〜はよっ!!」


そう言って俺の腕に飛び付いてくる奈々美。

そして、その奈々美に抱きつかれながら登校する俺。


側から見たら朝っぱらからめちゃくちゃいちゃつきながら登校するクソバカップルみたいだろうが、俺たちは断じて付き合ってなどいない!!


いやまぁ俺は好きっちゃ好きだよ?こいつ顔も性格も可愛いし?なのにスポーツしてる時はかっこいいし?何かと面倒見いいし?元気で明るくて一緒にいるとストレス感じないし?昔からずっと一緒にいるし、ここまで距離が近かったら好きにならないわけないし?


じゃあなんで告白しないのかって?

怖いんだよ!!こいつにもし告白して振られたら立ち直れないしっ!!

告白なんてしちゃったらこうして一緒にいることもできなくなるでしょうが!!

ありがちな言葉だけど、今の関係が崩れるのが怖いんだよっ!!!俺はチキンなんだよ!悪かったな!!!


とまぁ、割と本気で大好きなこいつがここまで距離をガンガンに詰めてくるから最近はずっと緊張しっぱなしだ。

それに対してこいつは、ちっとも緊張してなさそうな感じだし?顔も赤くならないし?周りに「付き合ってるの?」って聞かれた時はなんも動揺せずに「違う違う〜」なんて答えるし?流石にキスはしなくなったけど、それでもこうして何気なくベッタリだし?意識されてないの丸わかりだし?


泣きたくなるよね?仕方ないよね?ね?泣いていいよね?てかいいかげんちょっとは意識しろよ奈々美のばかやろぉ…

どうせ俺のことなんて好きじゃないんだから告白なんてしても無駄なんだよっ!


とか誰に対しての言葉かわからないことを叫びながらいつも通り学校につき、教室の前で別れて自分の席に着いた。

すると前から中学の頃から仲がいい友達が現れ、突然言った。


「お前と松橋さんって付き合ってないんだろ?でもお前は好きで松橋さんは意識すらしてないんだろ?」

「そうだよ悪かったな!あんなに大好き大好きって言われてるけど全部あれは幼馴染としての好きなんだよっ!どうせあいつは好きな人なんていないっつーの!」

「おいおいおい、一体いつからお前以外を好きになっていないと錯覚していた?」

「なっ!!!?」


そっ、そうだ!忘れてた!あいつがどんな奴を好きになるかなんて知らないし、そもそも俺以外に好きになるやつがいるかもしれないんだった!!くっそ、あいつとずっといっしょにいすぎてて忘れていた。


内心焦りまくりな俺はなんとか反論の言葉を探して、思いついたのを早速そいつにぶつけた。


「いっ、いや、あいつは俺とずっと一緒にいるから好きになる暇なんてないだろ」

「いや、普通に学年自体違うんだからこうしてだべってる間にも松橋さんが誰かを好きになる時間なんてたっぷりあるだろ」

「いや、休み時間にたまにみるが、あいつはほとんど男とは会話してない!」

「最近はLGBTも受け入れられてきてるってのを忘れるなよ」

「ぐっ、いや、そもそも俺以外に好きな人がいるんなら俺のところにこねぇだろ!」

「この前お前が言ってただろ、あいつが俺のとこに来るのはもはやルーティンワークみたいなものだって。じっさいそれ説もあるくないか?」

「ぐはぁっ!!!」


俺が膝から崩れ落ちたのをみたそいつはふっと鼻で笑ってきやがった。

ただ、言い返そうにも何も言葉が出てこない…くっ、悔しい…


「悔しいが、俺の完敗だ…」

「おう、わかってんならさっさと告って玉砕してこい」

「いやだよっ!?てかなんで玉砕前提!?」

「さっき自分で言ってただろ…」

「ぐほぉっ!!」


そんな感じでそいつに言葉の暴力でボコボコに殴られた俺は、奈々美の好きな人のことについて考えてしまい、ろくに授業を聞けないまま午前が終わった。

午前の最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に教室の扉がものすごい勢いで開き、いつも通り奈々美が現れる。


「しーちゃん!お昼行くよっ!!」


そう俺の方に向かって叫ぶ奈々美。いつものことだが俺に拒否権というものは存在しない。

だから俺はいつもの調子で


「わかったからちょっと待っとけ〜」


とだけ返し、授業で使った教科書達を片付け、弁当をバックから取り出す。

そして、奈々美のところへ行こうとした時に、不意にあいつがこう囁いてきた。


「告白して、ちゃんと答えもらって、未練断ち切って新しい恋を探せばいい。まぁ、ないとは思うけどお前の告白がOKされるかもなっ!!!」


最後の方だけわざと奈々美にも聞こえるように大声で喋りやがったぞこいつ!!!


流石にこれは本人の前で聞かれたことと、クラス中に聞こえるように言いやがったことにイラッときたため軽く頭にチョップ食らわして「変なこと大声でいうなっ!!あと、余計なお世話だっつーの!!」とだけ吐き捨てて奈々美の方へ向かった。


その時の奈々美はどこか焦ってるような絶望しているようなそんな感じの顔をしながら額に青筋を浮かべていた。

何かあったのか聞いてみると、


「いやいやいやいや!なんでもっ!なんでもないからっ!!?」


とまぁ超絶挙動不審な声で返答されたが、今までもたまにこうなっていたから特に気にしない方向で行くことにした。

いつも通り空き教室でお昼を食べるため2人で歩いている時も、ずっと奈々美は真剣な顔でぶつぶつ呟いていてたまに絶望してるみたいになったりいきなり明るくなったりコロコロ表情が変わって少し面白かった。


ずーっと何か呟いている奈々美を眺めながら歩いていると、空き教室についた。

普通に鍵の壊れたドアを開け、2人で入っていく。


電気をつけると誰かにバレるかもしれないから電気を消したまま弁当を開ける。

今は少し曇っていて太陽が隠れているため、薄暗い部屋に年頃の男女が2人きりという状況になっていて、側から見たらあまり良くない光景だろう。


ただ、俺たちはいつも使っているため特に気にもしていない。

しかし、今日に限ってはお互いに緊張が走ってしまっている。


奈々美の方の理由はよくわからないが、俺はその奈々美の雰囲気にビビっている。

教室に入ってからは奈々美はずっと、俺の方を凝視していて、口を開いたかと思うとすぐにまた閉じてしまう。

何が言いたいのかが全く分からず、普段なら元気に話しかけてくるから、今の異常性にはどうしても驚きが隠せない。


若干ビクビクしたまま弁当を食べ進めてると、唐突に奈々美が喋りかけてきた。


「しーちゃんは…好きな人…いるの?」

「えっ?なな…なんで?」


あっぶなっ!急なことだから普通に「奈々美」って答えようとしちゃったよ!

あぶな!ギリギリセーフだけど、アウトだよ!!(?)


「ただ、気になるだけ…で、いるの?」

「えっ、あっ…いるよ?」

「誰?」

「えっ、…な…秘密」


はいチキりました!

これだから俺はゴミカスクソチキン陰キャ童貞なんだよ!!

いやぁ、でもさ、普通好きな人に面と向かって好きって言える?

俺は無理だよ!だから仕方ない!!


とか必死に弁解してると、目の前の奈々美の顔がドンドン暗くなっていく。

そして、終いには目にうっすらと涙を浮かべ出した。

まぁ俺は当然慌てるわけで、「そんなに俺の好きな人知りたかったの!?」とついつい聞いてしまう。

でも、奈々美はふるふると首を振って、少し震える声で聞いてくる。


「どんな…人なの?」

「えっと…明るくて、優しくて、俺とすっごく仲がいい人」

「そっか…ありがとう…」


そういうと奈々美はすっかり黙り込んでしまい、ただ無言で弁当を食べていく。

俺もなんか気まずいと感じて、ついつい黙ってしまう。


せっかく2人でいるのに無言で食事をするだけの時間は、なんともいえなかった。

ただ、その静寂を思いっきりぶち破る人が現れた。


「はっろぉー!えぶりわぁんっ!!」

「うるさいです帰ってください高坂先輩」

「うおぅ!相変わらず冷たいねぇ!でも、そんなしんくんもかわいいよ!」

「なるほど、全く嬉しくないんで帰ってください」

「もーもー!後輩がつれない〜!もー!なんか言ってやってよななちゃんもさぁ!!」

「えっ、ご、ごめんなさい?」


説明しよう、このあっほみたいにうるさい先輩は高坂明穂(たかさかあきほ)先輩。去年体育祭のチームが同じと言うことで知り合ったものすごくうるさい高校三年生。こんなテンションだから鬱陶しいけど、実際真面目なの時はすごく頼りになるし優しい先輩だ。


「あっ、奈々美、言っとくけどこの人なわけないからな?」

「えっ?何の話?なんか酷いこと言われたのはわかるけどなんの話?」

「そっか、よかった…」

「あれ?私無視されすぎじゃね?おーい!2人とも!私の声聞こえてる!!?」

「ん?何がよかったんだ?」

「ききっ!気にしないでいいから!!」

「ねぇ?マジで無視しないで?先輩泣いちゃうよ?」


うーん、なんでホッとしてたんだろう?

もう十数年一緒にいるはずなのに、いまだ人の心を理解するのは難しい。

と言うか、自分の心すら理解できないような人間が、誰か他のことを理解しようとするのはどうしても無理がある気がしてしまう。


所詮人間は小さい生き物で、神みたいに全てを理解はできない。

なのに全てを求めてしまうのが人間…なんとも不思議なものだな…


「おーーい!!変なこと考えてないで!そんな読者が「なんなんこのくだり?絶対いらんやろ」ってなるような話しないで!私に構って!かまってってばァ!!!!」


そんなこと言いながら岸◯がデ◯ジとパ◯ーを抱き締めるふうに首を絞めた時みたいな抱きしめ方をしてくる先輩。

俺どころか奈々美まで被害を食らっていて、このままではデン◯と◯ワーみたいに2人揃って首が折れてしまう。

なので、仕方なく先輩の話を聞いてあげることにした。


「で、先輩、話ってなんなんです?」

「え?君がいつななちゃんにこ…」


そこまで先輩が言った瞬間、体が勝手に動き、先輩の口元を静かに人差し指で押さえ真顔で話しかける。


「先輩?それ以上喋るとどうなるか…わかってますよね?」

「あっはは…わかんないなぁ…テ◯ジくんみたいにキスされちゃうのかな?」

「ちがいます。デン◯くんみたいに首をポッキリいかれるんですよ」

「あはは〜。もう何も言わないから…離してほしいなぁ?」

「もし話したら…あのこと、知り合い全員にばら撒きますからね?」

「うん。もう絶対言わない」

「それでいいです」


そうして先輩が本人の目の前で告白どうこうという話をしようとしたのをなんとか止められた。

幸い、奈々美は何のことかさっぱりなようなので、なんとか先輩の口から俺の奈々美への好意を知られることは無くなった。

あっ、ちなみに先輩のあの話というのは、先輩の厨二病を拗らせてた時のノートを偶然俺が保持していると言うことなのだ。


ちなみに先輩の中でもあれはだいぶ黒歴史らしく、ばら撒かれることをひどく恐れている。

とか考えていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。


仕方ないのでそれぞれ教室に戻ることになる。

そこで去り際こそっと奈々美に聞きたかったことを聞く。


「なぁ、今日の放課後、よりたいところあるんだけど、いいか?」

「えっ、べつにいいけど?」

「そか、ありがとな」


俺は決めた。

今日の放課後、昼休み中にできなかった告白を必ずしてみせる。

そして、潔く散って、新たな恋を探すのだ!!

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