第45話 義務感の正体
「おぉそれで7巻まで読んで、あの動画が偽物って証拠が揃ったのか。でかしたな、八代」
翌日、サークル部屋に集まったメンバーで昨夜の気付きを共有する。夜の10時までOwletに残った百華の成果だ。
「もっと褒めてくれてもいいんだよ」
百華が決め顔でそう言うが、
「それって表紙見た時点で気が付かなかったか?」
調子には乗らせまいと那由多がそう返した。
「ね、次元くん。これがソラと違って、言動がイケメンじゃない例」
百華がそっと顔を向けてそう言うので、理巧は苦笑いして応じるが
「言動以外はイケメンってことでいいか?」
と、今度は那由多が決め顔で言う。実際、那由多の顔は世間一般にいうイケメンではある。それは百華も認めるところだが、「はー」とため息を吐いて
「私と出会った頃はそんなに自信家じゃなかったのに。誰がこんな子に育てたのかしら」
と呟く。その言葉に那由多は百華から顔を逸らしたので、燐は百華が要因なのだと理解した。
「あ、そろそろ来る時間じゃないですか?」
陽斗がそう言うと、ちょうどサークル部屋のドアをノックする音が聞こえた。また、忍びの襲撃が来たわけでは当然ない。
「すみません、UFOについて話しに来た佐々木です」
「あ、はーい」
百華が「今開けまーす」と、郵便物でも届いたかのように返事して、すぐにドアを開ける。
「どうぞ、そこに掛けてください。わざわざ来てもらってありがとうございます」
「いえ、研究室も近いですから」
そう返すのはUFO事件最後の聞き取り調査の相手にして、理巧達が最初に見た動画の撮影者だ。
そして、
「改めて、理学部魔法化学科4年の佐々木直人です」
そう、最後の動画の撮影者は彩球魔法大学の先輩だったのである。
佐々木が案内されソファーに腰を掛けると、那由多がお茶とお菓子を用意した。もちろん感謝の意味もあるが、質問へより正確に答えてもらうためでもある。
「では早速ですけど、当時の状況について質問をしてもいいですか?」
「百華が先輩って、言ってるの違和感あるな。すごく」
「ファイは八代先輩のこと呼び捨てなのに、先輩って認識あったんだな」
聞き取り自体は担当の百華、陽斗、燐の3人に任せているので、理巧とファイは少し離れたところで会話を聞いていた。
今までの相手と同じように、当時の様子について質問していく。
「その場の様子ですか。直接は見てないんですけど、まず、過呼吸で女の子が倒れたみたいでざわざわし始めました。その後、俺も含めて不調の人が複数現れ始めて、俺は頭痛でしたね。そしたら急に生暖かい風が吹いて来て、土砂降りの雨に遭いました。そして、雷が光ったちょうどそのとき、参加者の1人が倒れたんです。すると、周りも次々と倒れ始めて……そのときこう思ったんです。『倒れなきゃ』って」
そういえば病院で会った山本さんも「次はお前だ」なんて囁かれた気がすると話していたっけ。
「あれは同調圧力みたいな、ある種の義務感だったと思います。ずっと違和感は感じていたんです。それで映像を回してましたから。でもいつの間にか違和感は義務感に変わっていって。俺はその正体を知っていました。妖覚です」
「「――――!」」
佐々木の言葉に一同が反応した。妖覚が刺激されたということは魔術などで振幅の大きな情報波が空間に伝わったということだ。しかし、その佐々木の言葉の続きは想像とは異なるもので、
「でも、魔術よりもっとじんわりと、何かに包まれるようなイメージで」
確かに忍びたちを消し去った魔法の衝撃が大きくてあまり感じていなかったが、理巧を不調にさせた魔法は空間に薄く広がっていたのかもしれない。
「俺はUFOをはっきり見たとは言えないですね。稲光がすごかったのは覚えてるんですけど」
「赤いドレスを着た少女ですか? そういえばネットではちらほら見かけましたが、少なくとも俺は見てないですよ」
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一通りの質問を終えてお礼を告げ、佐々木先輩には帰ってもらった。また、聞きたいことがあればいつでも呼んでいいとのことだ。
佐々木の証言の録音を聞きながら、陽斗がメモしたノートを燐と2人で確認している。万が一あることないこと書いてあったら、超自然学サークルが陰謀論サークルになりかねない。
とはいえ、確実に覚えている話でも気になる点はあった。
「心理学的な集団パニックと忍びによる精神干渉、多分当時現場ではどちらも働いていたんだろう。でも、精神干渉は本当に魔法だったのか? 不快感や痛みを押し付けるのならまだしも、『倒れなきゃ』なんて義務感をどう魔法として落とし込むんだ」
那由多は魔術の構成に疑問を呈した。




