第44話 時系列
「「ごちそうさまでした!」」
5人でテーブルの上を綺麗に平らげ、お皿一つ残っていない。もちろん悪食で皿まで食らったわけではなく、
「ありがとうね、運ぶの手伝ってもらっちゃって」
笑顔で感謝する紗千に、陽斗は「いえいえ」と返す。
「母さん、いつもは魔法で皿飛ばしてるでしょ」
「こういうのは気持ちだから、ね」
そう言って厨房から紗千がちらりと見せるのは可愛らしい柄の紙袋だ。
「うちの常連さんが焼いてくれてさ。感想が欲しいらしいんだよね。あ、感想は後で理巧経由でくれればいいからね」
紙袋の中、透明な袋に小分けされていたのは黄金色のクッキーだ。
「美味しそうですね」
「もらってもいいんですか!」
「どうぞ」
百華はお礼を言って小袋をもらうとテーブルまで戻り、「いただきます」といってその場で封を開けた。
「今食べるんかい」
「え、ダメ?」
「オレはもうお腹いっぱいで、あととても眠い」
那由多がゆっくりと瞬きをしながらそう話す。確かに瞼が重そうだ。
「それはいつものことでしょうが」
百華が呆れた表情で那由多を見る。
しかし、
「あのー、すみません。私はそろそろ帰ろうかなって思うんですけど。レポートもやりたいですし」
と燐が告げる。
「そっかー。まぁ確かにみんな疲れてるもんね。じゃあ今日はここらで解散ってことで」
「「はーい」」
リンリーンとドアベルを鳴らして3人が外に出る。
「そんじゃお疲れ」
「また明日です」
「じゃっまたっす」
那由多、燐、陽斗の3人を見送った。
「ボクもそろそろお眠だから寝るとしようかな」
「分かった。おやすみなさい」
そうしてファイはフワッといなくなるのを見届けて、理巧は隣に顔を向ける。
「八代先輩はまだ帰らないんですね」
「え、いいでしょ? 家に帰ってもどーせ1人だしさ」
「僕も母も構わないですけど――」
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「――だったら、1人じゃできないことやった方が良くないですか?」
3人を送ってから10分ほど経って、理巧はテーブルに座る百華に話しかける。
「ごめん、ごめん。やっぱり続き気になっちゃってさ」
「まー僕は気にしないですけどね」
まぁ2人で会話するとしても理巧的には良い話題も思いつかないので、むしろちょうど良かったが。
「それで、どこまで読み進みました?」
百華は左右の厚みを比べて読み進み具合を確認。1対9ぐらいだろうか。左が1割だ。
「今2巻終盤だねー」
「先輩読むの速すぎません?」
「そうかなー」
百華の読んでいるのはもちろん『つれりあん』だ。1巻でアブダクションされて、2巻は世界各地を巡り始めたところだったはずだ。
「このペースなら明日には7巻まで読み終わりそうですね」
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目の前に広がる大瀑布に、茜はただ目を奪われていた。滝壺に落ちる前に霧とかした滝の一部が虹を映し、辺りに響き渡るピングノイズは考えることを忘れさせる。
――ふと横に顔を向けるとそこには美青年の姿があった。
「ふふっ、ソラがまだちっこいボールだった頃と同じ色。――」
吸い込まれるような空色と周りを覆う輝く白。
「――綺麗だね」
「そうかな」
「そうだよ」
見知らぬ祠で玉を拾ってまだ2週間。こんなにも綺麗な景色が見れるなんて、薄汚いアパートに住んでいた頃は想像もしなかったことだ。
さて、次はどこへ行こうか。少しは見慣れた宇宙船の天井を見ながら、茜は次の目的地を選ぶのだった。
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「2巻も読み終わったー。ソラって、本当にイケメンだよね」
「まぁ自由に顔変えられますけどね」
ソラは茜に封印を解かれ、その後一緒に旅をするスライム型のエイリアンだ。人の言葉は最初から話せるようで、その姿は自由自在に変えられるが。
「いいや、それでも言動がイケメンだ!」
「は、はい」
そんなこんなで百華は時折理巧と話しながらも着々と読み進めていく。その間理巧は大学の課題を進める。
「おぁ! この台詞いいな。カッコいい」
「そこのシーン、アニメだとカット追加されてましたね」
「すごい構図だな。何かデザインに活かせるかも」
「あれ、原作だと台詞ちょっと違うんですね」
「うわーん。こんなん泣くしかないでしょ!」
「まさか今日中にここまで来るとは」
時刻は22時を回り、百華は7巻を読み進めていた。そう、茜がソラから赤いドレスをプレゼントされる話の収録された巻だ。
「あれ?」
「どうしました」
「次元くん、ポスターの写真出せる?」
「これですか?」
ポケットからシリフォンを取り出しそのまま空中結像で画像を表示する。
「この描き下ろしイラストっていつ発表されたんだっけ」
「確か、UFO事件があった日のイベントで発表されるはずだったけど中止になって、その後発表されたんじゃないですかね。この間錫木先生に会ったポップアップストアまでに」
「なるほど。ちょっとさ、これ見比べてみてくれない?」
「見比べるってどこを……違う。ドレスのデザインが違う」
7巻終盤の見開き1コマのドレスと錫木先生にもらったポスターの写真とを見比べると、ドレスのデザインが異なっている。原作のままだと作画コストが高すぎたのだろう。細かな装飾が少し省略されている。でも、漫画や小説をアニメにするならこうした変更は珍しくないことで……
いいや。理巧はある発言を思い出す。百華は先に思い出していたのだろう。
『動画に映ってたコスプレの少女も同じ服着てたな』
ポスターを見たときの那由多の言葉だ。
もちろん制作コストが高いからと、原作マンガではなくアニメのデザインでコスプレの衣装を作ったのかもしれないが、発表前となれば話は別だ。
理巧はすぐさま、シリフォンの画面を更に引き伸ばし、キーボードに変えると空中結像の画面で検索を始める。
「念の為調べましたけど、描き下ろしイラストの発表日は4月2日、UFO事件の翌日ですね」
確定だ。時系列的にありえない。
「4月1日に事件の動画に、2日に発表されたイラストと同じ衣装のコスプレが映っているってことだよね。つまりは、例の動画は明らかに偽物」
解析ソフトすら欺く巧妙なフェイク動画だ。
「思わぬ形でどちらがフェイクか判明しましたね。少しは真相に近づいた気がします」
「私も楽しく……頑張って読み進めた甲斐があったよ」
言い直せてなかったが、嬉しそうな百華の顔を見て、理巧はツッコミを入れようとは思えなかった。




