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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第38話 訪問者

 UFOに関して観測者が違う色、グレー以外だと答える確率がどれほどかは分からない。流石に統計検定でこの偶然を測るのは難しそうだ。そう理巧が考えていると燐が再び話し始める。


「アンケートではなくて、直接会って話した人の証言も共有しますね。まずはイベントの参加者として現場にいた山根さんから。」


 先週の火曜日から始めた聞き込み調査、実際に会って話を聞いたのは3人だ。山根、小林、川崎。それぞれ参加者、スタッフ、通行者として現場に居合わせた人達だ。


 燐が聞き込みのメモを読み上げる。一人一人丁寧に読み上げる燐だが、内容を簡潔にまとめればアンケートの結果に同じだ。

 もっとも、排他的論理和が空集合というわけではない。イベントそのものの流れや運営側のゲリラ豪雨への対応、さらには一般の通行人目線での様子についても聞き取れた。


「――と、いうのが今回の聞き込み調査で得られた事件の情報になります」


 燐が報告を終えると、「報告ありがとー」と百華が一言。燐もそれに微笑み返した。


「一応、あともう1人直接会って話を聞く予定なんだけど、あらかた事件の真相は雷雨喘息と集団ヒステリーってことでいい感じかな」


「ちょっと待った」


 百華に声をかけたのは空中にポンと現れた赤みがかった雀、ファイだ。燐が話している間も、とある検証のため、環境を整えていたようだ。


 ファイはモニターにモデリングソフトの画面を映す。


「これって、事件現場の3Dデータか」


 陽斗の言った通り、現場に調査に行った際にファイが収集したポイントクラウドを元に作られたもののようだ。そして、画面に映るのはそれだけでない。フェイクでないと判断された4つ動画を撮影したカメラの位置とその画角が示されている。


「動画を数フレーム毎に深度推定、深度と撮影位置から4つのカメラで時刻を同期しつつ現場の3Dデータに物体を逆投影してるのがこの画面だ」


 カメラの画角内限定だが、動画から現実世界を再現しているようなものだ。ファイが解析の準備していたのは知っていたが、理巧もここまで手の込んだことをするとは思っていなかったので感心よりも驚きの方が大きい。


「手ブレや深度の推定値の誤差から多少ずれることはあっても、カメラ同士の画角が重なったとき、普通は同じ場所に物体が描画される。でも、ここだけおかしい」


 ファイは画面に入り込み、3Dデータの中である場所を飛び回る。その中心にいたのは、


「――茜」


 百華が名前を口にした赤いドレス姿の少女だ。カメラに映っている面は描画されているが、もう反対側は映っていない。別のカメラの画角に入っているにも拘らずだ。


「なあ次元、これってあり得るのか? どちらもフェイクでないと判断された動画同士で矛盾が生じてるんだが」


 那由多が発した当然の疑問に理巧は少しドキッとする。


 ディープフェイクが検出されなかったからといって、映像が絶対に確実なものであるとは考えないようにとサークルにも周知したはずだから、矛盾が生じたことは謝るしかない。


 だがしかし、理巧が忍びについて独自に調べていたことは知られたくなかった。それでも調査の進展に大きく関わる以上話さないわけにはいかない。


「……すみません。実は最近分かったことなんですが、」


「解析ソフトで見抜けないディープフェイクが存在するんだな」


 言い切る前に那由多に当てられた。確かにこの状況を説明するには仮定の否定が不可欠だが、那由多からすれば当初から考えていたことなのかもしれない。


「先週の月曜日、忍びについてネットで軽く検索して、ある写真と動画を見つけたんです。それが今と同じように、写真には映っているのに同時刻の同じ場所の動画には映っていないっていう状態で」


「もしかして、その映ってたり映ってなかったりしたのが、この間私達が戦った忍びってこと?」


 百華の問いに理巧は頷いた。


「そういえば、田口さんも防犯カメラに映ってなかったって言ってたし」


「それも解析の結果以上は見られなかったって話でしたね」


 すると、もう1つ考えなければならないことがある。


「忍びが関与しているという可能性も、浮上するということですね」


 燐の代弁に息を飲むのは理巧と百華だ。実際怪我こそしなかったものの、忍びとの攻防では危うい場面がないこともなかったからだ。


 それと理巧にはもう1つ考えねばならない可能性がある。

 ディープフェイクとそれを見抜く技術は常にいたちごっこの状態にある。がしかし、この数年間見抜く側として逃げ続けていたのが、あのPOF――既最適化関数を使ったソフトだったのだ。開発者は、理巧と同じくWFホワイトファンクションズのハッカーの1人。


 もし、そんな高性能なPOFを使っても、抽出した特徴量からフェイクを見抜けないとしたら、さらに高性能なコンピューターが関わっている可能性がある。そのコンピューターとは人口量子脳に宿ったCyli――電脳生命体だ。


 POFで見抜けないディープフェイク、忍びに狙われたファイの人口量子脳。もしもあの事件の日に連れ去られたCyliが関わっているとしたら……。また増えた隠し事に理巧は下唇を噛む。


「これってさ、つまりどっちかは偽物ってことだろ?」


「そうなるね」


 陽斗に質問を理巧が肯定する。


「なら、多分偽物なのはUFOと茜が映っている側かな」


 百華の一言に「どうしてだ?」と那由多が言いかけたが、その言葉を遮ったのは加工された低い声だった。


「全員、杖を捨てろ。怪しい真似するんじゃねぇぞ」


 サークル部屋の入口に5人と1羽の視線が集中する。


 全身を黒い衣装で包み、マスクと頭巾で頭まで覆った人物。


「し、忍び」


 だが、現地調査の日の遭遇したやつと異なり、ヘッドセットは装着しておらず、布と布の合間から黒い目がこちらを覗いている。そして、その腕には1人の男が喉元にクナイを突きつけ拘束されていた。


「ごめんね。先生捕まっちゃった……」


 そう言った自称サークル顧問の首にクナイの先端が触れる。


「杖を置いたら

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