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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第36話 布教用ポスター

「おはよう」「おはようございます」


 理巧に続いてサークル部屋を訪れたのは陽斗と燐だ。


 ソファーに腰をかけて漫画を読む百華、それを後ろから覗き込む理巧とファイが入口の方に顔を向けて「おはよう」と返事をする。


「あれ、それって」


 入ってすぐに漫画に気が付いた陽斗は理巧の隣に移動し、燐もその後ろを付いていく。結果、1年3人と雀1羽がソファーの後ろから百華の手元を覗き込む形になり……


「ごめん、ちょっと暗いかも」


「あ、すみません。【照光(イルミネイト)】」


 陰で見づらくなった百華の手元を、燐が光属性の魔法で照らす。物理エンジンのごとく空中に現れた光源は、何も無いはずの場所から白い光を放つ。光の放射される方向は調整できるので理巧たちが目眩ましを食らうということはないのである。


「おー燐ちゃんありがとー」


「いえいえ」


 燐は当たり前のことをしただけだという顔をしながらも、少し微笑んだように見える。その様子を覗き込む陽斗と、さらにそれを外から眺める理巧とファイ。百華の後ろで平和な時間が流れているが、


「えっ、うそーん! 何これ気になるー。続きはーこれだ」


 ゆっくり流れるソファーの後ろに対して、ソファーの上では黙々と百華が漫画を読み進め、1巻目を読破したところのようだ。


「あれ、いつの間に」


「あぁ、これ先生から借りてるやつだから、読みたかったらご自由にね」


 置いていかれていた理巧に百華がそう声を掛ける。堂々とした又貸し発言だが、先生の意図的にも全員に見せることが目的だろう。それになんか、これも布教用な気がする。


「雨宮もまだ来ないし、このまま2巻目も……」


 続きの気になる百華は、すぐさま2巻目に手を伸ばし、その表紙をめくろうとしたが、


「よお、揃ってるな」


 ちょうどそこへ、那由多がやってきた。


「噂をすれば、ですね」


「ちょっと、雨宮、タイミング」


 待ってましたという燐の声と待ってませんでしたとい百華の声が雨宮の耳にそれぞれ届く。後者の理不尽には慣れたものだが、


「え、なんか同じ場所から一斉にこっち注目されると怖いんだが」


 ソファーの方から5つの視線を向けられ、那由多は少し嫌そうな顔をした。


「にしても、ソファーに1人座って、後ろに1年が3人もいると、なんか侍らせてるみたいだな」


「そして、私は(いま)そかり」


「――――」「――――」


 少しの沈黙のあと、「フフ」っと燐だけが失笑した。

 この空気を終わらせようと百華が慌てて口を開く。


「ささっ、全員揃ったってことで、始めよっか!」


 そう告げた百華にみんながそれぞれが返事をした。


      ―――――――――――――――――――――――――


 机を囲むソファーと椅子にそれぞれが腰を下ろす。Uの字を描くように、那由多、理巧とファイ、百華、燐、陽斗の順。資料読みに仮説討論会など、みんなで座って何かするときの座席はこの位置に落ち着いている。


 みんなが腰を下ろし落ち着いたところで、理巧が百華に話しかける。


「あ、そういえば、この間錫木先生にもらったポスターってどこに?」


「先生にもらったポスター?」


 百華に向かって尋ねる理巧に、知らない陽斗が疑問符を浮かべる。土曜日に偶然、先生と街中であったことは誰にも話してないので、知らなくて当然だ。


「あ、そうだね。えっとね、これこれ」


 百華がカバンから筒を取り出し、梱包の袋を破って机の上に広げてみせた。が、癖がついてくるくると勝手に巻かれてしまう。


「ごめん、なんか抑えるもの」


「じゃあこれで」


 那由多が立ち上がり持ってきたのは、サークル部屋に置かれていた土偶らしき置物だ。『つれりあん』に登場するスライム型エイリアンより、よっぽど宇宙人っぽい形をしている。


「あ、これって『つれりあん』の、主人公の女の子ですよね」


 そんな置物を気にすることなく、ポスターの内容に最初に触れたのは燐だった。


「っそ。新規描き下ろしイラスト、なんだってさ」


「新規、描き下ろし?」


「このポスターとか、他のグッズにも使われてるけど、そのために新しく描かれたってことだね」


 知らない単語を聞いた燐は、理巧の説明を聞いて「なるほど」と理解した。


「ちなみに、このイラストはアニメの3期の内容を意識して描かれてるみたいだぞ」


「そっか、3期で7巻の内容をやるから、この子は赤いドレスを着てるんだ」


 ファイの補足を受けて百華がイラストの意味を考察する。


「ーーーー」


「どうかした?」


 百華が那由多にそう尋ねると、他の面々も那由多に注目する。特に那由多に変わった様子はなかったので、長年の付き合いというやつだろうか。

 百華の問に答える那由多に、本日2度目の注目が集まる。


「いや、動画に映ってたコスプレの少女も同じ服着てたなって」


「え、そりゃそうでしょ、コスプレなんだから」


 何を当たり前のことを、といった口調で話す百華。周りの他の面々も同じ感想だ。


「何か引っ掛かるように気がするんだが」


「何か引っかかる。 そう言えば、ファイも動画に違和感があるって調べてたよな」


 ファイは一昨々日頃から何かを準備しているようだが、その詳細は理巧でも聞いていない。


「あー投稿者が怪しい例の動画な、今検証の準備を進めててもう少しで終わりそうなんだ」


「検証の準備ですか。流石ファイちゃんです」


「じゃあ雨宮先輩の感じる違和感も含めて、聞き込みが終わってからまとめて消化するってのでもよさそうっすね」


 ファイの話を聞いて燐と陽斗が反応した。理巧も映像の処理をずっとやっていることは知っていたが、思っていたより大規模な解析をやっているようだと感心した。


「とりあえず、このままもあれなのでポスターどこかに貼っときますか」


「そうだね、じゃあここら辺で。雨宮、そこの引き出しに画鋲入ってない?」


 百華は理巧の提案に乗って、早速ポスターを空いている壁に貼り付けようとする。理巧がポスターの上を側を抑え、百華が細い指で画鋲をぐいっと押し込む。


「あの、先生からもらったポスターに穴開けて大丈夫っすか?」


 その様子を見て、陽斗が心配するが、


「「布教用だから」」


 と声を重ねて理巧と百華が答えるのだった。

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