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Command Wand  作者: 赤茄子
第0章 Occult Occasion
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第4話 勧誘と道連れ

「あれっ、学生証、どこいったんだ……」


もう一度よくカバンの中を確認するも見つからない。バックに入れたのは確認したのだが。


「どっかで落としたか」


 こうこういう時はひとまず深呼吸だ。


「えっと、学生センターかなんかで仮学生証を発行してもらうんだったか?いや、」


 入学前によく読んだ入学者説明資料の内容を思い出すが、しかしそれでは走ったのも空しく遅刻である。そんなことを考えていると、


「あぁいたいた。これ落としたでしょ」


 クリーム色の長い髪に、彼女からすれば頭の右側に三つ編みがついた髪型。肩の出た黄色い服を着た自分より少し小柄な少女が、拾ったであろう学生証を自分の方へ差し出していた。


「あ、ありがとうございます。でもその、急いでいるので失礼します」


 短く感謝を伝えて受け取ると、急いでオリエンテーションに向かう。向おうとするも、


「あの、お名前だけでも、」


 名前は聞いておこう。ちゃんと時間があるときにお礼もすべきだ。


「あぁ、私の名前は八代百華(やしろももか)、今年度から2年生で1つ先輩よ」


「八代先輩ですね。ではいつか何かでお礼を……」


 します、と言おうとするのを彼女の言葉に遮られた。


「んー。じゃあさ、次元くん、うちのサークル入ってよ」


「えっ! えぇっと、何サークルですか?」


 想定外の内容に少し驚く。名乗り忘れていたが名前も学生証から知られたようだ。


「内容はね、”チョウシゼンガク”だよ。何か他に入りたいのがあるのかな?」


 引き込まれるような引力をまとった笑顔で言われた。


「いえ特に、というかサークル自体に入るつもりが無かったので、」


「じゃあ、お試しでもいいからさ!」


 お試しでも良いのか。なら


「わ、分かりました。後でサークル棟?に行けばいいのでしょうか?」


「そうだね。あっ、そろそろ時間じゃなーい?」


「あっ!! ではまた後ほど!」


 先輩に背を向けオリエンテーションへ急ぐ。部屋は幸い近かったが開始まで残り1分を切っていた。後ろから数えて一番乗りだ。


 さっきのことを思い出す。チョウシゼンガク、超自然学か。急いでいたので今やっと音が漢字に変換された。そして漢字から意味を読み取る。……え?、超自然学って


「オカルトのことじゃねぇかぁ」


内容に今更気が付き、驚いて少し声が漏れてしまった。


      ―――――――――――――――――――――――――


 超自然学サークル、現在の理巧のなかではオカルト研究会と同義だ。変なサークルに入る返事をしてしまったのではないかと理巧は不安である。


 さて、大学の施設や教科書購入の案内などのオリエンテーション終了後、今は他学科の親友と学生ラウンジで会っているところだ。


「理巧! この大学すごいのな! プラネタリウムまであるぞ!」


「入学前から知ってるでしょ」


 目をキラキラさせる金髪の青年は境陽斗(さかいはると)、そしてそれにツッコミをいれる長い黒髪の少女は黒鉄燐(くろがねりん)。どちらも高校で知り合った理巧の親友だ。


「そういや、今日はファイのやつ いないんだな?」


「あぁファイは今、アップデート中でさ」


「なんか浮かない顔ですね?」


「いやぁ、それがさぁ」


 斯々然々2人にサークルの話をする。


「なるほどな、オカルトなんて理系からしたら敵みたいなもんだもんな」


 まったくもって陽斗の言う通りだ。幽霊がいないことは悪魔の証明だと言われても理系にとって幽霊は存在しえないものであって、幽霊だと思われたものは科学的に説明のつくものであるはずだ。そういう類のものを集めたオカルトなど非科学と言っていいだろう。

 もっとも100年前の人間から言わせれば魔法こそよっぽどオカルト的なものだが、時代が変われば常識も変わる。


「でも、学生証拾って届けてくれたんですよね? 親切な人じゃないですか」


「それもそうなんだよ。常識のありそうな人だった」


 何より、


「この大学にいる時点でバリバリの理系ってことは確定だもんな」


「燐みたいのは除いてな」


 陽斗が余計な一言を入れる。


「私だけ例外みたいにしないでよね」


「みたいって言いましたぁー」


 2人は幼稚園の頃からの幼馴染らしく、もはや伝統や無形文化遺産となった言い合いをしばらく眺める。


「まぁとにかく、礼儀として見に行くだけ行った方がいいんじゃないですか?」


 言い合いがひと段落して燐が提案した。


「まぁそれはそうするつもりなんどさ。ところで、2人はどっかサークル決めてる?」


「俺は天文サークルかな。でもサバゲーサークルも捨てがたい」


「私は特には決めてないですね。入らないかもです」


「もし嫌じゃなかったらさぁ」


「ん?」「はい?」


「超自然学サークル行くのついて来てくれない?」


 こうして2人を道連れにしたのだった。


      ―――――――――――――――――――――――――


 廊下から駆ける音が聞こえて来る。そのまま部屋のドアを勢いよく開けて、八代がオレに話しかけた。


「ねぇねぇ雨宮、新メンバー入りそうだよ!」


「入るって何に」


「このサークルに、に決まってんじゃん! やっとコンビがトリオになれる!」


 お前とお笑いやってる覚えはねぇぞ、と思いつつ。


「被害者第1号か。にしてもよく入るなんて言ったな。ちゃんと何サークルか言ったのか?」


「言ったよ。てか被害者って表現ひどくない?」


「どうした加害者」


「もっとひどいなー!」


 この部屋、サークル部屋を見て呆れられなきゃいいが。


「あれは? 歓迎の文言、ふっ、は覚えたのか?」


「今ちょっと笑ったでしょ!? もう去年みたいに噛まないから」


 そこじゃないんだよな。

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