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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第27話 思い込み

「論文によれば太陽の奇跡は数万人、半径50キロの超大規模パニックって話なんだ」


「まぁ、今までの話の流れからいくとそうだろうね」


 陽斗がやや大きめの声で話すも、理巧は予想通りだと受け止める。


「えー超大規模だぜ。もっと驚いてくれよ」


「いやだって、コックリさんと同列で集団心理の例として挙げられてたんでしょ」


「そりゃそうだけどさー」


「でも、なんでそんな規模になったんだ?」


 少子化の進む現代において、コックリさんが原因で小学校の1クラスがまるまるパニックなってもその規模はせいぜい20〜30人ほどだ。範囲だって単位が違う。


「この現象は集団パニックと思い込みが絡み合ってるって話でさ。まず、実際に太陽のおかしな挙動らしきものを見た人は大勢いるんだと思う。でも大抵は太陽の直視で説明がつく」


 太陽が放つ光は凄まじい。地球からの見かけの等級は-27等級であり、日中の明るさは闇夜の1400万倍にもなるのだ。

 そんな太陽を直視すれば網膜の奥、光を受け取る桿体細胞(かんたいさいぼう)錐体細胞(すいたいさぼう)への甚大なダメージは避けられない。最悪の場合失明するのだから。


「なるほど要するに、太陽の異常な動きを見ようと長時間その方向を見た結果、目に生じた焼きつきが残像みたいになって、回って見えたり近づいて見えたり、太陽が踊っているように感じられたわけか」


「そうそう。そしてもう1つは多くの人間が奇跡を見るために集まっていたということ。太陽の異常な現象を目撃していなかったとしても、元々の目的と周りの声に自分も異常現象をこの目で見たのだと勘違いする可能性がある。新聞でも報じられているしな」


「まぁありえない話でもないか」


 理巧は白函への依頼としてSNSのデマ拡散対処に何度か当たっているが、根も葉もない噂レベルの発言を詳しく調べもせずに信じ込んで、拡散する人間は少なくない。

 そして、人々は自分で経験したこともないことをあたかも自分の経験かのように信じ込むこともある。


「ん、いや待てよ。」


 そうだ、今も昔も周りの考えに飲まれる人がいることは変わらない。ましてや昔の新聞が比べ物にならないほど即時的かつ拡散的で、多くの意見に揉まれることとなるSNSという環境がある。


「陽斗、これから何人かに聞き込みに行くことになるだろ。そのとき、いくつか事件の日の詳細について尋ねる質問を同じように全員に聞いてみてくれ」


「――そうか、太陽の軌跡と同じように周りの影響で思い込んでるんだとしたら」


「細かい部分で矛盾が生じる」


 2人は頷く。陽斗も理巧の考えが伝わったので、あとは実際に聞き込みをする3人に任せるとしよう。


 さて、今のところ理巧の思いつく疑問点は4つ。


 1つ目にUFOの目撃証言。これは誰かが見たというのを周りの人間が思い込んだ可能性が高いが、これからの聞き込みで少しは分かることがあるだろう。

 2つ目にUFOの映像。今のところフェイクという確証はないがファイが絶賛詳細を解析中だ。

 3つ目に病院からの発表が何もないこと。脅されているという噂も定かではないし、これは一度システムに潜り込むか。

 4つ目に忍びの襲撃。目的は人工量子脳と推測できるが、なぜこのタイミングなのかも、事件と関係するのかも不明だ。


 ただし忍びがこの事件に関与していた場合、これは本当の意味で事件になる。偶然が重なった結果の現象ではなく、故意に起こされたテロだ。


 サークルとして調査している以上、不正アクセスによって情報を仕入れてもその入手方法の説明に困る。それでも、


「やっぱりあの忍びについては僕が調べる必要がありそうだな。」


 理巧は心の中でそう呟いたのだった。


      ―――――――――――――――――――――――――


「え、防犯カメラに写ってない?」


 田口吾郎は魔対の事務所で相棒に向かってそう聞き返した。


「はい、この通りです」


 早送りで画面に映されているのは、理巧と百華が忍びと戦闘していた時刻の広場の防犯カメラ映像だ。そこに映るのは、映らない何かに向かって攻撃をしかける2人だけ。映像は霧によって見えなくなるところまで続いた。


「おいおい、避難誘導してた警官の話では、最初こそ透明だったが途中から姿を現してたって話だろ。どういうことだ。」


 田口は現場近くに勤務する木村巡査部長の話を思い出す。


「えっと一応だが、加工とかの痕跡は?」


「全くありませんでした。防犯カメラの管理システムへの不正アクセスも確認できていません。そもそも1コマ1コマ、犯人のだけを完璧に補完するようなこと、人間はおろかPOFにもできないと思います。」


「だよな」


 もし仮に忍者の姿を記録されては困る理由でもあって、なんの痕跡も残さずにアクセスでるなら防犯カメラの映像データごと消してしまえばいい。


「くっそー、一体何が目的なんだ」


「ずいぶん悩んでるみたいだな。何か手伝うか?」


 そう声をかけたのは黒髪オールバックの男、田口の上司にして燐の父親である黒鉄琢巳(たくみ)だ。


「あっ係長、お疲れ様です。まだもう少し自分らで頑張ってみます」


「そうか。なんかあったら言えよ」


「はい。それで係長、この前伝えた件なんですけど今週末の土曜日でもいいですかね」


「あぁ分かった。燐に伝えさせておくよ」


 魔対の捜査権を以っても得体が知れない忍び。


「あ、やっと見つけた」


 理巧はその正体に一歩近づこうとしていた。

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