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Command Wand  作者: 赤茄子
第1章 Spread Spirits
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第26話 太陽の奇跡

「ひとまずこれ読み終わるまでは俺も資料読みするよ」


 理巧にそう言った陽斗は黙々と資料を読んでいく。パニックについて書かれた論文らしい。


「なぁファイ、さっき言ってた調べたいことってなんなんだ? まさか忍びについてじゃないだろ」


 理巧がファイにそう尋ねると「違う違う」と否んでからファイが話す。


「さっき動画を見たとき少し違和感があってな。偽物とは言えない動画が4つあるだろ。」


「あるな。でも1本は投稿元が怪しいんだろ」


「そうだ。それでその1本の確らしさをより詳しく検証しようと思うんだ」


 「なるほどな」と納得して、理巧も資料読みに入った。ファイのことだから1人でできるだろう。


「なぁ理巧。太陽の奇跡って聞いたことあるか?」


 陽斗が論文から顔を上げ理巧に尋ねた。


「太陽の軌跡? 2億とか3億年かけて天の川銀河を回ってるってこと?」


「あー違う違う、オービットじゃなくてミラクルの方。まぁ聞いたことなさそうだな。1917年にポルトガルで起こった現象らしくてさ」


      ―――――――――――――――――――――――――


 1916年、ポルトガルは第一次世界大戦の最中であった。

 その年の春、ポルトガル中央部、サンタレン県の都市ファティマの近くに住むカトリック教徒の羊飼いの子ども3人、10歳の少女ルシア、8歳の少年フランシスコ、7歳の少女ジャシンタの前に自らを平和の天使とする若者が現れ、彼女らに祈り方を教える。天使の訪問はしばらく続いた。


 さらに翌年1917年5月13日にキリスト教の聖母マリアが現れ、3人は神の栄光を冒涜する罪の償いに身を捧げ、苦しみに耐えるか否かを問われる。それを引き受けると毎月13日にメッセージを受け取るよう伝えられた。もっともこのときはまだ、相手が聖母マリアであることを3人はしらなかったが。


 6月13日にはフランシスコとジャシンタはまもなく天国につれて行かれること、ルシアは長くこの世に留まらなければならないことを伝えられる。この言葉の通り、フランシスコは1919年、ジャシンタは1920年に亡くなり、ルシアは2005年に97歳で亡くなった。


 7月13日には大きく3つの予言が言い渡される。

 1つ目は地獄の存在。罪深い人間は死後に地獄に入れられ出ることは叶わないということ。3人は地獄の火の海を見せられ震え慄いたそされる。


 2つ目は戦争の終わりと始まり。これは第一次世界大戦がまもなく終わり、しばらくして第二次世界大戦が始まること。そして第二次世界大戦で沢山の死人が出て、その多くが地獄に落ちること。その前兆としてヨーロッパに不気味な光が見えるとも予言された。


 3つ目は1960年になるまで秘密であった。これは「ファティマ第三の秘密」と呼ばれる。少女を介して教皇庁に伝えられたが発表されたのは2000年であった。内容は教皇暗殺の危惧であり、1981年5月13日に発生した暗殺未遂とされているが、その内容に疑問の声も上がっている。


 またこの際ルシアは、聖母マリアの正体を聞き、これらの予言を人々が信じるよう奇跡を行うことを求めると、聖母は10月に奇跡を起こすと告げた。


 8月13日、3人は反政府主義に反対するための政治的な活動として暫定政府の行政官に拘束され行くことが叶わなかった。しかし、同月19日に予言なく現れ、3人が町の外へ連れ出されなければ奇跡はより壮大なものになっただろうと告げられた。


 そして10月13日、奇跡を待った数万人の群衆は太陽の異常な現象を目にすることになる。

 ジグザグに動いた。高速回転した。色とりどりの光で輝いた。地上に向かって勢いよく近づいた。雨に濡れていた群衆の体と地面はたちまち乾いた。

 調査によれば目撃者によって説明は様々であったが、驚異的な現象の発生を否定するものはいなかったとされる。


 カトリック協会の対応として、1930年にはこの現象に「超自然的特性」があると宣言し、現場近くに聖堂を建設した。さらに、1940年にはローマ教皇が「ファティマの聖母」の出現を公認し、フランシスコとジャシンタのを聖人の地位に引き上げた。


      ―――――――――――――――――――――――――


「いやー、ところどころオカルトすぎやしないか」


 陽斗の要約を聞いた理巧は訝しげにこう言った。


「他にも、ジャシンタさんの遺体を大聖堂に安置するために墓地から掘り返したら、顔が全く腐敗していなかっただとか、『ファティマ第三の秘密』を知るために飛行機がジャックされた話もあるな」


 理巧は思わず「えぇー」と声を漏らす。


「宗教が関わるとどこまでが作り話か分からないな」


 日本人の多くがそうであるように理巧はそこまで宗教に執着がない。テロや紛争、霊媒商法と言ったマイナスなイメージも多少持っている人が多いはずだ。

 最近だと科学、特に魔法を廃絶しようと動く国際宗教組織カオスが生まれ、幸い日本ではまだ起こっていないが、魔術師狩りと称してテロを起こすのだから悪印象は尚更だ。


 ともかく、ハロウィンの2ヶ月後にクリスマスを楽しみ、除夜の鐘を聴きながら年を越して、神社に初詣しに行く。1つの宗教にとらわれず、良く言えば寛容、悪く言えば無頓着なのが日本人の多くと同じ理巧の宗教観だ。


「信じられないような話も多いけど、数万人の群衆が太陽の異常な現象の目撃を証言したことは確かだ」


「まぁとりあえず出来事の概要は分かったよ。それで本題はなんなの?」


 太陽の奇跡の起こった流れは分かった。ではこの話の結論は何か。


「論文によれば太陽の奇跡は数万人、半径50キロの超大規模パニックって話なんだ」

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