第3話 大学図書館
魔法とは西洋の神秘的思想の要素の1つであり、学問として扱うのは人類学や民族学、歴史学や宗教学のあたり。すなわち、本来理系が中心となって扱うようなものではなっかたのだ。言い換えれば、数十年前まで魔法はオカルトだったのである。
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「ここすごく広いですね」
理巧は百華に連れられて彩珠魔法大学の大学図書館に来ている。図書館の建物はホールケーキのような低い円柱で、床は内側から外側に向って階段状になっている。図書館の入り口は円柱の中心部分につながっていて、そこには貸出や返却の窓口があった。
「すごい量の本だ」
「そうだね。学術書以外にも館長さんの趣味でラノベとかも置いてあるんだよね」
「さすがに魔導書の方が多いですよね……?」
「……多分ね。」
魔導書とは魔法に関する学術書の俗称であり ここには一番多くあって欲しいものだが、八代先輩は自信なさげに答える。まぁ、最初の魔導書が出版されてから30年ほどしかたっていないが。
「えっとね、UFOに関する本は、」
「それなら、金牛宮か獅子宮よ。」
エプロンをした40代くらいの女性に声を掛けられた。
「あ、通山さん、ありがとうございます。久しぶりに来て迷っちゃいました」
どうやら、先輩の知り合いのようだ。
「いえいえ、それよりその子は……彼氏?」
「ちっ違いますよ!彼は今年度からうちのサークルのメンバーなんです」
一瞬顔を赤くして女性にそう話す。
「初めまして、次元理巧です」
「名乗るのが遅れたね。私はこの大学図書館で司書をしている通山と言います。何か聞きたいことがあったら聞いて頂戴ね」
「ありがとうございます」
司書とは図書館で資料の選定や貸し出しなどの全般を担う図書のエキスパートだ。ところで1つ気になることがある。
「じゃあ早速なんですけど、先ほど仰っていた……"ししきゅう"とかってなんのことですか?」
「うん、最初はそうなるよね。私も最初にここに来たときは、なんだそれってなったよ。まぁまずは天井を見てごらんよ。」
苦笑いする通山さんの言う通り顔を上げてみると、ドーム状の天井が30°ずつ区切られ、そうして12等分された天井には何やら星々と絵画が……
「えっと、黄道十二星座?」
天球上における太陽の通り道を黄道と呼び、黄道上に見える13の星座のうち蛇遣座を除いた12星座を黄道十二星座と呼ぶ。現代では星座占いで用いられ、誕生日ごとに星座が割り振られているので、名称はともかく12星座は知っている人も多いだろう。
「そうそう、名前までよく知ってるね。ここで使われてる名称は一応、黄道十二宮らしいんだけどさ。それでさ、日本の図書が十の類に分かれていることは知ってるかな」
「はい。なんとなくは、」
「その10個の区分と残りの読書スペースで12個が分かれてるんだよね」
日本の図書は十進分類という手法でグループ分けされている。UFOに関する本は1類の哲学・心理学・宗教か5類の技術・工業・家庭に多い。
「ちなみに君たちが入ってきた方向は双魚宮。名前は覚えなくても時計回りにその隣から0類、1類、って感じだから」
「なるほど、ありがとうございます」
「じゃあ本探し頑張ってね」
「「はい。」」
言われた通りまずは1類の白羊宮に向う。
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「おぉ、怪しい本がいっぱいありますね」
「そうだね。」
1類の中でも特に超心理学に関する14綱7目の棚にやってきた。UFO以外にもオカルトに関する本が並んでいるので今後もお世話になりそうな棚だ。サークル部屋で閲覧するべく借りる本を数冊選出する。ちなみに大学図書館で借りられる資料の数は1人20冊までらしい。
「先に読書スペースで使えそうな資料厳選しておきますね」
「分かった~。私も選び終わったら行くね」
資料全部を借りなくても良識の範囲内であれば、館内のコピー機でコピーを取ることが許されているので、あらかじめ資料を厳選するのだ。
しばらくして、よいしょと八代先輩が大量に本を抱えて、読書スペースに向って歩いてくる。腹の上から顎下まで本を積み上げていて足元が見えなそうだ。
「先輩、そこ段差が」ありますよ、そう、口にしたところで八代先輩は見事に段差につまずいた。宙を舞う十数冊の本。理巧は急いで杖を取り出し魔法を使う。
「――【念力】」
魔法が発動した瞬間、先輩も本もゆっくりと静止し、空中に固定される。
「ファイ~。本をそこの机の上にまとめといて」
ポンと空中に現れたファイが「はいよー」と宙に浮いた本を、自分の腕…翼のように操り1か所に積み上げ始めた。
「先輩、魔法解除しますね。」
「ありがとう。でも中に浮いてる状態ちょっと恥ずかしいかも」
気付けば一部の図書館利用者の注目を集めてしまっていた。これが先輩がこけたせいなのか、魔法のせいなのか、理巧には分からないが、
【念力】とは、非慣性系内の術者に対して対象の物体をその場に静止させる魔法だ。静止後は重力のような加速度を与える力を相殺され、物体の位置や角度を操れる。例えば、走る電車の中の鞄に対して術者が電車の内にいれば、鞄は空中に浮いたまま、外から見れば電車と同じ速度で動くことになる。
魔法自体は難易度の低い第二階級魔法であるが、
「あの魔法、どうやったの?」
首をかしげながら何か納得がいかなそうに、百華が理巧にそう尋ねた。




