92.夏祭り
92.夏祭り
夏祭りの会場に着くとテントが立ち並び、何軒か屋台が出来ていた。
まだ時間が早いというのに人が波の様に押し寄せている。
「すげぇ人だなぁ。昔はこんなに人いなくて動きやすかったのに」
と卓は言いながら海斗の手をぎゅっと握った。
「はぐれないように気を付けてね」
海斗はそう言いながら人波を歩いて行く。
夕方頃になるとほぼ全部の屋台で物を売り始めていた。
「卓?何か食べたいものある?」
と海斗は卓に聞くと
「そうだなぁ・・・」
卓はしばらく考えて
「特にないな。海斗の好きなの買ってきなよ」
と卓は返した。
「じゃあチョコバナナと・・・」
と海斗は言いながら屋台を歩きながら食べたいものを見つけて次々に買っていった。
幸せそうな海斗の姿をみた卓は少し嬉しくなったのか笑みがこぼれる。
買った食べ物を半分ずつ分けながら2人で食べていると目の前にお面屋があった。
「あぁ!お面!ソクミミもシロブチ犬も売ってるよ」
と海斗は指をさして喜んでいた。
「買って2人で写真撮ろう!」
と海斗は言うと、
「いいね!撮ろう撮ろう!」
と卓も賛成し2人でお面を買った。
海斗のスマホでインカムにして自撮り写真で撮った。
付き合いたてのカップルの様にはしゃぐ2人。
卓は思ったより周りの目が気にならなかった。
海斗と一緒にいると確かに楽しい。
海斗と一緒にいた方が幸せなのかもしれない。
こんなに幸せそうな海斗を見た事ないし。
それに遼はもういないのだから。
もういいんだ。
卓はそう思いながらこのお祭りを楽しんでいた。
諦めたのだと心に言い聞かせた。
辺りは日が落ちて暗くなると、提灯に灯が灯っていく
一気にお祭りムードが上がっていく。
2人は打ち上げ花火が良く見える石垣に座り場所を確保した。
「俺飲み物買ってくるからちょっと場所確保しといて」
と海斗は言うと卓はうなずき海斗は屋台の方へと歩いて行った。
卓は石垣に座り待っている間、スマホのデータを見ていた。
さきほど海斗と撮った夏祭りの写真を見ながらフフっと笑った。
もう大丈夫だ・・・
そう思いながらスマホの写真を送っていくと
遼と秋祭りで撮った写真がぱっと映った。
卓はすぐにドキッとすると写真を見るのをやめた。
見てしまった・・・
久しく見ていない遼の顔を見た卓の胸が張り裂けそうに打ち鳴らす。
「お待たせ!」
海斗はラムネソーダを2瓶持って戻ってきた。
「ううん!全然待ってないよ!」
卓はそう言いながらすぐに気持ちを切り返えた。
悟られてはいけない。
折角の楽しい空気を壊しちゃいけない。
海斗はきっと遼の事を忘れて欲しいと思っている。
卓は笑顔で
「ラムネだ!さすが海斗!俺が飲みたいの分かってるじゃん!」
と言うと
「お祭りといえばやっぱこれだよね」
と海斗はビー玉を押し込んだ。
海斗の姿が遼と重なる。
子供の頃上手くビー玉を押し込めず、
飲めない俺にむかって遼が”貸して”と言って、
ビー玉を押し込んで開けてくれた記憶。
ビー玉を取ろうとしてうまく取れなかったあの時の記憶が、
フラッシュバックのように頭の中をこみあげてくる。
ふいに涙がこぼれそうになる卓を海斗は心配そうにみつめた。
次の瞬間、花火がバーンと打ち上がった。
「おっ始まった」
と海斗は言いながら夜空を指した。
遼が微笑んだ秋の日の花火大会が脳裏に蘇ってくる。
次々に打ちあがる花火を見ながら海斗は卓の手に触れていく。
ゆっくりとそっと触れたその手は夏だというのに冷えていた。
花火があがるたびに
あの秋の花火を見た二人の記憶と
今までの思い出が一筋の涙となって頬を伝う。
それに一番最初に気付いたのは海斗だった。
海斗は卓の手をそっと放した。
花火が打ち終わるまで卓と海斗は一言もしゃべらなかった。
卓の思いを知った海斗。
そんな海斗から花火を終わった第一声が
”もう終わりにしようか”
の一言だった。




