90.告白
90.告白
とある喫茶店の店内で2人の間に不穏な空気が流れていた。
「折角来ていただいたのに申し訳ございません。
今度は卓さんと遼さんと海斗さん3人でまた来てくださいね」
マスターはその空気を切り裂くように言うと、卓と遼を店の外へと見送った。
卓と遼は店を出た後、沈黙の時間が流れた。
「なぁ、あの公園行かないか」
遼の言葉に卓はあぁ・・・とだけ言った。
梅雨の日に行ったあの坂の上の公園に向かって歩るき始めた。
快晴の晴模様の中、まだ冷たい風が吹きすさぶ。
鳥の鳴き声、目の前を横切る車やチャリの音が遠くに聞こえ、心臓の音だけがうるさかった。
「なんで急にあの公園に行こうなんて」
卓は言うと
「卓が元気なさそうだったからさ」
遼はそう言いながら卓の少し前を歩く。
「そうか・・・」
なぜかと理由は聞いてこない。
それとも分かっているからなのか。
遼の顔が一度も見れていない。
だがそれは遼も同じであった。
お互いよそよそしいまま、無言に等しい会話を交わして行く。
そうこうしているうちに2人は、
いつも遊んだあの公園の丘の上へとたどり着いた。
2人は丘の上からの景色を並んで見つめた。
見慣れた景色が今は濁って見えた。
「やっぱ行くんだね、海外」
卓は景色をみながら隣にいる遼に話しかけた。
「あぁ、行くよ。しばらくここには帰ってこれない」
遼も同じように景色を見ながら話した。
自分たちがかつて遊んだ街を丘の上から見下ろしながら2人は会話を続けた。
「いつまでいってるの」
「分からない・・・何年間って縛りはないから」
「そうか・・・海外ってどこに行くの」
「あぁ。フィリビンだよ」
「そっか・・・休みの日とかこっちに戻ってくるの」
「分かんねぇよ。まだ行ってもないのに」
「そうだよね」
会話の中で2人の思い出が蘇ってくる。
一緒に帰った学校の帰り道。
喧嘩をした土手の道。
日が暮れるまで遊んだ公園。
一緒に通ったとある喫茶店。
楽しい時も辛い時も悔しい時も哀しい時も嬉しい時もずっとずっと一緒だった。
この見慣れた景色だけが2人の震えた声を鮮明に覚えている。
「ダメだ。俺・・・やっぱ遼に行ってほしくない」
卓は溢れ出る感情がついに言葉になって出てきた。
遼は無言で聞いていた。
「離れたくない。ずっとずっとそばにいたい。
お守り毎年一緒に買いに行くって約束は?
さっきだって3人で喫茶店にってその約束は?」
卓は遼の方を向いた。
横を向いた遼の目が太陽に照らされて光っている。
遼も卓の方を向き、少しはにかんで言葉を発する。
「ごめんな。でも仕事だししょうがないだろ」
分かってる。
そんなの分かってるよ
でも・・・でも・・・
「俺は・・・」
ダメだ・・・ここから先はダメだ。
「俺は・・・」
口に出すな!この言葉は!
「俺はずっとずっと遼の事を好きだったんだよ」
風が強く吹き荒れる。
卓の口から思いが溢れ出るように続けざまに発せられた。
「お前の事が好きで好きでたまらない。
本当は頑張れって言いたいけど言えない。
応援なんて出来ない。
お前と一緒じゃなきゃ俺は嫌だ」
遼は少し戸惑いながら
「ごめん。俺はゲイじゃないからその気持ちには応えられない。
友達としてこれからも仲良くしようぜ」
とだけ応えた。
あぁ・・・やっぱりか
卓は遼の反応にそうなることは分っていた。
「無理だよ。もぅ友達には戻れない」
冷たい風が2人を引き裂くように強く吹いた。
「今まで通りになんてなれない。
一緒に温泉行ったり、隣で寝たり俺と今まで通り出来る?
俺が遼に触れたらいつも通りに反応出来る?
気持ち悪いって思わない?」
卓の言葉に遼は言葉を濁して
卓の顔を目線から少し外し、申し訳なさそうな表情をしている。
それが答えだろ・・・
分かっていたはずだ
俺は遼から見たら気持ちの悪いゲイとしか思われていない。
「もし、遼が今まで通り接しても、俺は普通じゃいられない。
遼が俺を気持ち悪いと思ってると、
そう感じながら遼と一緒にいなきゃいけない。
そんなの・・・俺耐えられない・・・だから・・・」
“遼・・・今日でこの関係も終わりにしよう。向こうでも頑張れよ”
今まで発せなかった言葉がようやく伝えられた。
くそぉ・・・なんでいまさら・・・
卓は遼の顔を直視することは出来なかった。
呆然とたたずむ遼を背に卓は公園を降りた。
4月になった。
俺と遼はあの後一言も会話もなく遼は海外に行った。
こうして俺の初恋は終わった。




