82.秋祭り
82.秋祭り
17時になり辺りは徐々に暗くなり始めていた。
通常時は17時閉園なのだが、
今日は季節外れの祭りフェアを開催しているらしく
遅くまで閉園しないようだった。
提灯や屋台が立ち並び、まるで夏祭りのような世界観だった。
今日は閉園間際で花火も打ち上げられる予定だ。
11月ということもあり皆寒さ対策のため厚着をしていて、
会場の雰囲気は浴衣が似合いそうな夏だが
季節は秋といった、なんとも奇妙な空間が広がっている。
「そういえば、お祭りなんて最近行ってないもんな」
と遼はそう言いながら屋台を見て歩いた。
「何食べたい卓?」
歩きながら隣にいる卓を見て遼は聞いた。
「じゃあわたあめ」
卓の言葉に遼はクスっと笑った。
「随分可愛いのいくなぁー焼きそばとかの方が腹持ち良いのに」
などとこぼしながら遼は1人で綿あめ屋さんに行った。
戻ってくる頃には綿あめ2つを手に持っていた。
「懐かしくて俺も買ってきちゃった。はい」
遼はそう言いながら、片方の綿あめを渡した。
「ありがとう!」
卓はそう言いながら、綿あめを美味しそうにほうばった。
「本当に卓は昔から変わらないなぁ・・・美味しそうに食べる所とかさ」
遼も綿あめをほうばりながら言った。
「そうかなぁー」
と卓は言いながら、綿あめを食べる遼の顔を横目に可愛いなぁと思っていた。
それから卓と遼はいろいろと食べ歩きながら
射的屋やヨーヨーすくいなどの夏祭りの名物を堪能した。
季節外れの秋ということもあり少し肌寒かった。
移りゆく季節を感じながら2人は、
花火を待つために近くにある石垣に座って空を眺めていた。
どことなく寂し気な秋の夜空と沈黙が続いていく。
「星が綺麗だなぁー最近星を眺めるなんてこと滅多にないからなぁ」
遼の言葉に卓は昔の事を思い出した。
「遼、学校の帰り道と同じ夜空だ」
卓の言葉に遼は昔の事を思い出したように
「あぁ確かになぁ・・・帰り道2人で話したよな」
「そうそう!丘の上の公園から見る夜空が綺麗でさ」
「よくあの寒空の下で見てたよなぁ」
「あそこ街灯ないし、静かだったから絶景だったよね」
「うん。なんか俺ら青春してたよな」
微笑んでいる遼の瞳をみて
卓は思わず好きという二文字が口から出かけた瞬間
どーん
と花火が打ちあがった。
「おっ始まった!」
花火を見る遼の横顔に卓は少年時代の記憶がよみがえった。
近所のお祭りで
綿あめを分け合いっこして食べた事
金魚すくいで2人でとってきて後で親に怒られた事
ヨーヨーをパンパンやりながら歩いた事
全てが鮮明に思い出されてきて、
今思えばあのころからずっと好きだったんだと理解した。
友達としてでいい・・・このままでいい・・・
俺はこの関係を崩したくない。
飛び出した言葉を胸の内に隠すようにしまった。
打ち上げ花火があの頃と同じように
2人を照らしていた。
花火が全て打ち終わると観客は一斉に帰り始めた。
2人も帰るために車へ戻ったが帰りの渋滞に巻き込まれていた。
「この後、どうする?」
ある程度、道が空き始めた頃、遼は運転中の卓に話かけた。
「うちで宅飲みでする?」
卓は少しどきどきしながら応えると
「いいねぇ!近くのスーパーでお酒買っていこうか」
遼はすぐに返答すると、家の近くのスーパーを調べ始めた。
みつけたスーパーであらかた飲み物と
つまめる食料を買うと卓と海斗の家へと向かった。
ちょうど家に到着したとき
「今日海斗もいればよかったのになぁ」
と遼は言った。
「そうだねぇー今あいつ大阪に出張で忙しそうだからなぁ」
と卓は言いながら家の鍵を開けようとしていた。
「ちょっとは寂しかったりする?」
と遼は言うと
「うん・・・まぁねぇ・・・やっぱり家に帰った時1人だと寂しかったりするかなぁー」
と卓は言いながら玄関の扉を開けた。
「そっかぁーやっぱりそうだよなぁ・・・俺も1人で家に帰ったら
たまに寂しかったりするもんなぁ。まぁもう慣れたけど」
と遼は言いながら家に上がった。
「おじゃましまーす」
と遼は言いながら靴を脱いで部屋に上がった。
「久しぶりに来たけど男2人暮らしの割に綺麗だな」
「まぁねー」
卓は遼が来るかもしれないと思い
あらかじめ部屋中を綺麗にして準備をしていたのだった。
「お風呂先入るなら沸かすよ」
と卓は言うと
「うん!おねがーい」
と遼は返事をした。
もちろんお風呂もあらかじめ掃除をしており
お湯はりを待っている間、買ってきた食べ物を机に並べた。
卓は2人っきりの夜という事で緊張とワクワクで高揚していた。
一方遼はというとソファーで寝ころびながらくつろいでいた。
「お風呂沸くまでちょっと待ってて」
と卓は言いながらテレビをつけた。
2人の何気ない日常の会話とテレビの音が混ざりながら
ゆったりとした時間が過ぎている。
だが、いつもと違うのは卓のソワソワした様子だった。
好きな人との2人だけの夜・・・
これはもうドキドキでしかない
2人の会話を裂くように、お風呂が沸いた事を知らせる音楽が鳴った。
「お風呂沸いたよー先入ってー。バスタオルとかはそこにおいてあるから」
卓の言葉に遼はおぅというと
ぬくっと立ち上がりさっきスーパーで買ったパンツを持って風呂場に行った。
遼がうちのお風呂に入ってる・・・
それだけでもドキドキするというのに・・・
その後俺がお風呂を入るのか・・・
卓はお風呂に入ってもいないのにのぼせていたのだった。
お風呂場から聞こえるシャワーの音が、なんだかいやらしく聞こえる。
卓はソワソワしながら、遼がお風呂からあがってくるのをリビングで待っていた。




