70.黒雨
70.黒雨
7月の始め、梅雨はまだまだ続いていた。
連日続く雨で憂鬱になっていく日々。
昼間だというのに外は雨の影響で暗くどんよりとしていた。
今日は休日で卓と海斗の2人は、家の中でのんびりと過ごしていた。
電気をつけて明るくし、コーヒー片手に海斗はノートパソコンをいじり卓はスマホをいじっていた。
「海斗。そういえばさ!遼彼女と別れたって話をしたじゃん」
卓の言葉に海斗はパソコンをカタカタとしながら生返事だけをしていた。
「あの後さ、一緒に遼と相合傘したんだよね」
卓の言葉に海斗はパソコンを打ちながらよかったじゃんと応えた。
「それでその後さ、遼と公園行ったらさすごい綺麗な虹が出てきてさぁ、
ロマンチックで二人の距離がぎゅっと縮まった感じになってさ」
「ふーん。そうかぁ・・・!いいねぇ!」
「遼とその後、子供の頃作った二人で作った秘密基地行ったの。
そしたらさぁ、別の子供たちの秘密基地になっててさぁー」
「卓・・・もういいよ。やめよう」
海斗はそう言いながら、ノートパソコンを閉じた。
「どうしたの?急に?」
卓は訳も分からずに半笑いをしていた。
海斗の初めてみる表情
卓に向けた初めての感情
「口を開けば、遼!遼!遼!!もう苦しいよ」
「海斗だって応援してくれるって」
「応援するわけないだろ!俺は卓の事が好きなんだから!
愛してるんだから!いい加減気づけ!」
海斗の言葉に卓は言葉を失った。
「もういい。俺出てくから」
海斗はそう言うと、携帯と財布を持ち外へと出て行った。
ばたんと扉が閉まってから卓はしばらく動けなかった。
海斗が俺の事が好き。
それはずっと友達としてだと思っていた。
海斗の言葉と気持ちが突き刺さる。
追いかけなきゃ。
卓はすぐに外へ出ようと立ち上がった。
行くってどこへ?
追いかけてどうする。
俺は海斗になんていえば良いんだ。
言葉が見つからない。
俺も海斗の事は好きだ。
でもそれは友達としてだ。
俺が愛しているのはずっと遼だ。
それに気づかせてくれたのも海斗。
あいつはいつもそうだ。
自分の幸せより俺の幸せを考える。
俺を遼とくっつけてもあいつは幸せになれない。
それでも俺が遼とくっつくためにいつも助言してくれて。
なんだよ
あいつ
あのばか
もぉぉぉ!
卓は玄関にある傘立てから傘を持つと
勢いよく外へと飛び出した。
ざーーと音を立てて黒雲が辺りを暗くする。
卓は走った。
体にあたる雫が痛い。
答えなどない。
ただ海斗に会わないといけない。
そう言えば。
海斗がどこにいるのか全然分からない。
こういう時あいつならどこに向かうのか。
見当もつかない。
くそぉ!
自分の不甲斐なさを覆うように雨がさらにいっそう激しさを増す。
激しい雨の音と自分の吐息だけが聞こえる。
あいつどんだけ苦しい思いをしてきたんだ。
次回、海斗の心に触れる




