69.白雨
6月のとある雨の日の出来事。
遼から告げられた言葉で卓の心が揺れ動いていく。
白雨の中2人は1つの傘に体をよせて歩く。
69.白雨
時間は流れ6月。
季節は梅雨。シトシトと雨が続く毎日。
“雨が続き憂鬱になる日々を晴れやかに”
というフレーズのもと、
とある喫茶店の店前にはマスターが植えたアジサイが咲き並んでいる。
今日久しぶりに会わないかと卓が誘い、
卓と遼は2人きりでとある喫茶店で会うことにしていた。
「最近どう?」
卓はコーヒーを片手に、遼に尋ねた。
なんてことない言葉に雨のシトシトとした音が店内にも響いていた。
「そうだなぁ・・・まぁ・・・彼女と別れたんだよね」
遼は言葉を少し濁らせながら言った。
「えっ?付き合ってまだ2か月位じゃない?」
卓は遼のその一言を聞いてちょっと・・・
いや、かなり喜んでいた。
でもこの喜びは思っちゃいけない感情だと
すぐに抑えようとした。
「うん。なんか、友達としか見れないんだって。それで振られた」
「そうかぁ・・・」
なんて反応して良いか困る。
こちらとしては良かったのだが、
振られたのはやっぱり傷ついてるんじゃないのかなぁと
いろんな感情を含んだ”そうかぁ”だった。
「まぁ・・・俺も好きっていうよりは友達の紹介だったし!」
どこか強がりを言っているようにも感じられるこの言葉。
俺は遼になんて声をかければ良いのだろうか。
卓は、言葉を返せないまま雨の音だけが2人を包んでいた。
「なぁ、これ終わったらちょっと散歩しない?」
卓はそう言うと
「うん。まぁ、良いけど、外、雨だぞ」
「良いじゃん!ちょっと付き合えって」
卓は強引に遼を誘い、
コーヒーを飲み終え会計を済ませると外へと出た。
外は雨の音がサーッと聞こえ、
目でも分かるほどの雨粒だった。
屋根からの水滴がぽつぽつと当たっているアジサイはよく湿っていた。
「わりぃ傘忘れたから入れて」
と卓は遼の傘に入った。
「散歩しようとか言ったわりに用意悪すぎだろ」
「だって今思いついたんだもん。それに俺は傘持ち歩かない主義だし」
そういいつつ半ば強引に傘の中に押し入り、歩き始めた。
2人はここからそう遠くない
いつもの公園へと向かうことにした。
その公園はとある喫茶店からしばらく進み
階段を登った先に少し高台の場所だ。
そうこうしているうちに階段に到着した。
高台にむけた階段の隣に植えられた木々の葉は
雨に濡れて気持ちよさそうに呼吸をしていた。
階段を上り始めた2人は密着しながら歩いていたため、
自然と遼の肩と卓の肩が触れあっていた。
汗ばんだ肩が温かい。
胸が躍る。
苦しいくらいに心が叫んでる。
卓の心臓に呼応するかのように
傘に木々からの雨粒があたりボタボタと音を鳴らす。
「なぁ遼・・・俺は遼とずっと友達でいるよ」
卓は静かな空気の中ぽつりと発した。
「どうしたんだよ?急に・・・変な事言って」
「いや、なんでもない」
遼の彼女は彼女をやめて
いなくなっても
俺は遼の友達をやめない
ずっと一緒にいる。
その思いは雨の雫でかき消されて、
周りの風景に溶けて消えた。
2人は階段を上り切り公園に到着すると
ちょうど街全体を見下ろせる場所があった。
子供の頃からずっと2人で見てきた景色。
この景色を忘れて欲しくなくて
卓はここへ足を運んだ。
「みて!虹!!」
卓は遠くを指して遼に見せた。
向こうの方では雨雲はなく、雲が切れ明るくなっていた。
ちょうどその場所に光の屈折で虹が出来ていた。
「本当だ!雨の日にここに来たことないから
こんなに良い景色見れるとは思わなかったよ。」
「なっ!俺も初めて雨の日にここに来たけど、
まだまだ俺達の知らない景色ってあるんだな!」
卓は遼をみて微笑むと
ありがとう
と遼は呟いた。
2人の世界を包んでいた雨音と薄暗く広がっていた曇天模様の空が
こころなしか明るく2人を照らし、広がっていく。
「そういえば、昔この辺に秘密基地作んなかったけ?」
「あぁ作った!行ってみる?」
2人だけの世界をいっそう雨粒が明るく照らしていた。




