66.真夜中の散歩
卓と遼は海斗を家に残して二人真夜中の散歩に出かける。
好きな人にあと少し、ほんの数センチで触れることができる距離なのに
なんでこんなに遠いのだろう。
66.真夜中の散歩
遼の誕生日も残り数分で終わりそうな頃、
ほどよく酔っている3人はテレビをみながら話をしていた。
卓は隣で話す遼の姿を見ながら
遼を独り占めしたい欲求に満たされていた。
、、、それは思わぬ形で叶うことになった。
「卓・・・ちょっと酔い覚ましに外出ない?」
「あぁいいよ。付き合うよ」
「わりぃ・・・海斗ちょっと待ってて」
卓は遼の言葉にドキッとしたが冷静を装いながら席を立った。
「いってらっしゃい!」
海斗は笑顔で言ったがどこか寂しそうな雰囲気だった。
外に出ると、春先のひんやりとした風が体にしみた。
田舎ということもあり、辺りは静まりかえり
街灯の明かりが30m程の間隔でぽつりぽつりとあった。
「さみぃ・・・こんな時間に悪かったなぁ」
遼は卓の事を心配そうに言うと
「あぁ・・・大丈夫!全然平気!」
と卓は返した。
そうか・・・と遼は歩き始めた。
なぜ自分の事を誘ったのか。
真夜中に、急に、そして俺だけを誘った理由が分からず
頭の中でそればっかりがぐるぐると駆け巡っていた。
「実はさっきから屁が止まらなくて・・・海斗に聞かれると恥ずかしいだろ?」
遼は、歩きながらなぜ誘ったのかさらっと理由を教えてくれた。
「え?トイレでおなら位すればいいのに!」
「音聞かれたら嫌だろ!でもお前なら仲良いし別に良いかなぁと」
そう言えばさっきおならの音みたいなの聞こえたような気がする。
全然分からなかったけど
「そっか!そんなことのためにわざわざ・・・」
「まぁ卓なら遠慮せずにいられるし、卓ならいいよって言ってきてくれるだろ?理由も聞かずに」
「まぁ確かに・・・そういえば高校の時もいきなり電話で助けてくれ、すぐ来てくれって理由も言わずに言った事あったよな」
「そんなことあったっけ?」
「あったよ!しかもすげぇ大したことないんだもの。
そんときも卓なら来てくれると思ってって言ってた」
まぁそんな遼に振り回されるのも好きなのだが。
「あーあんときか!あの時は一大事だったんだよ。
でも1人でなんとかなったんだけどさぁ」
「片道30分チャリで爆走した俺の気持ちを返せよなぁ」
「わりぃわりぃ」
いつもみたいに笑って見せるその表情が
暗闇でよくみえないが、なんとなく分かる。
こいつのこういう所も全部好きで許してしまえる。
卓は二人きりで語れるこの瞬間が高校の時からずっと幸せだった。
この幸せな時間を永遠のものにするためには
俺の思いは胸にしまっておいた方が良い
と卓は自分の胸が高鳴るのを抑えた。
「卓とは小学校の頃からずっと一緒でさ、
高校になってからもこうやって夜一緒に話して帰って、
家の前で何時間も話してたよなぁ・・・あれって今思えば青春だよなぁ」
遼は急にしみじみと道を歩きながらそんなことを呟いた。
遼にしては珍しい。そんなことを急に言うなんて
「うん。あれは青春だった」
「今だったら1時間もすれば内容尽きるもんな」
「そんなことないよ!何時間でも話してられる」
「お前が一方的に話してる感じだけどな」
と遼は笑って言うと卓はむっとしながら
このやろっと返した。
少し歩くと辺りは住宅街を抜け、さらに静けさが増していく。
「この辺暗くてちょっと怖いなぁ。どうする引き返す?」
と遼はそう言いながら卓に聞くと
「うん・・・」
本当はこの時間をもっと堪能したいと思ったが
遼と一緒に引き返すことにした
「この辺こんなに夜暗いんだなぁ」
遼はそう言いながら歩く。
その横で卓の脳裏では好きという文字があふれ出てきていた。
吊り橋効果を使えるのではないか。
この夜道の薄気味悪さを恋のドキドキと勘違いして成功しやすいとか・・・
卓の頭にはそれが過ったが
駆け引きをすることは出来ないし、しなかった。
遼には彼女がいる。
俺がどんなに努力しても絶対踏み込めない領域
しょうがない・・・
諦めのような覚悟を胸にひっそりと抱いていく。
卓と遼を包む暗闇に周りの雑音が消えていく。
自分の心臓の音と吐息だけがうるさく反響する。
手を伸ばせば届く数センチの距離に遼の掌がある。
この数センチの距離が、宇宙より遠く感じた。
遼の誕生日も無事終了。
次はスピンオフを挟んで
次回、卓と海斗の休日
シェアハウス編はまだまだ続きます。




