57.カミングアウト
57.カミングアウト
卓母が卓の部屋の扉を開くと部屋の電気がつき立ち上がったまま下を向いた卓がいた。
卓はちょうど体を伸ばしていた風に装っていた。
「卓、ごはん出来たから早く下降りてきて」
「分かってるよ」
卓は下を向きながらそう言うと、卓母はチョコレートに気付いた。
「あれ?これチョコレート…」
「こ・・・これはその!」
卓は慌てて紙袋を拾った。
「早くしないと冷めちゃうわよ」
と卓母はそう言うと、下へと降りて行った。
これは、ばれたのか…
チョコレートしか反応してなかったけど。
まぁいいや
卓母の突然の来襲により涙は一気に引っ込み、急いで下へと降りて行った。
「あんた目が真っ赤よ」
卓母は降りてきた卓の顔を見るなり言うので
「あぁ、目薬を点したから」
適当に誤魔化しながら食卓についた。
卓の父は既にご飯を食べていた。
「いただきますっ!」
卓はそう言うと夕食を食べ始めた。
いつもならテレビがついているはずの食卓だが
今日はついていなかった。
その違和感に気付いた卓はリモコンを持った。
「あのホワイトデーって遼君からもらったの?」
卓は一瞬固まったが、
「ううん」
と言いながらテレビをつけた。
「卓が一生懸命作ってた手作りクッキー。あれは遼君に?それとも海斗君?」
卓の母は続け様に聞いてくる。
「誰でもないよ。自分用」
と卓は内心ドキドキしながら平常心を保っているのに必死だった。
「ふーん。それで、卓は遼君と海斗君どっちが好きなの?」
卓の母の言葉に卓は止まった。
「別にどっちが好きとかないよ。男同士でそんなこと」
「お母さんはね、遼君一筋だと思ったの。でもねお父さんは、海斗君に心代わりしてそれで一緒に住むんじゃないかって」
「だーかーらー」
「そんな嘘バレバレだから。いつか言ってくれると思ってたけど。お母さんもう待てない!聞きたくてうずうずしちゃってるの!どっちなの?ねぇどっち?」
「遼…」
「ほらっ!やっぱりね!私の思った通りだった」
「海斗君なかなかいい子だったぞ」
と卓の両親は2人で盛り上がっていた。
「ちょちょちょっと待って!俺まだカミングアウトしてないんだけど」
卓は2人の姿を呆然と見ながらそう言った。
「だって、あんたいつまでたっても隠すからお母さんもお父さんも我慢出来なくて」
「バレバレだったぞ」
両親の言葉に
この人たちはずっと俺の恋愛を見ながら楽しんでいたのか
と思いながらも肩の荷がすっと抜けたような感覚に陥った。
「いつから知ってたの?」
卓はむしろこの人達がいつから気付いていたのか知りたくなった。
「高校生くらいかな。だってあんた遼君の事大好きすぎて恋する乙女だったもの。分かりやすって思ったわよ。でもお父さんはそういうの鈍いから全然気づかないから私が教えてあげたのよ」
やっぱ母親ってすごいなぁと感心する卓だが、心の中に刺さるモヤモヤがあった。
「でも、困惑しなかったの?俺二人に孫の顔も見せられないダメな息子だし、人として劣ってるし…俺親不孝者だよ」
卓の中に抱えていた、人とは違うマイノリティーな自分。
きっと普通な子供の方が良かったと親なら誰しも思うんだろう。
俺はそれには絶対なれない。
だから…
「それは、最初困惑したし。育て方とか色々考えたけれど、でもね…」
「卓は俺たちの息子だから」
親父のその一言に、ずっとずっと抱えてきた思いが涙となって溢れ出る。
「お母さん。お父さん・・・ありがとう…」
卓の涙に合わせて両親の目からも涙がこぼれていく。
きっと2人にもいっぱいいっぱい負担をかけてきたんだと卓は子供の様に声を上げて泣いた。
あぁ本当にこの二人の親で本当に良かった。
「それでそのホワイトデーで何かあったの?」
卓母は目を真っ赤にしながら聞いた。
「うん。遼に恋人が出来たって」
「そうか…難しいなぁ」
「そうねぇ…こればっかりは相手の気持ちだから。どうすることも出来ないし」
「そうなんだよ」
「まぁ、もうそこはなるようにしかならないわ。あんたが苦しむだけ無駄なことよ」
「そうだなぁ」
両親は頷きながら会話をしていた。
「まぁそうだよね…もういっぱい泣いたし、打ち明けられたし。やっぱり2人の子供で良かった。あれ?そう言えば友と和は知ってるの?」
「それはあんたの口から言いなさい。私達から言うのは変だから」
「それもそうか」
「本当に、友と和にも言いたくて言いたくて震えちゃったわよ」
そんな西野カナみたいな…
「分かった。自分の口から伝えるよ。ありがとう」




