50.うな重3,800円
クリスマス・お正月編もこれでおしまい。
そして次から新シーズンです。
50.うな重3,800円
卓と遼は本堂での参拝を済ますと新勝寺の境内の諸堂を巡りながら2人は歩いていた。
「今年もいろんな所行きたいよね」
卓は歩きながら言うと
「そうだなぁ。車あるし、遠くまで行っても良いよなっ」
「静岡とか、そっちの方をいっても楽しいし」
「おっいいねっ!」
2人は何気ない話で盛り上がりつつ、気がつけば13時をまわっていた。
「そろそろ飯屋に戻ったらちょうどいい時間になりそうだなぁ」
「おぅっ!うなぎ楽しみだなっ!」
卓はそう言い2人は、新勝寺を後にした。
うなぎ屋さんの前に来ると相変わらず混んでいた。
店の中に入り店員さんに整理券を渡すと2Fへと案内された。
一段一段が高く傾きも急な階段をゆっくりと登り、テーブル席へと案内された。
「い、一食、3,800円!ったか」
卓は思わず声を上げる。
「うなぎなんてこんなもんじゃない?」
「だって牛丼屋さんだと1,000円位でしょ?」
「あれと一緒にするなって!」
と遼は、はぁっとため息をつきながら言った。
「だって…こういう所で食べたことないしぃ」
「そうだよなぁ。でももう28歳だし、もうちょい世間を知った方が良いと思うぞ」
「まるで自分は知ったような感じじゃん」
「まぁ卓よりは知ってるかな」
「なんかムカツク・・・でも一般常識知らないのは認めるよ」
卓は、大人になってから世間の一般常識に疎い自分がコンプレックスだった。
体が小さいだけに人より幼くみられるのに、常識を知らないことでさらに幼く見えてしまいそれが余計に恥ずかしかった。
とは言っても簡単に常識など身に着く訳もなく、会社の中の事務員で働く卓にとっては外の世界を知らずにここまで来ていた。
「さっきはそのままの無邪気な卓でいて欲しいって言ったじゃん」
「それはそれ。これはこれよ。俺らもいい年なんだからさ。まぁ今年は一緒に俺と経験していけば良いよ。まずは、うなぎ!」
一緒に経験・・・ぐはっ!
そんなこと言われたら好きになっちゃうでしょうがっ!
「うん。分かった・・・色々経験してみる」
2人は、うな重を頼んだ。
オーダーをお願いするときに店員さんが運んできてくれたお冷で疲れた体を潤していく。
「水うめぇなー生き返る!」
「そうだなぁっ!疲れた体に染み渡るよ」
「それじゃあ早速、次どこ行くよ?」
「急だなぁっ!まぁそれはおいおい考えようぜ」
「今回みたく遼から誘ってくれても良いんだよ」
「あぁ…まぁそのうちな」
「お前のそのうちはあてになんねぇんだもんなぁ」
「そんなもんでしょ。男同士の付き合いなんて」
「俺と遼は違う!もっとこう・・・親密な関係というか…」
「親密な関係って…うけるなぁ」
と遼は笑いながらスマホをいじりだした。
しばらくすると、肉厚なうなぎが乗っかったうな重が卓と遼の前に並べられた。
遼はパシャっとスマホでうな重の写真を撮った。
「遼っていつも食べ物写真を撮るよな」
「そうだな。SNSであげたりしてるんだよ」
「えっ!?遼もやってるの?」
「やってるよ。むしろやってない方が少ないだろ」
「それもそうか・・・」
アカウントを教えてよとは言えない卓。
でも知りたいなぁ・・・あぁ知りたい…
「いただきますっ!」
遼は写真を撮り終えて食べようとしていた。
「俺も写真撮ろうっと」
卓はそう言いながら、遼が映る絶妙の位置で写真を撮る。
うわぁ食ってるとこの遼めちゃいいわぁー
「それ俺も映ってない?」
「あっばれた?ほれ」
卓は遼に見せると
「めっちゃ映ってるじゃん。消せ消せ」
「いやだよ。俺は別にSNSに乗せるわけじゃないんだから良いだろ」
「そういう意味じゃないのよ」
「いやだぁ!後で送ってあげるから安心しろって」
「いらねーよ」
と遼は言いながらうなぎを口に運んだ。
「うんまっ!やっぱこのうな重美味しい」
「ホント!?俺も食う!」
そう言うと卓も口に入れた。
「うわぁナニコレ!うんまっ!」
「なっ!美味いだろ!やっぱ高いのは美味いんだって」
卓と遼はうなぎをぱくぱくと平らげてしまいあっという間に完食してしまった。
「美味かったー」
「だろ?」
「うん。ありがとう。連れて来てくれて」
「おぅ…」
「いやぁ今日は遼に会えて良かったよ。お正月は遼は自分の家に帰ってるの?」
「そうそう。実家だよ」
「久しぶりに遼の家に遊びに行きたいなぁ」
「あぁうちお正月はだめなんだよね。いろんな所から親戚が来るからさぁ」
「そっかぁ。じゃあ今日は大丈夫だったの?」
「まぁね。でも正確には逃げてきたのが正解。今日も早めに家に帰らないと。親戚が集まってご飯食べるからさ」
「そんな由緒正しき家庭だったけ?」
「まぁなぁー。飯田家はちょっと横の繋がりがうるさくて。だから跡取りがどうとかめんどくさいわけよ」
卓は遼の言葉を聞いて、真っ先に思ってしまったのが
俺が遼の未来を壊してしまう
という気持ちだった。
俺も遼も長男であり跡を継がなければならない。
特に遼の家庭はそれが厳しいのかもれない。
だとしたら、俺は…
「卓…どうしたの?食べたし、帰ろう」
「あっごめんごめん。うん、帰ろう」
卓と遼は席を離れ店を出たのだった。
次回から新シーズン開始!
シェアハウス編がスタート!!




