43.夕暮れの観覧車
観覧車の中は時に人の心を浮き彫りにする。
43.夕暮れの観覧車
2人が並んでいる間にも日はどんどん沈んでいった。
ちょうど順番が回ってきたころには昼間と夜の黄昏時であった。
「楽しみだなぁー!」
卓はそう言いながら進行方向側に座り遼は反対側に腰をかけた。
扉が閉められ2人だけの空間となった。
卓は外の景色をみながら、ちらちらと遼の方を見ると
遼は高くなるにつれひきつった顔をしていた。
その姿を見て卓はめっちゃ可愛いなぁと思っていた。
「そんなに怖いなら隣座ってあげようか」
卓の言葉に遼は全力で首を振った。
「いや!いい!籠のバランスが崩れるだろ!」
「大丈夫だよ。俺、体軽いから」
「そういう意味じゃないの。とりあえず大人しく座ってろ。」
「ふーん」
卓はニヤリと笑うと遼の隣に座った。
「あーだから!こっち来るなって!こえーだろぉ!」
「大丈夫だよ!これ、6人乗りだよ?2人分の体重が寄ったって平気だよ」
「そうだけどさ、ほらさっき一瞬グラって揺れたじゃん!!!」
「ちょっとじゃん!あっそうだ。せっかく隣にいるし写真撮ろうよー!」
「まだ早くない?一番上とかの方が良くない?」
「あっそっか」
でも写真は撮っても良いんだなぁ。
卓は以前よりもずっと2人の距離が縮まっているのが嬉しくて仕方がなかった。
2人を乗せたゴンドラは、ゆっくりと昇っていく。
「すげぇよ!あんなに高い!人もどんどん小さくなってるよ」
はしゃぐ卓を横目に遼は下を見ず、卓のその言葉にも前だけを向いていた。
「やっぱ怖いの?」
「下向いたら怖いけど前の景色だけ見ている分には平気」
あまり表情に出さない遼だがその時ばかりは卓にも分かるほど恐怖が伝わってきた。
遼には申し訳ないが、隣で怖がりながら前を向いている姿をみた卓は急にハッとなった。
遼と2人きり…
クリスマス…
観覧車のなか…
今の状況を冷静に考えると心臓がバクバクと動き始めていた。
恋人同士のデートで使われている言葉のオンパレードに卓は動揺が隠せなかった。
「す、すげぇーなぁ俺んち見えるかなぁ」
その距離から見えるわけもない遼のボケも、卓はドキドキで頭がいっぱいでだった。
完全に思考が停止していた。
「おーい。卓ー。しっかりしろー。」
はっ!
卓が我に返ると、眼下には昼と夜のコントラストが映しだす世界が広がっていた。
「ち、ちょうど昼と夜の境目だね」
「あぁ…すごいなぁ綺麗。」
自然が織りなす幻想的な風景が一望できた。
日も暮れてきたこともあり足元に広がる遊園地がライトアップし輝き始めた。
「遼!下みて!ライトアップされているよ」
遼は思わず下を見ると一瞬恐怖で固まったがすぐにその恐怖は消えた。
まるで下から夜空を眺めているような美しい光が広がっていた。
遼はたまらず"あぁきれいだ"と呟いた。
「あっ!そうだ!写真!夕日をバックに写真撮ろう」
卓は慌ててスマホを取り出して、インカメラに変えた。
夕暮れをバックにぎゅっと距離が近い写真が撮れた。
「見て、いい写真。なんかカップルみたいだね」
と卓は冗談交じりで言うと
「やめろよ!俺も一瞬そう思っちゃったじゃないか。よしっ。消そう」
「ダメだよ!絶っっ対ダメ!」
卓は急いで保護フォルダの中にしまった。
「遼にも送るねー」
卓の言葉に速攻で
「いらないから大丈夫だよ」
と返す遼。
「えっ?でも送る!!」
卓はそう言いながら写真を遼に送った。
「おっ…来た。すぐ消そう」
「い、良いもん!俺は大切にするからっ」
卓はそう言うと大事そうに携帯とペンタを抱えた。
観覧車も終盤に差し掛かり、辺りはすっかり暗くなり始めていた。
ライトアップがより一層煌びやかに遊園地全体を包んでいた。
「あともう少しで終わっちゃうね」
と卓は下を覗きながら言うと
「そうだなぁ。結構楽しかったなぁ」
と遼は言いながらも、少しほっとした様子であった。




