26.海斗の誕生日
通天閣の上で・・・
26.海斗の誕生日
「さらにその上があるんだけど、そっちは床が網じゃないからいけそう」
海斗は、そう言いながら卓と2人で階段を登った。
一番上に到着すると少し拓けており、ゆっくりと大阪の景色を眺められそうだった為、海斗は落ち着いた様子だった。
卓は、大阪を一望しながら風景をじっと眺めていた。
どこか遠くを見るような眼差し。
海斗は大阪に来てから卓のその目を何度か感じていた。
その目をする理由を海斗は知っていた。
「あのさ卓…」
海斗は口を開いた。
どこまでも広がるような夜景が星空の下で輝き、風がなびいていく。
「卓は、この景色を誰と一緒に観たい?」
「…海斗は何でもお見通しだな」
卓は深いため息をつきながら言った。
「俺は、大阪に来てから実はずっと遼の事考えてたんだ。道頓堀にいた時も、タコ焼き屋さんにいた時も、ここの夜景を見てても…隣に遼がいたらって…でも今日は海斗の誕生日だからっ、それはダメだって思ってたのに…」
「良いんだよ。俺がいじわるだった。ごめんね卓」
海斗はそう言いながら、卓の隣に立った。
「やっぱりさ、こういう素敵な景色を見たときに一番最初に伝えたいって思ってる人は自分にとって大切な人なんだよ」
「ごめんな誕生日なのに…」
「良いよっ。俺も気にしてないって!さぁ下降りよう」
海斗は後ろを振り返って下に降りようとした。
その瞬間卓は海斗の手を握った。
「卓?」
「海斗…俺にとって海斗も大切の人だ!だから、これ受け取ってほしい」
卓は海斗の掌にすっぽり収まるほどの何かを手渡した。
「これは…」
卓が海斗に渡した誕生日プレゼントは、鎌倉で作ったあのオリジナルストラップ…
青い立方体のガラス細工で出来ていてKaitoと彫られていた。
「俺は、、、遼と卓2人でおそろいのストラップを…」
“鎌倉は!”
卓は声を張り上げ、海斗は口を閉じた。
「鎌倉は、3人の思い出の場所だよ。遼と2人の思い出じゃない…」
卓は、ずっとどこかに引っかかていたのだ。
遼とおそろいのストラップを見るたびに、
遼と海斗、両方の顔が浮かんできていた。
これは、海斗と遼と3人の思い出のストラップだ…
だったら…
「良いんだよ。海斗…これは俺からのプレゼントだよ」
卓の言葉に海斗は目を赤くさせた。
あーずるい…本当に卓はずるい…こんなん…
好きにならないなんておかしい…
「これ、わざわざ鎌倉まで買いに行ったの?」
「まぁ、もう一回行けたから楽しかったよ」
「卓これ…オンラインでも作れるよ」
「えっ…まじ!?」
「ふふっ…!もぅそういうとこ大好きだなぁ」
海斗は卓をぎゅっと握りしめた。
「ばかっ!やめろって!もぅ…」
卓はそう言いながらも海斗のぬくもりを感じた。
「でも…卓?良いの?折角のおそろいのストラップだったのに!」
海斗は卓から離れた後に、そう聞くと
「良いのっ!これは海斗からもらったものだし、
いずれ遼からは自分からお揃いの何かを渡してくるまで待つことにしたから!」
「それは気の遠い話だなっ!」
と海斗は笑って卓の方を見つめた。
「まぁあいつは鈍感だからなぁー」
と卓は、言いながら上を眺めた。
あぁきっとこの瞬間も遼のことを考えてるんだなぁ。
ってか卓も、十分鈍感なやつだと思うぞ。
こんだけしてもきっと卓は俺の思いに気づいてないんだろうなぁ。
海斗はそう思いながら、くすっと笑った。
卓と遼。お互い鈍感者同士でお似合いなのかもなぁ…
と考えて海斗は少し寂しく感じた。
「それじゃあそろそろ降りるか?」
と海斗は言うと、卓は頷いた。
「そういえば、ケーキ買わないとね!ロウソクも!」
「えぇー!良いよぉ!2人だと恥ずかしいじゃん」
「いいからいいから!折角だからケーキでロウソクの火、吹き消そうよぉ!」
卓と海斗はそんな話をしながら、通天閣を降りて行った。




