16.卓の心
卓の気持ちに触れる。
16.卓の心
俺は普通の人とは変わっている。
いわゆる少数派の男だ。
それに気づいたのは小学生の頃だったと思う。
周りの男友達は、皆ヒーローやスポーツに興味がいっている。
なのに俺は、かわいいぬいぐるみや動物が大好きだった。
「お前って男のクセに女みたいの好きだよな」
別に深く意味のない言葉は、時に人を傷つける。
なんてことない些細なその一言で
俺は普通の男を演じようと決めた。
けれどあいつは違った。
「別に、何が好きでも良くねっ?卓は面白いやつだよ」
遼と俺は幼馴染で親同士の仲も良く、家も近所ってこともあり本当に良く遊んだ。
あいつは、人をそういった偏見とかで見ない。
少数派とか多数派とか関係なしに自分に合うか合わないか
そんな単純な理由で付き合う人を選んでいた。
俺は遼といると居心地が良かったし楽しかった。
中学校に入っても同じ部活に入り、遼の後ろをくっついて歩いていた。
そして高校にあがった。
この時期からだ。
俺の気持ちにある想いが芽生えた。
成績もほぼ同じということもあり、志望校も同じ高校を選んだ。
そして遼と同じ高校に入った。
俺は心のどこかで遼と離れたくなかったんだ。
高校に入って、遼は自分から他人へ絡んでいくタイプではないが、一度仲良くなってしまうと、癖のないその性格から次第に友達は増えていった。
世渡り上手な遼と比べて、俺は遼の友達位にしか周りからは思われてなかった気がする。
そして俺の中で遼の周りに集まる友達に嫉妬を覚えていく。
俺が遼の一番でありたい。周りの男友達よりも一番であり続けたい。
こんな汚い思いが、卓の初めて感じた恋だった。
汚い…醜い…あいつは俺だけのものじゃないはずなのに…
遼を独り占めしたい…こんな気持ちなくなってしまえば
卓は平然を装うかのように、その気持ちを心の奥底に閉じ込めた。
これは恋じゃない。
好きという感情じゃない。
ただ友達としてそばにいたいだけ。
遼もそれ以上は望んでいない。
いつかこの思いも消えるはず…
しかし、この思いは変わることなく俺は大人になっていった。
大人になっても、俺は遼との縁は切らないように必死だった。
何かにつけては会って、
少しでもあいつの
遼の心の
さらに中心にいよう
と必死だった。
そう七夕の日のあの時も・・・
俺の心にある強い思い・・・
願い事はたった一つだった。
『遼の心の中心に俺がいますように』
遼の特別になりたい。
恋人でなくても良い。
俺はあいつの特別でさえあれば
でも、俺は笹の葉へ飾るとき、遼の短冊が見えてしまった。
『素敵な出会いがありますように』
やっぱりそうか。そうだよなぁ。
この思いはダメなんだ。
諦めよう。良いじゃないか。そばにいられれば
この気持ちは絶対に叶うわけがないんだから
“良いんだよ。思っていいんだ”
そんな思いを消しさるように、海斗の言葉が俺の心に触れた。
この思いは誰も救われない…
誰も望んでいないんだと蓋をした思い。
でもこんな俺の汚い思いを救いあげたのは海斗の言葉だった。
「俺は・・・遼の事が好きだ」
卓の胸の中で、心から噴き出すように溢れこぼれ落ちていく。
「つらかったなぁ…卓…」
海斗の言葉で俺の心の声はさらに噴き出した。
「海斗…俺はこんな気持ち無くて良いと思った」
「うん」
「無くなってしまえば、遼とずっと一緒にいられるって」
「うん」
「でも、会えば会うほど
俺のこの気持ちはどんどん大きくなっていって…
止められないんだ…」
俺の言葉に海斗は胸の奥でささやいた。
「止めなくても良い。悩んで悩んで悩みぬいて、それでも残ったその気持ちは卓の答えだ。そうやって選んだ答えは…」
俺はその後の言葉を知っている。
「尊い…」
「だろっ。もう答えは出てるじゃないか。その気持ちを大切にしなくちゃ」
海斗は、卓の体をそっと胸から外して笑って見せた。
目が赤く湿りながら微笑んだ海斗の笑顔を
街灯が優しく照らした。
悩んで悩み抜いた10年間。
それでも胸の中にあったのはたった一つの尊い答えだった。




