100.ただいま
100.ただいま
15時に出発か・・・
時計の針は12時を指していた。
今出れば、まだ間に合うな。
何を馬鹿なことを考えているんだ俺は・・・
千葉の家で海斗はリビングのソファーに座りながら
そんなことばかりを考えている。
この家には卓との思い出が詰まっている。
朝起きて一階に降りると卓の姿があって
おはようって声をかけて
ソファーに座っているとコーヒーを注いでくれて
コーヒーを飲みながら一緒に朝食を食べて
昼になったら今日何しようかなんて話をしながら
出掛けたり、たまには家でまったりして過ごして
夜一緒にお風呂入ったりして
夕飯を食べて、布団に入って
そんな毎日の跡がこの家には詰まってる。
部屋も卓の家具とかそのままにしてある。
いつかまた2人の生活が戻ってきて欲しいから
ずっと待ってると約束したから
だからこの家に居続けた。
ただいまって卓が帰ってくるその日を
俺はずっと待ち続けていた。
けれど、もう良いんだ。
遼が自分の気持ちに気付いたら
もう俺たちは終わりだと思っていたから。
最初からこうなるって分かってて一緒にいたはずなのに
辛さだけが残っていく
もう、この家にもいる必要がない
「引っ越そうかな・・・」
1人で住むならこんなに広くなくても良いしな。
そういえば・・・なんか賃貸のチラシがポストに入ってたな。
海斗がチラシを探そうと立ち上がった時、
足を机にぶつけ、ガタンと机のものが倒れた。
海斗がそれを直そうとした時、
目に飛び込んできたのは卓が作った卓上カレンダーだった。
“海斗!これからも一緒にいっぱい思い出作ろう”
卓の言葉とあの時の笑顔が鮮明に記憶の中から呼び覚まされていく。
「一緒に思い出作ろうって言ったじゃないか・・・」
海斗はかすれた声でそう一言いうと
涙が頬をつたってこぼれ、カレンダーに落ちた。
「いけね」
海斗はそう言うとティッシュで拭くと
次のページがめくられた。
卓と海斗が楽しそうに笑っている写真。
海斗はそのまま次のページをゆっくりとめくっていった。
まるで卓との思い出をさかのぼるように・・・
31枚の写真は卓と海斗・・・そして遼との3人の思い出が詰まっていた。
3人でいろんな所に出かけて
たくさん話して
これからももっともっと思い出を作って
一緒に・・・
卓と一緒にいっぱい・・・
いっぱい・・・
まだまだ思い出を作りたい・・・
離れたくない・・・
一緒にいたい・・・
“海斗自分の幸せを考えろよ”
“海斗自分の気持ちに嘘をつくなよ”
あいつらの言葉が俺の脳内を駆け巡った。
気が付くと走っていた
全力で君に会うために
もう何も考えず、自分の気持ちに正直に
なんだよあいつら
卓も遼も自分勝手な奴らだ
俺の気も知らずにちきしょぉ
だったら俺も・・・俺も!!
この気持ち無いことになんかしてたまるか!
たくーーーーーーーー!
成田空港で卓をみつけた海斗は叫んだ。
海斗に気付いた卓をみて
海斗はそのままその声量で叫び続けた。
「俺、あの時嘘ついた!
遼なんかに卓を奪われたくない!
俺の方が遼より100倍卓の事を愛してる!
だから!俺の所にもどってこーーーい!」
恥ずかしげもなく叫ぶ海斗。
卓は海斗の胸元に飛び込んだ。
ただいま・・・海斗・・・
卓は海斗の胸の中で涙いっぱい浮かべてそう言った。
おかえり!卓!
そう言うとぎゅっと卓を胸の中に包んだ。
海斗の目からも涙が滲んでいく。
もう離さない
うん
絶対にもう離すもんか
うん
卓愛してるよ
うん・・・俺もだよ海斗
ずっと一緒にいよう
あぁ、健やかなる時も病める時もずっと一緒だ
約束だよ・・・
あぁ約束だ
2人は涙声を出しながら約束を交わした。
次回、最終話 俺たちの物語




