99.初恋の結末
99.初恋の結末
今日遼は午後15時成田空港発の便でフィリピンに出発する。
遼は早めに空港に到着し卓の事を待っていた。
14時になり空港のロビーで座って待っている遼の所へ卓が現れた。
「おぉ!卓!待ってたよ!」
遼が手を挙げて立ち上がる。
「ごめんごめん!遅くなった」
卓はそう言うと走って遼の元に駆け寄った。
「それで卓の答えは決まった?」
遼はそう言うと、卓はこくりと頷いた。
俺・・・遼とは付き合えない。
卓の言葉だけが耳に残り、周りの音が無音に聞こえた。
「俺は遼の事がずっとずっと好きで・・・
大好きで離れても遼の事しか頭に無くってさ・・・
そんな俺のずっとそばにいてくれたのは海斗だったんだ。」
遼はその言葉を黙って聞いていた。
途中、胸が張り裂けそうになりながら
卓の思いをただただ聞いていた。
「3日前の遼から告白、本当に嬉しかった。
やっと一緒になれると思った。
心の底から嬉しかったのにさ・・・
最初に浮かんだのが海斗の哀しそうな顔だったんだよ」
遼から告白された時も
ずっと俺の心の中には海斗がいて、
ふと空を見上げたその時に最初に浮かんだのが海斗だった。
あいつ今頃どうしているのだろう・・・。
この空の下に繋がっていたいって
同じ景色を見ていたいって
気付いたら海斗でいっぱいになっていた。
今海斗の手を放したら絶対後悔する。
遼・・・俺は海斗の事が好きだ。
だから・・・俺は・・・
俺と同じだ・・・
フィリピンで見上げた空の向こうにいる卓をいつも想像していた。
ずっと繋がっていたいって
一緒にいたいって
俺にとっての卓は海斗・・・お前だったんだな。
「卓・・・俺は2年前のあの日、
卓の手を繋ぎとめていなかったこと、
ずっとずっと後悔してた。
あの時に卓の気持ちに応えていたらって」
大切な人には幸せになって欲しい・・・だから
「卓・・・お前は海斗の手を放しちゃだめだからな」
遼の震える声に言葉を発することが出来ない卓はこくりと頷いた。
「なぁ・・・最後に一つお願いしても良いか」
遼は卓の目を見て
“キスをして欲しい”
と伝えた。
「いいよ・・・初めてのキスは初恋の人が良い」
卓の表情に遼は愛おしく感じた。
今だけは、この瞬間だけは・・・
俺だけの卓でいさせて欲しい。
遼は卓の体を寄せ
柔らかい卓のほほに手を当てながら
遼の唇が卓の唇へとゆっくりと近づく
小さな卓を包み込むように抱きしめ
両方の唇が合わさっていく。
時間が魔法のように止まり辺りは静まり返った。
周りの風景はかき消され2人だけの世界が広がった。
ずっとこうしたかった。
長い長い時の中で育ててきた思いが、この一瞬に交わりあっていく
わずか数秒の中、時間がゆっくりと遡っていく
初めて出会ったあの日から今までの日々が溶けていく
柔らかな唇にほのかに暖かな体温を感じていく
ずっと・・・ずっと・・・大好きだよ・・・
「ありがとう・・・お前を好きになれて良かった」
目に涙をにじませながら遼は卓の顔を見つめた。
わずか5cmの距離・・・
「俺も・・・遼が初恋の人で良かった」
卓はそう言うとこつんと遼のおでこに自分のおでこを当てた。
“じゃあな・・・俺の初恋・・・”
“バイバイ・・・俺の初恋・・・”
こうして俺達の初恋は終わりを迎えた。
「そろそろ行かなくちゃ!じゃあまたな」
遼はそう言うと、後ろを振り返り歩き始めた。
「おぅまたな・・・」
遼の後ろ姿をみながらお見送りした。
“このまま終わりで良いのか・・・”
「りょうーーーー!」
少し離れた遼に向かって卓は大きな声で呼びかけ
その言葉に遼は後ろを振り返った。
卓は、絆のお守りを片手いっぱいに広げて掲げた。
「今度帰ってきたら3人で返しに行こうなー!」
“貴方たちは長い間ずっと紡いできた絆をなんというか知っていますか?
腐れ縁そういうんですよ
どんなに離れても、この絆は永遠です“
「おう!約束だぞーーー!」
遼はそう言いながら、片手いっぱいに自分のお守りを大きく掲げた。
離れていても家族の絆が深まりますように
・・・・・・・・
「さぁてと・・・それじゃあ会いに行きますか」
卓はそう言うと、遼とは反対の方向へ歩き出した。
卓が、空港の出口から出ようとした瞬間、
たくーーーーーーーー!
という叫び声が聞こえた。
卓の目の前30m程の距離に海斗が立っていた。




