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やっぱりヒロインになりたい  作者: 渡 幸美


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23/23

小さな恋の、 さん

私、アリシャ=オーラン。子爵家の長女です。

僭越ながら、生徒会の副会長も勤めております。


勉強は、得意!!という程ではございません、ただ、努力はしました。アンドレイ殿下のお側で、少しでも力になりたくて。


子どもの頃の、あの、お茶会の日。


貴族の子息、息女が全員参加の顔合わせのお茶会。もちろん、私もその場におりました。


アンドレイ様の子どもらしさの残る行動でもありましたが、あの、必死の眼差しに一目惚れをしてしまいました。その眼差しが、自分に向いていなくても。あの真っ直ぐさが、とても眩しかったのです。


それからずっと、アンドレイ様はダリシア様を一途に見つめていて。他のご令嬢達のお話にもお付き合いはしていても、心はずっとダリシア様のものでした。


私は、戦友のように自然といるお二人を見るのが大好きで。私とは正反対の、自由で伸び伸びとされていて、天才肌のダリシア様。周りの勝手な噂話もさらりと流されていて、しかも、品がある。お二人が引き継がれるであろうこの国の、少しでも支えになれたらと、近くで見守りたく思い、努力を続けました。


努力が実り、生徒会役員に推薦していただけて、充実した毎日を過ごしていた、夏の終わりのある日。


「ダリシア様と、カリタス公爵ご子息が、ご婚約……?」

「だって!びっくりしたよねぇ?大丈夫かな、アンドレイ……」


ラウネン様に聞かされた時は、正に寝耳に水でした。

まさか、と思いましたが、二人のロマンスはあっという間に学園に広まり、事実なのだと突き付けられました。


私は、お二人を勝手に応援していただけです。それでも大きなショックを受けました。では、長年の想いが砕けたアンドレイ様は?考えただけで、胸が張り裂けそうでした。


アンドレイ様は、普段は変わらず、ずっと笑顔でした。確実にフリーになった王太子殿下にはますます人が集まり、それは賑やかなものでした。

あれだけの長年の想いが砕けたのです。皆さんの立場やお気持ちも理解はできるのですが、そっとしておいて差し上げたらいいのにと、何度も思いました。


せめて生徒会では気楽にしていただけたらと、極力そっとするように努めました。アンドレイ様は、生徒会中ではふとした時に物思いに耽ることが多くあり、そんな時は私に出来る範囲で判断をし、採決をしました。大きな行事がなかったのも幸いでした。


「生徒会中だと、アンドレイの奴、気を抜き過ぎだよなあ。アリシャ嬢、大変じゃない?」

「いえ。ここが心を許せる場だとしたら、それは嬉しいことですわ。外では一瞬でも沈んだお顔はできないのでしょうから……」

「優しいねぇ、アリシャ嬢は。俺も手伝うから、言ってね」

「ありがとうございます、ラウネン様」


生徒会の皆様も、軽口を叩きながらも心配していて、そんな彼らと接しているうちに、生徒会中でも徐々にいつものアンドレイ様に戻って行きました。


ご令嬢方は、相変わらずです。アンドレイ様は、少しお疲れのご様子ですが、楽しそうにも見えます。

いずれきっと、ダリシア様のように快活で知的で美しい方を、また見つけられるのでしょう。


「その辺のご令嬢より、アリシャ様がいいと思うけどなあ、お淑やかで美人だし」

「きゅ、急に何ですか?ミラ様」


ある日、生徒会に少し遅れて参加したら、庶務の三人が何やら盛り上がっていました。ちなみに、その日はアンドレイ様は公務でご欠席。


「いやさ、アンドレイ様の婚約者候補っすよ!このままだと埒が明かない感じじゃないですか?だったら気心も知れていて、賢くて美人のアリシャ様が良くないかって」

「そうそう」


ウィル様とラウネン様も楽しそうに話されますが、あり得ない話です。


「まあ。皆様にそう仰って頂けて光栄ですけれど、私には……きっと、アンドレイ様はダリシア様のように、太陽のような方がお好きなのだと思いますわ」


生徒会の皆様は、美人とお世辞を言ってくれますが、黒目黒髪ストレートな私は、それはそれは地味なのです。


「皆様のお気持ちは嬉しいですわ。さあ、そろそろお仕事をしましょう。もうすぐサージュ様たちも参加されますし、引き継ぎの準備をお願いします」

「「「はーい」」」


この生徒会も、私の学園での宝物です。



それからまた季節は巡り、最終学年の春。


ダリシア様とルーエン様がご結婚をされたのと同時に、ご令嬢方の勢いはますます増して、さすがのアンドレイ様もぐったりとされていました。もちろん教室では、王子様然とされていますけれど。


まだ、一年と少し。


想っていた年月を考えますと、そう簡単には割り切れないと思うのです。この国も、婚期がずいぶんと後ろに下がって参りましたが、やはり王子様とのご縁は別格なのでしょう。学園を卒業してしまうと、お会いする機会も減りますものね。でも、お相手の気持ちを慮るのも、大切ではないかと思うのです。


そんな日常の、ある日。


積み重なった、いろいろな思いがあったのでしょう。アンドレイ様が、彼らしくない表情をし始めました。こんなことは初めてです。


私は、アンドレイ様の婚約者でも候補すらでもなく、ただのクラスメートなだけです。他のご令嬢を諌めるなんて資格もございませんし、黙って見守ることしかできません。でも、今日のアンドレイ様の表情は見過ごせませんでした。


私の突然の参加に、ご令嬢たちは反発されました。それはそうです。でも、今日は引けません。



「アリシャ様も、アンドレイ様のお隣を狙ってらっしゃるのでは?」

「!そんな……!」


と、反論しかけて、ハッとします。隣を狙うなど考えたこともございませんが、最初の動機は、確かにアンドレイ様のお側にいたかったからです。それは、ずるいと言われても仕方がないのでは?あれ?邪な動機と言われても仕方がないのかもしれません。


「もし、皆の言う通り、アリシャ嬢がそのようなことを考えていたとしても。彼女から誘いを受けたことも無ければ、彼女が仕事を疎かにしたこともないよ。

私の為に勉強を頑張ってくれたと言われるのも、本当であるなら光栄だが、事実としてあるのは、彼女が優秀であると言うことだけだ」


アンドレイ様の言葉に、泣きそうになりました。

元々、私はあまり表情が動かないので、誰にも気付かれずに済むのは幸いでした。


でも、このままだと、アンドレイ様に嘘をついているようで心苦しいです。……正直に話して、離れなければ。できればずっと、近くで幸せになられるアンドレイ様を見届けたかったけれど、それもずるい考えでしたよね。



「いや、困らないが」

「えっ?」


正直に話した私に、楽しそうな返事を返されるアンドレイ様。え、ダメじゃないですか?あれ?混乱してきました。



「いつもと違うアリシャ嬢の一面を見られて、嬉しいよ。さっきも言ったけど、仕事に支障は出ないでしょ?」

「~!でも、私の動機はずるいので」

「ずるくないよ。寧ろ、俺の為の努力なんて光栄だって、言ったよね?」


ずるくないですか?本当に?違った一面と言われましても、動揺するばかりです。


アンドレイ様がいいと仰るのなら、いいのでしょうか?


「仕事はもちろん、今まで通り頑張ります!けどあの、このまま、アンドレイ様をお慕いしていても構わないのですか……?」

「ん"ん"っ、そ、そうだね」

「ありがとうございます!」


アンドレイ様が横を向いて、真っ赤になっているなんて気付かずに、私は嬉しくて笑顔で返事を返しました。


これからも、お側で支えられるなんて幸せ過ぎます。


「これからも、よろしくお願いいたします!」





ーーーまたまた、そのドアの外にて。


「兄上って、元気っていうよりは、天然好きだと思うんだよね」

「ああ、何となく分かるわ……」

「「「はははははっ」」」



私が生徒会の皆さんの、そんな話に気づくのは、もう少し先のお話。



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