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19.君がいい

「ど、どうしよう、ミル。私、会う自信がない」

「分かるけど。話さない訳にもいかないとも思うわよ」

「……でも」


どうしても、顔を合わせる勇気が出ない。

……律儀な人だから、きっと謝罪に来たのだろう。でも、まださっきの傷が癒えていないのだ。事実を重ねられて更に傷を広げられたくはない。


「ヘレンさん……お帰りいただくように伝えていただく訳には……?」

「ダリシアいるんだね。さすがに分かるだろう、無理だって」

「……ですよね」


チキンな私は逃れようと試みたが、それは呆気なく崩れ去る。学園は平等とは言え、卒業後の公爵令息にまではどうも出来ないわよね。


「ダリシア。不安なら一緒に行くわ。ダリシアさえよければ」

「……ありがとう、ミル。情けないけど、お願いできる?ヘレンさん、分かりました。すみません。参ります」


私は諦めてドアを開ける。


すると苦笑気味のヘレンさんと目が合う。いや、苦笑と言うより、弱冠楽しそうな……?


「まあとはいえ私もね、本当にダリシアに会わせたら危険だったりしたら、大事な生徒を公爵でも何でも合わせないけどね。……あの様子だからねぇ」


ヘレンさんの言葉に、ミルと二人で顔を見合わせる。


「え……?あの様子って……?」


「会えば分かるよ!さあ着いた着いた!」


「あ、あのっ」


私たちのタイミングなんてお構いなしに、ヘレンさんが応接室のドアをノックして、「お連れしましたよー」と、ドアを開ける。そして、私はこれでー、とさっさと去って行く。


「えっ、ヘレンさ……」


「ごめん、ダリシア。私も戻るわ」


ヘレンさんの素早い身のこなしを呆気に取られて見ていると、先に部屋に視線を向けたミルまで去ろうとする。


「えっ、なんっ、ミル?!」


「二人で!ちゃんとお話しなさいね!」


と、私を部屋に押し込み、ドアを勢いよく閉めて行ってしまう。


ふ、二人とも裏切り者~!あ、ヘレンさんはちょっと違うか。でもでも、……婚約者でも何でもない男性と二人にさせるのはどうなの?


私の心は、自分で思った言葉にまた傷ついたり、いろんな感情でごちゃごちゃだ。その場から動けず、上も向けず、ドアの前で立ち尽くすしかできない。



「……ダリシア嬢、先程は」


暫しの沈黙の後、ルーエン様が口を開く。


「あ、あのっ、ルーエン様!わた、しは大丈夫ですので!気にして下さっていらしてくれたのですよね?謝罪は結構ですので」


「ダリシア嬢、違う、いや、それもあるが、話を」


「何も違うことなんてございませんでしょう?私ごときのつまらない問題に巻き込んでしまいまして、こちらこそ申し訳ありませんでした」


ルーエン様の言葉を聞きたくない私は、彼を遮るように一気に捲し立てる。はしたないけれど。情けないけれど。……悪あがきだけれども。ルーエン様の口からハッキリと拒絶の言葉を聞きたくなくて。


「ダリシア、お願いだ、話を」


「私は何もないですわ!先程の話が全てでしょう?承知しましたと申し上げました!」


私は下を向いたまま、ぎゅっと目を閉じて叫ぶように言ってしまう。失礼だろうけど、だって。


すると急に、花の香りが私の鼻腔をくすぐる。


「え、花の、香り……?」


思わず顔を上げると、目の前にビタミンカラー満載の、元気の出るような素敵な花束があった。

黄色のガーベラをベースに、白薔薇、ピンクの薔薇、蝶々のようなオンシジウムやオレンジのミニバラ、アプリコットのカーネーションが華やかに包まれている。



「……綺麗」


無意識に呟く。


「良かった。ようやく上を向いてくれた。……これを君に、ダリシア。君のイメージで作ってもらったんだ。女性に花束を贈るのは初めてで……気に入ってもらえるといいのだが」


「初め、て……?なぜ、私に……?あ、謝罪、でしょうか……」


「違う、もちろん謝らなくてはならいが、これは私の君への気持ちだ」


「ルーエン様の……?だって、この花たちは……」


ガーベラの花言葉は「希望」や「前進」白薔薇は「尊敬」ピンクの薔薇は……か、「可愛い人」とか、あ、「愛の誓い」とかだし、他の花たちも可憐であるとかそう、あ、愛の告白のような花束で……。


いや、まさかね?!と思いながらも、顔が熱を持ったのが分かる。


「良かった。その様子だと、気づいて貰えたようだ」


私の赤い顔を見て、ルーエン様がはにかんだように微笑む。そんな顔を見ると、つい、すぐに絆されそうになってしまうけれど。


「……まだ、お芝居の続きをなさりたいのですか?」


もう傷つきたくない私は、そんな言葉を吐いてしまう。


ルーエン様も傷ついたような顔を一瞬したけれど、すぐに思い直したように真面目な顔をする。


「いや、私が傷つくような資格はないな。すぐに信じては貰えないだろうが、その花束は私の本心だよ。ダリシア」


「……」


「言い訳にしかならないが……あの日、仕事のようにこんなことを引き受けたこと……始まりを後悔しているんだ。君に嘘を吐くような再会になってしまって。結果、君を傷つけて」


「ルーエン様……」


「正直を言えばね、嫌々ではあったけれど、最初は少し気楽だった。君と殿下が纏まればお役ご免で、魔法研究も進められて、誰も傷つかないだろうと。……それが、君と再会して……始めは懐かしい、可愛い妹分だったのに……気づいたら惹かれていた。可愛い弟分のアンドレイにも渡したくないくらいに」


ふにゃりと眉を下げて告白してくる、ルーエン様。


耐性のない私は、もうすでに逃げ出したいくらいに恥ずかしい。


「あ、あの、ルーエン様」


「今日、君にあんな形で知られて。情けないことにどうしていいか分からなくなかった。違うと言いたかったけど、やらかした事は事実だ。咄嗟に、周りの事も過ってしまって……。でも、君が去った後に思い知った。自分がどれだけ君のことを好きなのか」


「ーーー!!」


「すぐに許して貰えないのも、信じられないのも分かる。けれど、私はお転婆で前向きなダリシアが好きだ。どうか、私を選んでくれないか」


ルーエン様が真っ直ぐに目を見て伝えてくれる。


「わた、私……お転婆ですとか、研究バカですとか、いいろいろ言われていますのよ?父に心配されるほどいろいろ疎くて、友人にも鈍感といわれて……私なんかでいいのですか?」

「ダリシアがいい。ダリシアのことをいろいろ言ってる奴等が馬鹿だ。それに君がいろいろ疎くて鈍感なのも感謝している。矛盾してしまうが、だからこそこんな風に再会できたという側面もあるしね」


「卑怯でごめんね?」と自嘲するルーエン様。私は首を横に振る。


「こんな私だけど。ダリシア。一生、共に歩いてくれませんか」


「はい。……はい。よろしくお願いします、ルーエン様。わた、私も、ルーエン様が好きです。は、初恋も貴方でしたのよ?」


ルーエン様は一瞬目を見開いて、それからとても嬉しそうに笑って、私を抱きしめた。


「ありがとう、ダリシア」



すると。


「よかったー!おめでとう、ダリシア!」


ノックと同時に、バーンとドアを開けてミルが部屋に入ってきた。そしてすぐ後ろにはヘレンさんまでもいて、とてもいい笑顔でこちらを見ている。


「なっ、二人とも!いたの?」

私は慌ててルーエン様から離れる。けれどきっと、顔は真っ赤だ。


「そりゃあね?一応未婚の男女だし、何かあったら困るもの!ねぇ?ヘレンさん?」

「そうさね」

「一応、気は使ったのよ~?花束見えたから!」


ヘレンさんはともかく、ミル、目敏いわ。


「もう!だからって……恥ずかしいじゃない」


「いいじゃないの、ヒロインおめでとう!!」


「うっ、それは……嬉しいけど」


恥ずかしくて下を向いて、モジモジしてしまう。


「きゃー、可愛い、ダリシア!カリタス様、ダリシアをお願いしますね!」


ミルが私を抱きしめながら言う。


「もちろん。共に幸せになります。……そろそろ、こちらに彼女を返していただけますか?」


ミルは、はっ、と腕を離すと、「すみませ~ん」とニヤニヤしながら私をルーエン様の方へと押し出す。


「ありがとう」と嬉しそうな笑顔で、ルーエン様が私の方を抱き寄せる。思わず顔を見上げると、蕩けそうな微笑みを向けられて、さらに赤面してしまう。


それを見て、ミルがきゃーきゃー騒ぎ、さすがにここまで!!と、ヘレンさんに窘められる。


最後までバタバタで。


自分にはあり得ないと思っていたヒロインになれて……コメディ感は抜けないけれど。


とても、幸せだ。


これからも、私らしく。研究と、恋愛(まだ、は、恥ずかしい……)と人生を、のびのびと生きていこう。


大好きな、理解者と共に。


あ、お父様とも、ケリをつけないとね!


のんびり更新にお付き合いありがとうございました!!

こちらで、本編終了になります。


また、後日談とか、アンドレイ視点とか?書けたらと思っています。興味のある方は気長にお待ちいただけたら……とても嬉しいです。

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