10月8日 熾烈
何度思い出しても、ゴールにボールが入っていくのは最高の感覚だった。紅白戦で1ゴールをあげた俺は、明後日の練習試合のベンチ入りが決まった。これまでは、ベンチ入りすらできなかったから、試合に出るチャンスは全くなかった。ただ、今度は違う。今度の試合で結果を出せば、またレギュラーへと近づくのだ。当然、1試合目というわけにはいかないだろうけど、2試合目に出場機会が回ってくるとふんでいた。それまでに、脚を最高の状態にしたい。
やはり、脚に不安を抱えた選手を使うことは監督もためらうだろう。早くやれることを見せたい。結局、一昨日の紅白戦は前半戦の45分しか出場機会がなかった。ホントはフルで出ないといけないのに。ただ、変えられてよかったとも思っている。これが、今の俺の限界でもある気がしていた。
湊人「どう、脚?」
俺 「まぁ、まぁかな」
完全にというわけにはいかなかったけど、4月と比較すると比べものにならない。
湊人「やっぱり、疲れんの?」
俺 「思ったよりもな」
湊人「じゃあ、明後日は無理か?」
俺 「いや、絶対に出る」
明後日でなかったら、いつアピールするんだ。
湊人「俺は2試合目で結果出すから」
俺 「でも、俺がいないとボール来ないぜ?」
湊人「ハハハハ。悪いけど、俺は1人でもやれるから」
俺 「怪しいな」
湊人の表情も明るくなったような気がした。
湊人「お前こそ、この前のゴールがたまたまだったんじゃないか?」
俺 「そんなことあるわけないよ、実力だよ」
湊人も後半戦にきっちりゴールを決めていたのだ。
湊人「春翔の戦略を使うなら俺たちも一気に試合に出れるな」
俺 「そうだな、最初は春翔たちが敵だったのに、今は3列目が敵にならんだからな」
もし、本当にあの戦略が成功したら、3列目までが攻撃陣という展開だ。そうなると、俺たちのレギュラー争いは、真田、佐江、山下、山田、鹿目、佐藤、坂和、田上、山本あたりになる。しかも、出れるのはこのうち2人という熾烈な争いになる。
湊人「不思議なもんだよな」
俺 「ああ」
湊人「とにかく、次の大会は必ず試合に出るから」
俺 「そうこなくちゃ」
湊人とは、まだ大会で一度も一緒に出たことがない。
湊人「お前も出るんだろ?」
俺 「もちろん、もう一度全国に行く」
湊人「俺を連れていけよ」
俺 「お前はいらないかな」
湊人の笑い声が響き渡った。




