10月2日 タオル
今日もやれるだけやりつくした。昨日よりも、練習メニューはハードだった。トレーナーの言うことは聞きつつも限界まで挑戦していた。本当は、もう少しペースを落とした方がいいのだろうけど、グラウンドで練習しているアイツらと同じではいけない気がしていた。今日は、ベンチプレスやラットプルダウンなどをして体も疲労困憊だった。早く家に帰って休みたいというのが本音だった。しかし、ここから家まで30分はある。とても憂鬱な時間だった。タクシー使えたらなー。どれだけ楽なのだろうか?俺は、心の中で妄想していた。すると、どこかで聞き覚えのある声が。俺は、後ろを振り向くと、ポニーテールをした女の子が。手には、複数のタオルがあった。タオルの持ち主は、朝比奈だった。
朝比奈「今、あがり?」
俺 「ああ。みんなは?」
ちょうどトレーニング施設から出た少しのところで朝比奈に会ったのだ。
朝比奈「何人か居残り練習してるみたい」
俺 「そっかぁ」
居残り練習と言われると、俺だけ早く上がっていいのかなと思う。なんか、わからないけど気持ちが沈んでしまう。
朝比奈「なに、その顔」
俺 「なんでもねぇよ」
俺のことを悟られたくないから、必死に何でもないような素ぶりを見せた。
朝比奈「ハハハハ。相変わらずね」
痛いところにツッコンでくるコイツはなんとも腹が立つ奴だ。
俺 「うるせぇよ」
笑顔で俺の方を見てきた。
朝比奈「そう言えば、春翔くんが終わったらこっち来るように言ってたよ」
俺 「めんどくさ。ここからグラウンド遠いだろ」
春翔かぁ。何のようだ?けど、わざわざ行っても大した用事じゃない気がする。俺の心の中は揺れ動いていた。
朝比奈「知らないよ、私は」
俺 「もう、俺はこのまま帰るよ」
春翔の誘いにはのらないことにした。至急なら、連絡もいれてくるだろう。
朝比奈「えっ、そんなのしたら怒られるじゃない」
俺 「怒られたらいいんじゃない?ハハハ」
朝比奈「それは、嫌だよ」
タオルがゆっくり落ちていくのがわかった。
俺 「どこ持っていくの?」
朝比奈「あそこの洗濯室」
落ちたタオルに手を伸ばした。
俺 「持ってやるよ」
朝比奈「いいの?」
俺 「特別にな」
さっきまで見せていた笑顔から少し真剣な顔になっているのが妙に不思議だった。




