8月6日 北條傑
今日は、昼からカフェにいた。今日も、本当であれば、今頃サッカーの練習をしていた。しかし、サッカーをやめたことでグラウンドに行かなくてよくなった。悲しいようで悔しい気持ちだった。自分の中でも、辞めてどう思うかが想像できなかった。
辞めた今でさえ、自分の気持ちを表現できていなかった。そんな俺は、同じ高校だった、北條傑をカフェに呼び出していた。傑は、少し急いだ様子でカフェに着いた様だった。
私 「久しぶり」
北條「久しぶりー」
傑は、右手を挙げながら答えた。
私 「元気?」
北條「おう。そっちは、元気ない?」
私 「まぁな‥‥」
傑は、何かを察するように、俺の方を静かに見つめた。
私 「実は、サッカーやめることにしてん」
北條「そうなんや。俺と一緒やな」
傑は、微動だにしなかった。傑も、怪我で陸上を諦めた過去があったからだろう。
私 「そうやな。傑は、陸上辞めた時、どうやった?」
北條「俺?そんな大したことないよ。だって、傑は大学までやってるやん」
私 「でも、傑も高校もスポーツ推薦で入ってるやん」
北條「それは、そうやけど。旭とは、レベルが違うよ」
私 「そんなことないって」
北條「あるよ」
私 「でも、急に部活いかなくなると狂うやろ?」
北條「今までやってきたのがなくなるのはね‥‥」
傑は、少し真面目そうに話をしてくれた。
私 「つらい?」
北條「なんか喪失感は、あるかな」
私 「そっかぁ‥‥」
北條「やめて後悔は、ないの?」
私 「うーん。今のところは、ないけど」
まだ、自分の気持ちをよく理解できていなかった。
北條「じゃあ、いいんじゃない」
私 「まぁな」
北條「大学は、続けるの?」
私 「うん。学費払ってもらってるしな」
部活は、やめるが大学は続けることにしていた。スポーツ推薦で入った俺は、大学で勉強はほとんどしてこなかった。
北條「やね」
私 「傑は、どうなん?」
北條「まぁ、ボチボチかな。バイトに明け暮れてる感じ」
私 「バイトかぁ」
北條「傑もバイトしてみたら?」
私 「それそもそうやな」
傑と話しているとたくさんのヒントをもらえる気がしていた。
北條「なんかしてると、喪失感もなくなると思うし」
私 「確かに。傑は、何のバイト?」
北條「俺は、配達やな」
私 「しんどくないの?」
北條「しんどいよ。でも、給料いいし。やめられないよ」
私 「そうなんや。これから、どうしようか考えてみるわ」
私たちは、1時間ほど、カフェで話をして、解散した。今でも、私の中で、サッカーをやめたという感覚はなかった。