8月28日 家族旅行
柚月「お兄ちゃん、これどうする?」
俺 「何これ?」
柚月の手には、旅行のチケットがあった。
柚月「この前言ってた旅行だよ」
俺 「ああ、言ってたな」
柚月「どうする?」
まだ、行くことに決まってはなかった。でも、久しぶりだしな。
俺 「いつなの?」
柚月「9月5日からかな」
まだ、余裕があるし。心を決めた。
俺 「たまには、行くかー」
柚月「そうする?」
意外にも柚月は、無反応だった。
俺 「柚月は、いつから大学なの?」
柚月「私は、9月12くらいだったかな」
俺 「じゃあ、いけるかぁ」
日程的にも、柚月も問題なさそうだった。
柚月「家族旅行なんて、ホント久しぶりだよね」
もともとは、お母さんとお父さん二人で行く予定だったが、暇なんだったらって誘ってくれたのだ。
俺 「もう10年くらい行ってないんじゃないか」
家族旅行なんて、小学生ぶりくらいだ。
柚月「小学校4年生ぐらいからずっとサッカーだったしね」
俺 「柚月もずっとバスケしてたろう」
私たちは、小さい頃からスポーツをしていたから、遠出をするということはほとんどしなかった。
柚月「お兄ちゃんには、敵わないよ」
俺 「なんだよ、それは」
柚月「お兄ちゃん、ずっとサッカーの練習でいなかったよ」
たしかに、柚月のことは当たっている。家に帰る暇があったら、練習をしていた方がよかった。
俺 「それだけ、熱中してたんだよ」
柚月「それは、そうだね」
俺 「柚月もそうだろ?」
柚月は、首を横に振った。
柚月「私は、違うよ」
俺 「なんで?」
すぐさま聞き返す。
柚月「私は、バスケの練習っていうより使命感でしてたからね」
俺 「あぁ、例のあの子?」
柚月から、昔から口癖だったのは、真田花音だ。
柚月「うん。あの人に追いつきたいっていう思いがほとんどだよ」
俺 「そんなにすごかったんだ」
俺は、プレーを間近で見たことがなかったから、なんとも言えなかった。
柚月「それは、凄いよ」
でも、柚月が高校3年生くらいに入ってから彼女の名前は聞かなくなった。
俺 「今は、どこの大学なの?」
疑問をぶつけてみた。
柚月「もう、いないよ」
俺 「えっ?」
口元に手を当てられているように、言葉が出てこなかった。




