8月25日 もどってきた
ここから、見る景色は久しぶりだ。体が動くといっても、まだ完全ではない。自分のことを考えながら自問自答を続けた。俺は、このままでいいのか?練習に行っていない間、ずっと考えていた。柚月からの問いに逃げ、傑にすがった。柚月や傑たちとバスケットボールをして、自分を変えようとした。バスケをしていなくても、全国クラスの柚月がいれば、対等に渡り合えた。でも、それはそんな気だけだった。終わってみれば、8対9で負けてしまう。最も悔しいのが、接戦で負けること。たかが、ミニバス。されどミニバス。せっかく、今の自分を変えるチャンスだったのにあっけなく終わってしまった。
俺の近くにいた傑は、いろいろ相談にのってくれた。俺の中のモヤモヤも少しずつ晴れようとしていた。傑は、俺を何か助けたくて動いてくれた。やっとのことで山本さんを紹介してくれた。でも、そんな想いに応えられない気がした。本気で働いてある山本さんを目に見ると、いかに自分が未熟者なのか痛感させられた。特に、仕事への熱量。あんだけ、暑い日の中にいると、普通、愚痴もはきたくなるだろう。でも、山本さんは愚痴一つ言わず、早く仕事をしたい、早くメロンを届けたい。そんな想いでいっぱいだった。
山本さんに出会えたのは、とても嬉しかった。世の中にこうして楽しそうに働いている人がいることを確認できた。でも、今の自分ではできない。そう思うと、出口のないトンネルから抜け出したが、別のトンネルに入っていただけのように感じてしまった。そう簡単に、このトンネルから抜けれるはずがないよな。大粒の汗をかきながら、ゆっくりとジョギングをしていた。
湊人が蹴ったボールが俺のところへ飛んでいく。俺は、ボールを右脚で軽く蹴った。でも、俺には結局これしかなかった。この前の春翔からへのダイレクトボレーシュート。あの日、これまでの自分が一掃された気分になってしまった。ずっと追い求めていたのはこれだったのかもしれない。敵だった外山や湊人がとても嬉しそうにしていたのがとても印象的だった。
今日から俺は、別メニューで練習に参加していた。この真夏日に、グラウンド10周は簡単ではない。外山や春翔がコーナーキックの練習をしている中、俺は黙々と走り続けた。でも、これまでとは違う何かが芽生えていた。もしかしたら、あのままいても、もしかしたら手に入っていなかったものなのかもしれない。苦しくて辛かった8月が終わりを迎えようとしていた。