8月1日 城南大学
今日も、いつものようにゴールネットが揺れていた。私は、サッカー部員がゴールネットに放つシュートを眺めていた。半年前に怪我をした右足は、今も完治していない。私が通う城南大学サッカー部は、全国大会14度出場の名門大学であった。
私は、高校の大会でスカウトがきて、スポーツ推薦で大学に入学した。一年生から試合に出場し、二年生では、全国大会で2ゴールをあげた。それなりに注目も浴びたこともあり、怪我はいい休憩になっている。
春翔「旭、ボールとって」
同学年の春翔は、私のところに来たボールを返すように伝えてきた。
私 「おぉ」
私は、ボールを右腕で投げ返した。
春翔「ありがとう。今日の話って何?」
今日は、部活終わりに春翔と話をする予定だった。
私 「あぁ。今、時間あるの?」
春翔「いいよ」
春翔は、受け取ったボールを持ちながら、近くにあったベンチに座った。
私 「実は、部活やめようと思ってることを伝えようと思って」
春翔「えっ‥‥」
私 「‥‥」
春翔「なんで?」
私 「いろいろあるけど、一番は、自分の限界がわかってモチベーションが上がらなくなったから」
春翔「辞めるのは、決定したの?」
俺は、春翔と少し距離をとって、ベンチに座った。
私 「いや、まだ決定してない。ただ、春翔には一番最初に言わないとと思って」
春翔「そっか‥‥。辞めてほしくないけど、旭の人生やから止めることはできないや」
私 「ありがとう。全国大会の初戦、春翔からのセンタリングでゴール決めた時は、本当に嬉しかったなぁ」
春翔「あれは、旭の大学入ってから一番よかったゴールやと思う」
俺と旭は、全国大会の時のことをふりかえっていた。
私 「もし、辞めたらあの光景は、二度と見られなくなるかぁ」
春翔「今後は、どういう感じで話し合うの?」
私 「明日、キャプテンと話し合って、家族と話し合って、最後監督に伝えて辞めるっていうことを考えてる」
春翔「もう、考えが変わることはないの?」
私 「たぶん‥‥。この選択がいいのかはわからない。むしろ、残って部活をやりきる方が就職活動にはいいと思う。でも、このモヤモヤした気持ちで後二年間プレーすることは、もっとしんどいと思って決めた」
春翔「そっか。」
春翔は、地面を見ながら、答えた。
私 「‥」
春翔「話変わるんだけど、湊人が旭のこと心配してたから、また声かけてあげてよ」
湊人とは、中田湊人のこと。同じサッカー部員で、よく連んでいた。しかし、怪我をしてから、あまり連まなくなっていた。
私 「‥うん」
春翔「じゃあ、俺、もう少しウエイトしてくるわ」
私 「おつかれ」
春翔は、練習終わりのウエイト場に今日も向かった。