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かぐやさんと讃岐さん

作者: 橙

10/1は中秋の名月でしたね。

見事な満月を見て、思い付きで書いてしまったものです。

『かぐや姫』の朗読の続きに、そのまま繋がっていくように書いた台本が元なので、文章だけ見るとリズムが変かもしれません。

『かぐや姫』の最後の一節のあと、かぐや、讃岐、と交互に話しています。


――「私は月へ帰らなければなりません。どうかいつまでもお元気で。さようなら」

かぐや姫は、月の使いとともに天にのぼっていきました。



……と。

なんだか、いろいろ盛られたり 端折られたりしていますが……。

なんなんでしょうね、このお話は。

讃岐さん? 讃岐さんはこのお話について、どう思いますか?



どうって……かぐや、お前の昔の話を、なんとか子どもに読み聞かせられるようにした物語だろう?



まあ、そうなんですが。

原作の一つ、竹取物語はある意味で黒歴史でしたけど、これはこれでシンプルすぎるというか。

平安時代の金持ちぼんぼんの五人のおバカさんたち、私は平安五馬鹿衆と呼んでいるんですが、その五馬鹿衆に 私が無茶ぶりした面白エピソードもちょっとだけ。

私が出会い系アプリのサクラばりの文通スキルで虜にした帝さんのことも、あんまり触れられていなかったり、お話によってはそもそもいないことになってたりするし。



あー、なんだ。お前、その頃から人をおもちゃにして遊んでたんだな。

なるほど、だから黒歴史か。



そうですよ、あの頃の私はやんちゃしてました。

そもそも翁さんがたくさんの武士を雇えるわけないでしょう。

第一次産業まっただなかのおじいさんが。

あ、これはお金の話じゃなくて、身分の話です。

あれは私の文通スキルで夢中になった帝さんが連れて来た衛兵です。

こっちにはそんな気はないのに、はしゃいじゃって。

しかも月の民にピカッてされてみんな戦意喪失、寝ちゃう始末ですよ。

徹夜麻雀明けかよ。

もっと気合い入れて私を守ろうとしろっつーの。



きっとみんな必死だったのにな。

クズ、お前はクズだな、息子よ。

てか、なんで男なんだよ。

竹のなかで見つけたときは絶対美少女だって思ったんだよ。

これが、昔話に出て来るかぐや姫か、って。

でも、連れ帰ってみるとこれだよ、男の娘なんだよ。

あ、今のは「おとこのむすめ」と書くやつな。



それですよ。

地球に送られるときは基本、女になるはずなのに、どうしてなんでしょうね。

きっと、この本を朗読する予定の人が男の声しか出せないからじゃないですかね。



うーん、メタ発言だな。

メタい、メタいぞ、かぐや。



はいはい、メタし、メタしー。



なんだ、それは。



「メタい」の古文調ですよ。メタし。

平安にかぶれてみました。

そうそう、私のことをクズと言いましたね。

それ、今回の親の讃岐さんが言うと、全部ブーメランですからね。



う、まあ、そうだな。

って……うん? ……そうか?

お前のクズっぷりは前からなんじゃないのか?

なんか話の流れで、膨大な時間をかけて熟成されたお前のクズな性格を、全部俺のせいにしようとしてないか?



ふっ……讃岐さんのような勘の良いおっさんは嫌いですよ。



んん、話を戻そう。

お前が竹取物語を黒歴史って言う理由は、具体的には何なんだ?

五馬鹿衆だったか、それと帝か。

そいつらにやんちゃしちまったことってのは?



あ、それ、聞いちゃいます?

五馬鹿衆にありえない宝物のリクエストした超面白話、聞きたいです?

讃岐さんがどうしてもと言うなら教えてあげようかなー。



うざいやつめ。

でもまあ、お前の黒歴史ってのは、正直聞いてみたいな。



うん、讃岐さんもなかなか性格悪いですよね。

好きですよ、そういうとこ。

えーと、どれから話しましょうか。

帝さんの話は、大した話じゃないです。

こっちで覚えた言葉で、どれだけ人をその気にさせられるのかなってやってみたら、思いのほか相手がはまっちゃっただけです。



かぐや、お前、サイコパスなこと言ってる自覚ある?

帝相手にそれやっちゃう?



覚えたことって、試したくなるじゃないですか。

で、色好みの五人、五馬鹿衆の話ですよ、面白いのは。

私が五馬鹿衆の求婚に対して、要求した宝物は五つ。

石作皇子さんには、仏の御石の鉢を。

車持皇子さんには、蓬莱の玉の枝を。

阿部御主人さんには、火鼠の裘を。

大伴御行さんには、竜の首の玉を。

石上麻呂さんには、燕が生んだ子安貝を。



パッとわからないものばかりなんだが、竜の首の玉は、そのまんまだよな。

マジで無茶ぶりしたのな。

その宝物って、いくつかはがんばれば手に入るものなのか。



あるわけないでしょ。

蓬莱の玉の枝なんていい例です。

これは「根が銀、茎が金、実が真珠で出来ている木の枝」。

盛りすぎ、厨二設定ですよ。

あとのものも、全部、この世にないものです。



全部、ない。



はい。

私がこの世に存在しないものをおねだりしたことから、「ないものねだり」という言葉が生まれました。



マジか。



嘘です。



嘘。



今のは嘘ですが、生まれた言葉はあります。

怪我までしながら燕の巣を探ったのに、目当ての貝が見つからなかったことから「かひなし」。

阿部さんがやり遂げられなかったことから「あへなし」という言葉が生まれました。

富士山のネーミングも、私の話が元ネタです。

えっへん。



ガチか。



ガチです。

そうですね、もしかしたら、仏の御石の鉢は実在するのかもしれませんが、とにかく、用意できた人はいませんでした。

なぞなぞみたいに、とんちをきかせたものを持ってくれば、それはそれで楽しめたのですが、そこまで気の利いた人もいませんでしたね。



うちのかぐやが、なんかすいませんでした。



そのときの親は翁さん夫婦でしたから、讃岐さんに非はありませんよ。



お前の業を高齢者のせいにするな。



変に凝った振り方をしようとしたもんだから、あとあと面倒くさいことになっちゃって。

挙句の果てに言葉まで生まれちゃったせいで、「ちょっと今のとこなしで」って思っても、動画的にカットできません、あとの祭りみたいな。

いやはや、その場のノリというのは恐ろしい。



どうしてそんな面倒くさい振り方をしようと思ったんだ?



あのときは自分でも恥ずかしいくらいにテンション上がっちゃってましてね。

初めてこの星に来たわけですし、なんか地球人にもモテモテだし。



こいつ、今さりげなく地球人「にも」って言ったな。

向こうでもモテてたってことかよ。



それは、もう。

私が地球に送られたのも、それが原因ですし。



は? どういうことだよ。



あのときの月の王の求婚を断っちゃったんですよね。

なんか、生理的に無理で。

そしたら、罪人扱いですよ。

罪人は月から追放だ、地球で罪を贖えーみたいな騒ぎになっちゃって、参った参った。



いや、ノリが軽いよ。

大事じゃないか。



で、あれよあれよという間に地球送り。

でも、来てみると、住めば都って言うんですか、結構いいところじゃないですか、この星も。

翁さんもおばあさんも、周りの人もみんな、傾国の美女だってチヤホヤしてくれるし。

承認欲求満たされまくりでしたよ、私は。



やはりクズだな、こいつ。

で、今度は月に帰りたくなかったのに、無理矢理に連れ帰られてしまったってことか。



まあ、モテますからね、私。

わざわざ月の王が迎えに来てましたから、無下にすると周りに迷惑がかかるかもしれないと思いました。

月に戻ってからは、また月の王からの求婚ラッシュですよ。

こっちとしては、また地球に送られてもいいやという気持ちで断り続けていたんですが、そこは敵もさるもの。

なかなか根気強くて、千年くらい断り続けても一向に折れる気配なし。

遂にこっちが沸点超えちゃって、月の王の【バキューン】を【ドカーン】して【卍固め】してしまいました。



おう、男にしかわからん痛みが……。

お前ら女ってやつは。……いや、今は男か。

いいか、あそこは外部パーツじゃないの、内臓なの。

ふむ、それにしても千年もプロポーズし続けるとか。

不死の人たちは、スケールが違うねえ。

普通、何年か振られたら諦めるだろ。



そこは、地球人とは時間の感覚が違うとしか言えませんね。

で、私が月の王の【ダダダダダ】を【シャキーン】して【四の字固め】したおかげで、讃岐さんは私の親になることができたわけです。

もっと感謝してくれてもいいんですよ。



いや、お前、もうなんかすごいよ。

だんだん尊敬しちゃいそうになるよ。



ね、どんな気持ち?

美少女だと思ってお持ち帰りしたら、実は男だったってわかったときの気持ちは。

女の子だったらよかったのにね。



女の子だったら、か。

そうだな。

もしかしたら、俺も入れ込んでたかもしれんな。



ですよね。

もう、ゾッコンだったと思いますよ。

三ヶ月くらいで大人になるんです。

条例的にちょっとヤバい年齢のときに手を出しちゃっても、すぐに見た目は大人ですよ。

一瞬で時効ですよ。

合法ロリキタコレ、ですよ。



生後三ヶ月じゃあ、時効じゃないと思うが。

まあ、でも、男だったわけだし、俺もお前を子どもとしてしか見れなくなってるし。

もしかしたら、女だったとしても、変わらなかったかもな。



……ねえ、讃岐さん、どうして私を育てようと思ったんですか?

幼児をほっとけなかったんだとしても、この時代なら預ける施設もあるはずでしょう。

平安の世なら、子どものまま放り出されると生きていけませんから、贖罪が認められるまでの間、月の民からの金銭的なフォローもありました。

物語にある、竹を切ったら黄金が出るあれです。

でも、今回は金銭的なフォローはなかった。

この時代、この国くらいの福祉であれば、なんとか生きるくらいはできるからです。

まあ、私は急成長するのですぐにトラブルが起きるでしょうけど。

どうして、私の世話をしてくれたんですか?



なんでだろうな。

俺もこの年だし、子どもの一人くらいほしかったっていうのが、正直な理由かもな。

なんだかんだ言って、俺はお前に感謝してるんだ。

定職に就かずに、親の遺産を食い潰しながら生きてた俺が、竹細工をフリマで売っては購入者とトラブってた俺がだぞ、今じゃ、ちゃんとサラリーマンしてる。

そうだ、今度、なんか役職くれるらしいぞ。



やりましたね、讃岐さん。

おめでとうございます。

私のお小遣い上がります?



いや、すぐに金の話かよ。

愛が冷めた熟年夫婦かよ。



ふふふ。

あ……月が。



十五夜の今日、月の王様がお前を迎えに来る、か。

……なあ、かぐや。

お前、月に帰りたいか?



なんですか、子離れできない父親ですか。

……仕方、ありませんね。

讃岐さんがそこまで言うなら、もうちょっと、こっちで暮らしても、いいですよ?



いや、まだ何も言ってないんだが。

そっか。

よし、じゃあ、月の王様に、かぐやがあと少しこっちに残ってもいいかって、聞いてみるとするか。



……無理はしなくてもいいんですよ?



無理なんかじゃない。

かぐやにはもう少しこっちに残ってほしい。

俺の素直な気持ちだ。

たまには俺にも親父ムーブさせろ。

お前さ、こっちに残れたら、なんかやりたいことないのか?



そうですね。

讃岐さんの稼ぎだけでは不安ですから、不労所得を得るべくユーチューバーにでもなりましょうか。

この見た目です。

きっと中身のないスカスカなライブ配信やってても、赤チャットとか飛んでくるに決まってます。



お前は人がATMに見えてるのかな。

あと日々弛まぬ努力をしている配信者の皆さんに謝れ。

ていうか、迎えが何時頃に来るとか、わかるのか?



その辺はアバウトですが、月が出ましたから、もうすぐでしょう。



そんなにさっと来れるのかよ。

えっと、かなり距離があったはずだよな。



38万4千キロです。

月に不法侵入したアポロ11号は百時間ほどかかったそうですね。

でも、問題ありません。

地球人にとっては月まで行くのは大した事かもしれませんが、月の民は地球に来ることに慣れていますから。

ちょっと一瞬コンビニ行ってくるわ的なノリです。



軽いな。

月の王様か。どんな奴なんだろうな。

勢いで取っ組み合いとかになったらどうしよう。

月の王様ってやっぱり偉い人だろ?

無礼打ちで殺されたり、しないかな。



大丈夫です。

親が子を想う気持ちをストレートにぶつけたら、きっと月の王もわかってくれるはずです。

月の王、化け物ですが。



そうだな、情に訴えてみるかって今不穏な単語が聞こえたな。

化け物って言ったよな。

え、何それ、お前も向こうじゃ化け物なの?



ふふふ、だったらどうします?



まあ、今さらだよな。

お前が向こうでどんな見た目をしてても、お前は俺の子どもだ。



触手が無数に生えてます。



うん、いや、ちょっと待て。

やっぱり、ものによるな。



鮮やかな手のひら返しです。

この親にしてこの子ありですね。



なんか、ちょっと熱が醒めてきた。

月の王様に会うのが不安になってきたぞ。



だから大丈夫ですって。

親が子のために闘う、みたいな胸熱展開、この本書いてる人が台無しにするはずないですから。



わ、またメタ発言だよ。

でも、心配しても仕方ない。

今回は、お前のメタ発言を信じてみようかな。

はーあ。

メタし、メタし。



がんばって、お父さん。



あ? 今、なんか言ったか?



この創作がまとまってよかったですね、って言ったんです。



またかよ。

メタいよ。



はいはい、メタし、メタしー。

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