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【書籍化&コミカライズ】失格聖女の下克上~左遷先の悪魔な神父様になぜか溺愛されています~(web版)  作者: 紗雪ロカ
本編

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カミル村のハヤサカさん

「……は」


 笑顔のまま凍り付いたヒナコは固い動きで振り返る。その視線を無視してネリネは資料のページをめくるよう促した。


「十三ページをご覧下さい。ここからはソフィアリリーの件とは別になりますが、ヒナコさんの正体について非常に重要な話になります。首都ミュゼルから馬車で半日ほど北西に走らせたところに一つの村があります。名をカミル村。ヒナコさんご存知ですよね?」

「……知らない」


 しらを切るヒナコに構わず彼女の過去を暴いていく。恐らくは隠したいであろう過去を。


「クラウス神父が直接行って証言を得て来ました。聖女に擁立されるより以前、ヒナコさんとおぼしき女性がこの村の宿屋で働いていたそうです。その女性はある日突然ふらりと現れ、何でもするので働かせて欲しいと言った」

「……」


 二週間というわずかな時間でクラウスが調べてきてくれた情報だ。ホーセン村のうわさ好きのおかみたちから得た情報らしいのだが、追って行けば真実にたどり着く事もある。彼女たちと友好関係を築いていた悪魔に感謝しつつ続ける。


「その宿の酒場では、女性がお酒を呑んで接待することもあったそうで、ヒナコさんによく似たその人は見目の良さからとても人気があったそうです。そして視察で訪れたジーク王子ととても親密な関係になっていたとか……。時期はジルが亡くなってから数週間後、王子の公務履歴とも合致します」

「知らない、知らないですそんな村……」

「そこでは『ハヤサカ』と名乗っていたそうですね。表立っては公表されていない貴女のファミリーネームでしょうか? 教皇様」


 そこまでつらつらと読み上げていたネリネは教皇を見上げて意見を求める。落ち着き払った彼はヒナコに問いかけた。


「確かに。そなたのフルネームはヒナコ・ハヤサカであったな。どういうことだ? 異世界からやってきて落とされたのは別の街だったと聞いているが」


 沈黙が降りる。しばらく目を見開いて立ち尽くしていたヒナコだったが、息を呑んだ彼女は急に泣き崩れた。口を押えて涙を流しながら釈明する。


「っ、ごめんなさい。ヒナ、嘘ついてました。この世界に飛ばされてすぐの頃、確かに私はカミル村の近くに落ちました。まだその時は記憶もぼんやりしていて、ゆく当ても頼れる人もいなくて死にそうだったんです。そんな時、宿の親切なご夫婦に拾って頂きました。その恩返しの意味も込めて働かせてもらっていたのですが……」


 ここで顔を上げたヒナコは両手を胸の前で握りしめた。


「でも、でもっ、信じて下さい! みなさんが思っているような卑しい仕事はしていません! お酒を飲んでお客さんと少しおしゃべりをしただけですっ。その後、王子と出会って前世のジルの記憶を思い出して……。でも聖女としての地位についた時、そんな水商売やっていただなんて知られたらジーク王子の名にキズが付くんじゃないかって怖かったんです! 世間の目が怖くて……ずっと言い出せなかったっ! 生きていく為には仕方なかったんです!」


 顔を覆ってわっと泣き出したヒナコに同情の目が集まる。だが、ネリネはまたしてもその流れを断ち切った。


「ところでその宿屋ですが、ヒナコさんが礼も言わずに忽然と姿を消した後、火の手があがり全焼したそうです」


 聖堂中が――そして当の本人であるヒナコでさえもギョッとしたように固まる。淡々と報告するネリネはさらに追い打ちをかけた。


「宿で働いていた従業員は一人残らず焼死。……ですが、村人の証言では焼け跡から出てきた遺体に不自然な点があったそうです。鋭利な刃物で背中から切られたような痕があったとか」

「……」


 冷え冷えとした空気が流れ、人々の視線がヒナコと王子に集まる。シンとした静寂の中、スッと目を細めたネリネはとどめを刺した。


「口封じ、したんじゃないですか?」


 ざわつく空気の中、ヒナコは急に絶叫し始めた。


「いやぁぁっ! なんで!? あんなに優しい人たちだったのにっ、どうしてぇ!?」


 滂沱するヒナコだったが、向けられる人々の視線は裁判が始まった当初より疑惑の色が濃くなっていた。


 ひたすら感情論をふりかざすだけのヒナコと、淡々と事実を挙げていくネリネ。その対比は着実に裁判の流れを変え始めていた。


 その時、ネリネは傍聴席の片隅にある人影を見つけた。表情を引き締めると喚き続けるヒナコを見上げる。彼女はどこかの盗賊に罪を押し付けようと必死だった。


「そんなこと王子がするわけないじゃないですか! 物取りの可能性は? 金品とか無くなっていたんじゃないですか!?」

「ヒナコさん。これだけの証言があって、あなたはまだ自分が聖女だと言い張るんですか?」


 言い張るという発言にカッと来たのか、ヒナコは手すりから乗り出し大声を張り上げた。


「いい加減にして! ヒナに聖女の資格がないって……あなたがみんなにそう思い込ませたいだけでしょう! 自分が聖女じゃなくなったからって根拠のない憶測ばっかり!」

「あなたに資格が無いのは事実でしょう。先代聖女が亡くなった直後に生まれたジル――の、そのまた異世界での生まれ変わりだって言ってましたけど、完全になりすましですよね?」


 ヒナコは完全に頭に血が昇っていたらしい、胸を張って手を広げると堂々と答えた。


「いいえ、神に誓ってヒナは正真正銘ジルの生まれ変わりです! 最近はどんどん前世の記憶も蘇ってきてるのっ。もういい、本当は黙って居ようと思ったけど言わせて貰うから! あなた本当に昔からネチネチ画策するのが得意で、私が身投げしたあの夜だって――」

「残念です」

「はぁっ!?」


 嘘を嘘で塗り固めたヒナコの仮面がついに剥がれる時が来た。教皇に向き直ったネリネは真剣な顔で許可を求める。


「教皇様、証人を一名、この場に召喚してもよろしいでしょうか?」

「それは今回の件に関係する方ですか?」

「もちろん」


 力強く頷いたネリネに、教皇はさほど間を置かず答える。


「許可します」


 ネリネは傍聴席に振り返り、先ほど見つけた人物をまっすぐに見つめる。観衆がつられてそちらを見るとそこには白いフードを目深にかぶった人物がいた。入り口付近の柱の影に隠れるようにしてこちらを伺っている。華奢なシルエットから察するに女性か子供のようだ。


「っ……!」


 謎の人物は向けられた視線の圧にビクッと跳ねた。そして助けを求めるようにうろたえて左右を見回す。今にも逃げ出してしまいそうな証人に向かってネリネは呼びかけた。


「こちらに来て証言して下さいますか?」


 それでも迷っているのかフードの人物は動かない。ネリネは精いっぱい声をやわらげ説得する。


「大丈夫、真実を打ち明ければあなたを咎める者など誰も居ません。仮にそんな奴が居たとしても、わたしが蹴散らしてやります」


 久方ぶりの再会に、ネリネの胸は嬉しさではち切れんばかりに膨らんでいた。軽く微笑み言葉をそっと息に乗せる。


「わたしも怒ってなんかいないです。ずっとあなたに会いたかった……」


 どれだけの時間が流れただろうか。覚悟を決めたらしいフードの人物は柱から離れこちらに歩いてくる。ネリネが居る証言台に乗ると二人は軽く抱擁を交わした。謎の人物はそこでようやくフードに手を掛けそっと外す。艶のないしなびた金髪と、哀れなほど痩せこけた横顔が現れた瞬間、聖堂はざわめいた。

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