黒金
ちょうど2年前、ある男がこの仕事を始めて一年も経っていない内のコトだった。
当時は今ほど手広くやっておらず、何も考えずに詐欺紛いの商品を購入するようなカモや情報弱者の個人情報を纏めた「顧客リスト」を作っては売って彼は小銭を稼ぐ日々を送っていた。
案外こういう輩は沢山居て、一人一人の報酬もそれなりに高い。彼のビジネスは軌道に乗りつつあるように思われた。
顧客リストの一部を盗む奴が、俗に呼ばれるハッカーが現れるまでは。
顧客リストの中身を"未購入者"に知られるのは黒金からすると非常に困る事というのは言うまでもない。情報はモノとは違い当人が知っているか否かだ。売り払っても手元に残るので尚更だろう。
とは言えど、何者かに知られたのは履歴によれば確かだ。ものの何処かに漏れたと言う様子もない。向こうに敵意は無いのだろうか。彼は覗かれたデータの在り処に相手の意図を尋ねるテキストデータを残して暫くの間、様子見をすることにした。
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20XX/06/14 20:21
データを盗んだ様だが、中身を売る気は無い様に思える、目的は?
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翌朝、彼が確かめると既にテキストデータは書き換えられていたようで、そこには犯人からのメッセージが残されていた。
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20XX/06/15 04:51
入れたから入っただけ、目的なんかないよ
脆弱なサーバー使ってんのが悪いの
このデータはそんなに大事なモノなの?
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彼はため息を漏らし、そして閃いた。『コイツを仲間にできやしないか』と。そうして彼はまたメッセージを書くことにした。
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20XX/06/15 09:32
そのデータは確かに大事だけど、所詮は一部。そんなに損失はない。
それより君の力を見込んで相談がある。
俺と"ビジネス"をやらないか。
ツテとコネなら有る。
報酬はもちろん弾む。話がしたい。
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メッセージは5分しない内に書き換えられた。
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20XX/06/15 09:34
良いよ、乗った。
実際に会って話した方が早いよね。
君もお巡りサンとは関わりたくないのは大体察したし、コチラを突き出す様なマネはしないだろうし
3日後の昼に彩葉駅前の喫茶・会議室で待ち合わせ。
ラップトップ持ってくからきっと一目で分かるよ
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20XX/06/15 09:36
そんな公の場で話し合って問題ないのか?
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20XX/06/15 09:37
平気平気。
じゃあ、待ってるから。
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彩葉駅は彼の住む町にある駅だ。そこをいきなり指定してくるのは彼にとって甚だ恐怖であった。こんな相手に片足を踏み入れても良かったのか。けれども背に腹は変えられない。後悔しても遅いので、彼は今日の分に関しては一先ず仕事に戻ることにした。
完成した部分から少しずつ掲載していきます。
多分一気に読むなら章ごとに読んだ方が良いかもしれないです。
ヒロイン(?)の火曜は多分そろそろ出てきます。