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打倒!広辞苑  作者: ぶるうす恩田
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お題:うめこんじょう【梅根性】 執拗でいったん思い込んだら変えがたい性質。

 仁丹じんたんという、今だとフリスクに似た錠剤型の菓子が復活している。

 タバコの後などに口に含むフリスクの場合ミント味のものが多いが、仁丹は梅味のものが昔から人気があり形も球状である。

 なかでも『梅根性うめこんじょう』という商品名の仁丹は、並外れた酸味があり目が覚めるという評判があった。


 ツカサは高校生の時から女の子には不自由しなかった。

 それなりに可愛い子が言い寄ってくるので断る理由もなく付き合った。がすぐに怒られ別れることが多かった。

 二、三回デートをすると、だいだい女の子のことは性格も体もわかってしまい、それ以降深く知ろうという気持ちがなくなってしまうのだ。

 デート中に並んで歩いているすぐ横の彼女よりも、街を行き交うもっと可愛い子に興味がいってしまう。それも隠さずあからさまなのでほっぺたをひっぱたかれて別れ話になるということが少なくない。

 一人の女性と一生一緒にという気持ちはあるのだけれど毎回失敗する。だからツカサは都市伝説を試してみることにした。


 梅根性という仁丹を一度に十粒以上飲むことで、決定した意思を永く貫くことができるという迷信である。


 はじめは勉強に集中したい受験生の間で噂となり、志望大学へ合格する者が続出した。打たれ弱いプロ野球の投手も自身のストレートに自信を持ち投げ続けることで勝利を積み重ねていった。長時間運転するトラックドライバーやパイロットの間でも常用されはじめた。


 科学的根拠に基づかない都市伝説が拡散することを懸念した厚労省は、麻薬的な常習性があるということで梅根性の引用を控えるように国民に告知した。が、錠剤の成分からはなんら怪しい成分は検出できず法的に禁止することはできなかった。

 ただ仁丹には致命的な副作用があり、自分で決定した意思を変更することができなくなるのというものだ。

 仁丹の効果が切れるまでプロ野球の投手はストレートだけを投げ続け、変化球を全く投げないので打たれまくるようになり敗北した。ジャンケンをすればグーのみ出し続けそれを相手に知られてしまえば100パーセント負けることになる。


 就職して三年たったツカサは、同僚の女の子と結婚することを決めた。

 気持ちが揺らがぬようにツカサは梅根性を十粒飲んだ。これで少なくとも十年はこの子を愛し続けることができるはずだ。この子を選んだのは優しさと性格からだ。

 ある日すこしボケて徘徊していたツカサの祖父のオムツと汚物をこともなげに交換して寝かしつけた。いとこの赤ちゃん相手に慣れているとは言っていたが赤ん坊と老人では大違いである。今まで顔とおっぱいだけで交際相手を決めていたツカサの心はクラッと折れた。


 その婚約話を聞きつけて怒ったのは、かつて付き合っていた女の子たちであった。

 どうして自分よりスタイルも顔も良くない子なんかと結婚するのかと自宅に乗り込んでくるのだ。SNSであることないこと書きたててなんとか離婚させようという鉄の意思を感じる。それは恐怖にも近い恐喝だ。おそらく彼女たちも梅根性を飲んで意地になっているに違いない。

 結婚五年目になっても彼女たちの攻撃はやまない。子供も生まれて通常なら幸せな家庭生活のはずがギスギスしている。妻も子も愛しているという気持ちは以前変わらないのだが。


 やがて仁丹の製造メーカーは梅根性の副作用の強さを認め謝罪し自主回収した。

 しかし一度飲んだ仁丹の効果は永く切れることがないので、代わりに『柿根性』という渋い味の仁丹を発売した。こちらは一度に大量に服用すると心変わりしやすくなるという効能がある。『梅根性』の効果を相殺できるとのことだった。


 早速『柿根性』を飲んだツカサは、直後に離婚し七十歳になる今も一人暮らしで若い女の子をとっかえひっかえ遊んでいるということだ。


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