表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
打倒!広辞苑  作者: ぶるうす恩田
1/37

お題:にのほ【丹の穂】 赤い色の目立つこと。赤くおもてにあらわれること。

 豪胆無比、一瀉千里いっしゃせんり。今、一人の泥棒が世間を賑わせている。『仕事』のあとには真っ赤なキスマークを残していくことから、怪盗・丹ノ穂(にのほ)とあだ名されている。大衆はその『仕事』に喝采し共感し次々にフォロワーが登場し、世の中は真っ赤なキスマークが溢れ出した。勝手にブランドを作ってその色の口紅を発売するベンチャー会社まで現れる始末である。


 最初の『仕事』はまさに華麗であった。ときの総理大臣を偽の災害報道で呼び出し、その緊急ヘリにパイロットとして同席し捕縛。2000万円の身代金を要求し見事掠め取った。

 最も高地である長野県西部ヘリポートでの身代金の交換成功からヘリでの離脱。緊急発進した自衛隊機の猛追とミサイルからも、あっさりパラシュート降下で脱出。降下付近の琵琶湖周辺を18日間捜索したが、結局犯人は見つからず現在も歴史に残る未解決事件として記憶されている。捕獲されたヘリのフロントウィンドウと総理大臣の首筋には、細く真っ赤なキスマークが残されていた。


 次に怪盗・丹ノ穂が盗んだものはUSJのスーパーマリオアトラクションにある、巨大コインとゴールのポールに付いている旗だった。そのポールにはまたもや真っ赤なキスマークが残っており、利益目的ではないエンターテイメント心のある怪盗の『仕事』に人々は共感し熱狂した。

 この頃から丹ノ穂の真似事をする輩が増えだし、コンビニでの万引き後にキスマークをつけたり、恋人同士で互いの心を奪った印にキスマークをつけあったりドラマやCMでもキスマークが日常的に登場することが多くなった。


 口紋こうもんといい、指紋と同じように全ての人間には唇にも異なるヒダのようなシワがある。最新の技術ではこれを暗証番号の代わりとし、スマートホンや自宅扉の生体認証に使用する例も生まれている。有名女優がスマホの画面にキスをしてホーム画面を開くCMが流されるほどである。

 警察はこの口紋とキスマークから採取した唾液のDNAを手がかりに犯人を追い続けたが、獏として怪盗を見つけることができなかった。


 丹ノ穂はあらゆるものを盗んだが、大地震と津波で廃棄施設となった原子力発電所からは、放射性廃棄物が全て消え去った。建物には大きなキスマークがあった。周辺施設や県内の土壌にある放射性物質も皆無となった。これが怪盗・丹ノ穂の仕業であるならば、彼女はただの営利目的や愉快犯ではないのではないかという憶測が飛び交った。


 「あなたのお金を借りるわね」


 怪盗・丹ノ穂から動画共有サイトにそんなメッセージが流された。その直後、全国民の口座から1円が盗み出された。個人個人にとっては少額であったので笑って済ますことはできたが、銀行側は驚愕した。1円を盗めるということは誰からでもいくらでも盗めるということだからである。試算では盗難金額はおよそ1億円以上となると見られた。

 しかしわずか一週間後、今度はその1円が2円となり全国民に振り込まれ返金された。投資で倍にして戻したのだという。この事件でまた世間は喝采した。


 「すごろくを振り出しに戻します」


 この意味がわかったのはすぐであった。

 21世紀、加熱した資本主義・自由主義経済の結果、富は一部の富裕層と企業にのみ集中し多くの国民は貧困にあえいでいる状態であった。その状況を打開する一手が資本の再分配であった。

 怪盗・丹ノ穂は日本のデジタルな資産をハッキングで奪い、札束は直接金庫から盗み出しそれを一瞬で全国民に均等に再分配した。一握りの金持ちは多くの金を失ったが大半の民衆は豊かになった。

 政府は、この分配事件によって各個人が得た金銭は無効でありただちに日本銀行に返還するようにと要請し、新紙幣の発行準備をすすめた。が、無効になる前の旧紙幣を国民は使いまくり経済効果は著しくあがり税収で政府の懐も潤ってしまうという好転状況となっっていた。


 さらに怪盗は、一ヶ月後、これを日本だけでなく全世界を対象に行い、ドルを奪いアフリカやアジアに分け与えた。世界の富の再分配である。これは単純に人口が多い国が多くを得ることになる。

 新しい全世界共通の通貨はゴールドとされた。飢えて死ぬ者、病気で医者にかかれない者は皆無となった。世界の多くの人びとが怪盗・丹ノ穂を新時代の神とあがめ心酔した。


 この状況を許すことはできないと攻撃にかかったのは、お金を失った白人とグローバル企業であった。が、今度は世界から全ての武器や爆弾・その製造工場や原材料が消えた。彼女を捉え殺害することは不可能になった。最後に宗教が消えた。戦争はなくなりテロは収まり平和な世界が訪れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ