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ムライマー物語  作者: 優菊 椿
第一章 学園生活
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第四話「体育祭前日譚」

「——は、何で世界に嫌われてるの?」


「うーん。それは説明しづらいな。僕が——だからとしか言いようがない」


「なにそれ! 変なの」


 理由のない理不尽があるってことを、その時の僕は知らなかったんだ。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・ー

 初任務から一か月。あれから僕はいろいろな任務を経て、生徒との絆を深めていった。鏖忌やアンジュをはじめに、生徒と仲良くなれた……のだが、どうしても懐いてくれない生徒が2人いる。ユハと龍夜だ。優璃の鶴の一声で名前呼びは許されたのだが、プライベートに関しては一切隙を見せない。

 この異常な警戒心は過去が関係していると思うのだが、誰も口を割ろうとしない。

 ……いや、当然か。仲間の過去をポンポン部外者に話すわけがない。


「いやー。話さないんじゃなくて話せないんすよ。知らないから」


「そうなのか? お前ら仲いいし、信頼しあってるから知ってるものだと思ってた」


「自分の過去なんて話す機会ないしなぁ……。なぁ、アンジュ」


「そうですね。ですが、優璃さんなら知っているのではないでしょうか。私も優璃さんに色々な相談事をしてますから」


「あ、そっか。優璃なら知ってるかも。……てか、先生口調崩れすぎじゃない?」


「今更か?!」


 任務の時に散々無様を晒してるんだ。今更かっこつけるのはハズイ。

 ……そういえば、もうじき体育祭だったか。僕、ムライマーの教師やってるせいでカメリア先生以外の教師から遠巻きにされてるんだよな。……泣いてなんかないぞ!


「もうじき体育祭だけど……ここ、なんか特別なことすんのか?」


「特別なことっていうか~毎年、応援旗を新調するってレベルかな」


「応援旗?去年はどんなだったんだ?」


「こんなん」


 そう言ってロッカーからずるずると出してきたのは僕が思ったより大きな旗。書かれていたのは青い宝石に龍と花?青い宝石を守るように龍が巻き付けられて、その周りを色々な花が囲っている。


「なんだこれ……バラバラじゃないか」


「そう思うだろ?この青い宝石は瑠璃。優璃のことな。名前の意味が優しい瑠璃の子らしいから。龍はまんま龍夜のことな。このクラスの中心はこの二人だから大々的に。他の花は俺らの誕生花?って言われてるのを散りばめたって」


「とはいっても、誕生花は地域によって違ったりしますから、優璃さんの知識の中で、ですけど。私はこれです。マツバギク。かわいいですよね」


「俺はこれ! ザクロの花。マツリはこれ。グロキシニア」


 龍の周りを囲う花々はかわいらしいのに、どことなく棘を感じるあたりこのクラスらしさが出ていると思う。

 なるほど。説明を踏まえてみれば中々どうして、このクラスらしい旗だ。今年はどんな旗になるだろうか。


「今年は~先生がいるからぁ、だいぶ変わるかもねぇ」


「……え? 僕?」


「当たり前じゃん!先生はわかんないかもしれないけど、任務についてきてここまで保つ先生は初めてなんだよ!なぁ、マツリ」


「うん……先生はすごい、です」


「そ、そうか……」


 そう褒められると照れてしまう。世辞とわかっててもだ。


「ふん! 優璃が多少認めてるからって調子に乗るなよ」


「くだらない、応援旗なんて毎年のことだろう。いまさら何を盛り上がることがある」


「わかってねぇな、ユハ。こーいうので盛り上がらねぇとつまんねぇじゃん。折角この時期は仕事パスしてんだからさ」


 そういえば、先日優璃が言っていたな。


『暫くお休みなので、これを機にゆっくりしてくださいね、先生』


 ゆっくりって言ってもな……今までの怒涛の展開が印象に残りすぎて、今更ゆっくりなんてできない。……あれ、任務がないなら今日から空き時間は何するんだ?


「何もしませんよ。しいて言うなら応援旗作りです」


「ああ、そうなのか。……? 僕、口に出てたか?」


「顔に書いてありましたよ」


 人、それを読心という。恐ろしい……齢18で心を読めるなんて。他にもいたりするんだろうか。


「ユハくんとアンジュさんはできますよ。鏖忌くんもやろうと思えばできると思います」


 何でそんな人数の人間が人の心を読むことに長けてんだよ……。いや、それより。


「せっかく休みなら、授業やらないか?体育祭が終わったらテストだろう?」


 僕がそう言った瞬間、クラス中がいったん静まり返り……少しして、鏖忌の笑い声が教室中に響き渡った。よく見れば、皆唖然とした顔をしている。


「あっははははは! 授業! 先生マジで面白いね! 今までこのクラスでまともな授業しようなんて奴いなかったよ!」


「私は賛成です。このクラスには赤点常習者がいますからね。……君のことですよ、ユハくん。わかってますか?」


「……僕か」


 ユハがか。意外だな。龍夜あたり成績低いかと思ったが。


「顔にでてんぞ、クソ教師」


 なんのことやら、わからないな。


「龍夜くんは優璃さんの足を引っ張らないよう必死ですから」


 ほう……優璃の為か。まぁ、らしいと言っちゃらしいのかもしれん。


「マツリもあんまり成績よくないもんな。頑張ろうぜ」


「う、うん。勉強は苦手だけど……鏖忌くんが言うなら……」


 お前もか……。えっと、他の奴らは……。


「えっと、神座さんは学年トップ。オルレアンさんも同じくらい成績がいいです。悪喰くんと長内くんは平均ぐらい、リーベさんは、平均ちょっと下……ですね」


「ああ、ありがとうございます。カメリア先生。……カメリア先生?! いつの間に!」


 いつの間にか隣にいたカメリア先生に驚いて僕は椅子から落ちた。ダサい。とてもダサい。


「副担任なのに全然役に立ててないから……今田先生に必要とされたくて、つい」


「結界、越えてきたんですか?愛の力ってすごいなぁ」


 結界なんて張ってるのか。まぁ、盗み聞きされたら困るもんな。……それを超えてくるカメリア先生って何者?


「結界……? それのせいで今までクラスにたどり着けなかったんですか? たどり着けても誰もいないし……」


「はい。認識疎外の結界を張ってるはずなんですけど……まぁ、これからはカメリア先生も問題なく入れるようにしておきますね」


「まぁ!ありがとう、神座さん」


 最終的に、僕を置いて女子トークを始めて、今日が終わった。しれっと女子トークに参加していた鏖忌は何なんだろうか。



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