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ムライマー物語  作者: 優菊 椿
第一章 学園生活
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第三話「初任務」

「——は、なんでずっとここにいるの?」


「僕は世界の嫌われ者だからね。ここに閉じ込められているんだよ」


「えー! そんなの寂しいよ。……わかった! 僕が——をここから連れ出してあげる」


「ふふ……楽しみにしているよ」


叶うことのない約束。それでも、僕は……


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 マーレ村に到着。周りを見回してみれば、それなりに賑わっている村だと分かった。どうやら漁業で成り立っている村らしい。店には魚が多く置かれていたし、沖にはたくさんの船が置いてあった。

 気になることと言えば、子供が少ない……いや、いないことだろうか。家の中に入るみたいけども……外に出ている子供が一人もいない。これは異常だ。件の悪魔が関係しているのだろうか。


「着きました。村長さんのお宅です。……ごめんください。ムスターヴェルクの者です」


「えっ……あっ、はい。遠路はるばるご苦労様です。どうぞ中へ」

 村長らしき人、明らかに子供の面々を見て、驚いた顔してたな。そりゃそうだよな。僕だってそうなる。


「……」


 ?……一瞬。本当に一瞬。神座の顔が、とても冷たいものに、なった、気がした。




「では、改めて……このマーレ村の村長をしています。マレーア・ポルトという者です。この度は遠方からはるばるありがとうございます。」


「ご丁寧にありがとうございます。我々は東西両国建立ムスターヴェルク学園所属、特殊部隊ムライマーの者です。我々のことは国家機密ですので、どうかご内密に。それで、悪魔が出たとのことですが……」


「はい……10日前、四肢を引きちぎられた、傷だらけの子供の遺体が見つかりました。その時は魔物の仕業だと思ったのです。しかし、同じ状態の遺体が2人見つかりました。しかも2人とも子供。これはおかしい。そう思って、緊急の連絡を送ったのですが……」


 何で子供が。なんて聞こえてきそうな不自然な沈黙に神座はにっこりとした笑顔で応える。堂々とした態度からはこれくらいの、慣れていることが読み取れる……気がする。


「あえて、です」


「は……?」


「我々がこの依頼に対応することになったのはあえてなのです。どうやら敵は子供しか狙わないようですし、それでなくとも、子供っていうのは油断を誘いやすいんですよ」


「は、はぁ……」


「3日。3日です。3日以内にその悪魔、殺して差し上げましょう」




 あんな約束してよかったのだろうか。プロの傭兵団でも悪魔の盗伐には1週間かかるといわれているのに。それを3日だなんて……


「3日もいらねぇだろ。今日だけで十分だ」


「……え?」


 今、とんでもないことが聞こえた気がする。


「まぁ、あれだけ挑発したんだから、囮置いとけば今日中に襲ってくるとは思うけど……念のため、ね?」


  え? え? ちょっと待って?


「どういう、ことだ?」


「? ……ああ。えと、悪魔はあの村長です。悪魔が村長に化けてるんです」


「なんで、わかる?」

 悪魔が人間に化けていたとして、それがわかるなんて聞いたことがない。


「気配が違います。醜悪で、低能な悪魔の気配。少なくとも人間の気配ではない」


「そう、か……」

 

 守るべき生徒が、守られるべき子供が、こんな……悪魔の気配がわかるほどに悪魔と対峙したなんて……信じたくない。僕はもう倒れても許されるんじゃないんだろうか。


「とりあえず、宿屋で休んで……夜に動き出しましょう。場所は墓場で。村から離れているそうですから」


「囮は今回も俺でいいな?……よし、行こうぜ」




 長内が先行し、そのだいぶ後ろを隠れながら僕たちも続いている。周りを見ればちゃんと皆がいるのに、気配は全然しない。今も見失いそうで怖い。……これが、両国お抱え特殊部隊の実力か。

 墓場について少しすると、神座が小声で言った。


「気配も消せない低能が……結界展開!行きますよ!」


「みぃつけたぁ!」


「それは……こっちの、セリフだぁ! 引っかかったなアホが!」


「なにぃ?!」


 長内はいつの間にか魔具から取り出していた大きな大剣を使って悪魔の右腕を切り落とした。だが、回復力の高い悪魔は右腕をキャッチし、またくっつけた。


「少しは骨のありそうな相手じゃねぇか!!」


「油断しないでよぉ? 死んじゃえ!」


「神の御加護を!」


「水よ!」


 右腕が完全に再生する前に、全求とオルレアンとリーベが魔法を叩き込む。結果、中途半端に再生された右腕はプランと垂れ下がっている。悪魔も魔法で攻撃するものの、かわされている。だからといって回復に専念すれば、容赦ない攻撃が飛んでくる。悪魔はもう詰んでいる。…のになにか、おかしい。


「……?」


 嫌な予感がして全求を見ると、その後ろに、今にも襲い掛かりそうな子供が、いた。


「全求!!」


「……え? せん、せい……?」

 

 とっさに攻撃を庇うと、右腕を思いっきり切られた。どくどくと血が流れ出て……ちょっとまずいかもしれない。腕、取れかけてる。


「マツリ!!」


「アン、先生の治療を! 龍を除いた他のメンツは新しい敵に向かって!」


「了解」「わかり、ました」「わかりました!」「わかった」「りょーかい!」


「鏖!返事は?!」


「わ、かった!」


「まッ……うぐぅ……っ!」

 

 ちょっと待て! たった2人で悪魔に向かおうなんて無茶だ! 叫ぼうとしたけど、右腕の痛みで意味不明な呻きしかでなかった。情けない……。


「無理に喋らないでください! 今傷を治療します!」


「グッ……長内と、神座が……2人だけじゃ……」


「2人なら大丈夫。ムライマーの最強コンビですから。それより、自分のことに集中してください」


 そんなこと言ったって心配だろう。たった2人で悪魔と対峙するなん……て?


「はぁぁぁぁっ!」


「燃えろ!」


「ぎゃぁぁぁぁっ!」


 え? 全然苦戦してない……むしろ善戦してる……? これが、ムライマーの最強コンビの実力か……?

 もう片方の方は……


「よくもマツリを!」


「いや、マツリ無傷だから。土よ!」


「さっさと、死ね!」


「ぐぎゃぁぁぁ!」


 うん! 余裕だな……! なんてこった……僕は完全にお荷物じゃないか!


「オルレアン……僕のことはもういいから、皆に加勢してやってくれないか」


「すみません、私の仕事は先生の護衛ですので……」


 生徒に護衛されてるの僕? 情けないにも程があるだろ! このままで終われるか! 急いで体内魔力を確認する。

 うん、まだまだいける。杖の足を叩きつけて魔方陣を展開する。


「?! 先生、何を……っ!」


「嘘……光属性の大規模魔術……っ?!」


「あの先生何者だよ!」


 悪魔は2体とも消耗している。これならいける!


「光柱顕現!!」


 光属性の柱を顕現させる魔術……! 今の消耗した悪魔程度なら消し飛ばせるレベルの魔術だ! 


「消し飛べぇぇぇぇ!」


 眩い光が辺りを包み……光がやんだら、そこにはもう何もなかった。


「う、そだろ……マジでやりやがった……」


「あんな、大規模魔術なんて……得意属性でもやっとってレベルなのに……」


「得意属性のない先生が、なんで……」

 

 得意属性がないことがなぜバレているのかは置いておくとして、やっと終わった……。僕、ほとんど何もしてないのにめっちゃ疲れた。


「結界解除……皆、お疲れさまでした」


「先生~なんだよもー!あんな隠し玉あるなら教えてくれよな~!」


「いーちゃん、あんがと~!こんな早く寝れるなんて思わなかったよ~!」

 

 なんだか生徒との距離が縮まった気がするから……よかったのかな? 




そんなこんなで僕の初任務は終わった。


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