なぜ?
な…にを言ってるの?この人…
リンカ?
リンカと言った?
え…?リンカ!?
「な…ぜ…
なぜリンカなの?
セシルは?
セシルとは…どうなったの?」
カリイナが絞りだすように発した言葉を聞きルシファーは怪訝な顔をする。
「変なことを言う。セシルとどうなったかは君が一番よく知って…」と言いかけて彼は思わず息を飲み口に手を当てた。
「そうか、君は…
君はあの手紙を見たのか。
リンカが偽造した手紙を…」
今度はカリイナの方が眉間に皺を寄せ、えっ?と声を漏らした。
「偽造…?」
「そうか、そうか!
どうしてそこを疑わなかったんだろう!
本当に僕は単純だな!」
そう言ってルシファーは自分の腿を数回叩いた後笑い出した。
「僕は君が残した言葉を信じ、傷ついていた。
リンカとのことを疑い僕を嫌いになったという」
「偽造って…なに?」
ガタガタとカリイナの奥歯が鳴る。
これから聞かされるであろう話の内容を予測して。
「ああ、あれはね…」と言いかけてルシファーは逆に質問する。
「君、いつどこであの手紙を見たんだ?」と。
この質問にカリイナは答えない。
「まあ、そんなことはどうでもいい。
あの手紙はセシルからの手紙なんかじゃない。
あれは僕と君の仲を裂こうとしたリンカがセシルの筆跡を真似して書いたものだ。
僕をセシルの元に走らせようとして。
自分を解雇に導いた君への恨みから」
「そ…んな…」
天と地がひっくり返った。
それくらいの衝撃を受けた。
カリイナは頭の芯がクラクラして体の平行を保っているのが困難になってきた。
今はまだ倒れるわけにはいかないと自分に言い聞かせながらやっとの思いで立っている。
「だ…めよ。
ルシファー、リンカなんかと結婚しては…」
か細い声で訴えたカリイナに対してルシファーはきっぱりと言った。
「君にそんなことを言う権利はない!」
カリイナはルシファーに対抗するように今度は大きな声で叫んだ。
「リンカと結婚しても幸せになんかなりっこない!」
この叫びをルシファーは意地の悪い顔で聞く。
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
「わかるっ!
だってそんな卑怯なことをする人よ!?」
必死な形相で自分に詰め寄ってきたカリイナの両腕をがっしり掴んでルシファーは言う。
「いや、君はなにもわかっていない!
わかっていなかった…
突然世の中からはじき出されひとりぼっちになった僕は心を許し寄り添える存在が欲しかった。
決して自分を捨てない相手が。
僕は恋人に人格は求めない。
大事なのは好きになれるかなれないかだ。
側にいてくれるかいてくれないかだ。
生涯を共にする相手として屋敷に来たばかりの君に物足りなさを感じていなかったと言えばそれは嘘になる。
けれど君はいつのまにか静かに心に入り込み、僕の大切な人になっていた。
僕は君の隣で目覚める朝がくるのが待ちきれなかった。
けれど君はそんな僕をあっさり捨てた!自分勝手な思い込みで!」
ここでルシファーは掴んでいたカリイナの腕を捨てるように離した。
「さっき理解したよ。
あの手紙をセシルからのものだと信じた君は、多分僕とセシルとの復縁の邪魔にならないように身を引いてくれたんだな?
君のことだ。もしかしたら屋敷を出てからも僕の幸せを祈ってくれていたのかもしれない。
けどそれがなんになる?
そんなことで僕の寂しさは埋まらない。
いじらしく遠くで想ってくれる女なんかいらない。
悪さをしてもそばにいて、自分にしっかり向き合ってくれる伴侶が僕は欲しい。
カリイナ、リンカはね、わざわざN村まで行ってそこでセシルの情報を仕入れ君と僕の仲を引き裂くための作戦を考え、それを実行すべく危険を犯してあの日屋敷に忍び込んだんだ。
すごいエネルギーだ…
そのエネルギーに僕は惹かれる」
カリイナの唇は完全に色を失っていた。
そんな彼女を気づかうことなくルシファーは言い放つ。
「僕にとってリンカは充分かわいい」
遠目で二人を観察していた下宿屋の仲間たちは何か様子が変だと思う。
期待して待ってるのだが、いつまで経っても恋人同士のロマンチックなシーンにならない。
むしろ喧嘩をしている雰囲気だ。
なんとなくカリイナの危機を察した姐さんは「ヒースさんを呼んでくる!あんたたちはこのまま見張ってカリイナに何かあったら助けに行きなっ」と言い残し走ってヒースを探しに行った。
「なんて…馬鹿なの…?」
そのカリイナのつぶやきはとても小さい声だったのだが、ルシファーはちゃんと聞き取った。
彼は自分のことを言われているのだと思った。
けれどカリイナのその言葉は己に向けられたものだった。




